歩く人

今日は物がよく乾いた。
喉も渇いた。
ビールを飲みながら、作戦。
着心地のよいものを作ろう。
ストックされたお気に入りの生地。

作るために買うことが少ない。
惹き合うように、出会った(と思える)布を買っておく。
ある日取り出して、体に巻きつける。
鏡の前で、あれこれと形作る。
そのうち。
生地が言い出す。

こういう形のスカートになりたい。

ワンピースがいい。

まだこのままでいる。

・・・そうか。


アルベルト・ジャコメッティ。
スイス生まれの現代彫刻家。

彼の特別展の入り口、初めて出会う作品。

薄く作られた、人の横顔。
そこには、長い、長い、長い、鼻。

瞬間、聴こえたのだ。

「もっとだ。いや、ちがう、もっと・・・もっと・・・」

聞いてしまった。
ジャコメッティの呟きを。

製作現場が見えた。

彼は、自分の見た横顔を作っていた。
彼の脳裏には、高い鼻が見えた。
鼻を作り出す。
だが、もっと高かったのだ。
彼が見た鼻は、彼の記憶の中で、こんなバランスではなかった。

もっとだ。

鼻を伸ばす。脳裏の鼻と重ね合わせる。

いや、もっとだ。
もっと、もっと・・・


衝撃。

作品の中に、その時の彼がいる。


見終えて彼の解説を読む。

「絶対」を求めた彫刻家。
ピカソ、サルトルを驚愕させた彫刻家。
１０００年生きたい、せめて５００年、
そうすれば、相当進歩できると言った彫刻家。

自分の意思以外のところで、
どうしてもやめられない、駆り立てられる何か。

誘われて、興味のないまま入った美術館で、
私は、好き嫌いを超えた関わりを知った。

今でも”ジャコメッティを好きなのか”
私はわからない。


夏のしつらえに、間仕切りのカーテンを替えよう。

本当の彼のことなどわからない。
風が入ってくる。

ゆったりとしたシャツを作ろう。

アルバート・アインシュタインの晩年の言葉が蘇る。
彼も、求めてやまない人だったな。

さて、伸びデモするか。