スペシャルサンクス・トゥ・違和感を与えて呉れた総ての人たち、其之壱

2006-06-01 20:18:07 | 小説
汗ばんだ掌の不快感が齎す、集中する意識の遮りを強制的に拒絶するようにして、オレは、両手で握り絞めたる拳銃のその引き金を、右手人刺し指に拠って渾身の力を込めて手繰り寄せ、銃口から弾丸を解き放ち、男の脳髄をブチ抜いた。

なんてな感じのハードコア・ギャングスターが活躍するテレビ映画。
そんなんさぁ、リアルさがないよ、リアルさが。
私小説的方法論とエンターテイメントの差異を理解していない?ああー、そうですよ。語彙は貧困で、賢くはないのにたまに文章中小難しい気取ったインテリ崩れの振りをしたような誰も知らない難読文字が表れて、わけのわからない稚拙なレトリックを駆使して誤った文法の遣い方をし、誤字誤植だらけの腐れ駄文を書き嬲る、つまらぬど腐れ駄文書きで御座いますよ。ああーそうですよ。斬新な構成と思っているのは本人だけで、如何にもありがちな、寄せ集めの哲学を駆使して展開する回想で成り立たれたる、サブカルチャーに被れ異形のものに憧れる本当のところは何もないのに自分には何か特別な才能があるんじゃないか?と云う過信のもとに奢る若者、『特別な僕ら』の群集が産み堕としたものたちに埋もれるでしょうよ。こんなの。「なんだこりゃ?」って思った?今。いいよ、それで。玄人の評価なんてアウト・オブ・サイト。素人の評価なんてのもアウト・オブ・サイト。如何でもいいんだ、そんなの。どーせ、太宰にも安吾にも織田作にも成れやしないんだから。誰にも知られず埋もれていくだろうよ。それに勿論、オレの人生なんて、薄っぺらい書き損じばかりのくしゃくしゃな広告の裏の如くですよ。はい。厭なことからは、只管逃げてきました。だから?それが何か気に障りますか?いけませんか?痩せ我慢もした事ありません。女の人の手前、恰好つけて男らしいところを見せようともしません。否、ありません、男らしいところが。そして、厭なことは、厭。と言ってしまいます。呟くように。よく言われる科白は、「もっと頭使えよ、この莫迦!」。そうです、私は、空気を読めない男です。
それでもね、日常の些細に一喜一憂して、なんだか楽しいよ。たまには、いいことあるし。

「オレには、あいつらの淀んだ眼には映らないものが、見える。」

大体さぁ、至極普通の日常生活を営んでいて、何処で拳銃を手に入れるんだよ?それ以前に、殺したい程厭ったらしい奴なんていないし。あわよくば死んで欲しい奴とかはいるけどさ。会社を乗っ取ったりする糞ファッキン政治家とかさ。(堀内光雄、テメエだよ!)それに、閉所恐怖症だから、監獄なんかに入れられたら発狂するかも知れないし、日本のポリスは優秀だから捕まるわけがないなんて意識は毛頭ないし、刑務所の中では兎のように弄ばれそうだ。
そんで、何だこの女?って、ヒロインか。可愛いか、コレ?畸形だろ?上目遣いで、「はいですぅ。」なんつって小気味悪いし。
大体、出逢いからして御都合主義なんだよ、ったくよお。地下鉄に連なる階段の途中、男は降りで女は昇りで、踊り場で擦れ違い様にぶつかり合ったのだが、その衝撃と痛みを払い除けるが如くお互いに好意を露にした、「すいませんすいません、あは。あは。」なんて、微笑みコミュニケーションを取り交わし、意気投合した後に、オシャレなカフェでオシャレなディナーを食し、連絡先は交換しなかったのだけれども、その三日後に劇的且つ偶発的に二人は再会し、運命を感じずにはいられず、そのまま呑みに行きファックし、なんだかんだありつつって、そんなんあるかよ!初対面の席では、「お口に御飯粒、付いてるよ!」なんつって、男の口元から盗んだ米粒を喰いやがったぜ。気持ち悪ぃ女だ。大体、初めて逢ってこんなことする女いるかよ!それに、いても異常だろ?って、今度は、男が指先を怪我した途端、咄嗟にその指を咥えやがったよ。うわぁー。って、オイ!それで主人公の男よ!そんなんで、「ぽっ。」って、なってんじゃねぇよ!莫迦か!それに、厭がる女を無理矢理陵辱して、なんでこの主人公は滅茶苦茶に惚れられてんだよ、ワケわかんねぇ。ワケわかんねえ。この女は、ド・マゾなのか?終いにゃ、背中越しに抱き寄せちゃって、女の髪の毛咥えてりゃ世話ねぇ!そんなんオレがやったら、背負い投げされるわ!「じゃあ、オレ、そろそろ行くわ…。」って、行ってろ!ボケ!物語進行に於ける阻害要因は、蟲けらの如く殺されるし。滅茶苦茶だぜ。
なんて、ぼそぼそ呟いては指摘していたら家事に従事していた母親に、「うるさい!そんなこと一々言わなくていいから!」って言われたのは、リヴィング・ルームで。時刻は、二十二時三十五分。言わなくてもいいことについて、只管文句を言い続ける?それって、オレの大嫌いな、『しゃべり場』と同じじゃん!
まあね、まあね。リアルさがない、リアルさがないなんて叫んでもさ、オレの生活のリアルさなんてさ…。
「くわぁ、空虚だなぁ。」なんて、遠い眼をして呟く程に、オレの心は虚無的感情に充ち満ちていた。って、感じ?「ココロのスキマ、お埋めします。」なんて名刺を、漆黒の背広を身に纏いし黒いセールスマンに手渡されたのなら、「よろしくおねがいしまっす!!」と、勢いよく頭を垂れていたことだろう。それ程迄に、虚し過ぎたのよ、ここ最近!

元はと云えば、あのポルノ・フィルムが悪いのか?

生きてゆく糧、偶像崇拝の対象として崇めていたのは、S.E.と云うノイズ・パンク・バンドのヴォーカリスト。そして、その影響下に在るオレの生き様。なんて、大それたことは言えないけれども、全身を覆う、黒ずくめで(多少)反社会的な衣装は、少なからずとも影響されたわけ。時代遅れのパンクスに、オレは成り下がった。
パンク・バンドS.E.のヴォーカリスト威爾ナヲは、最初、前衛藝術の分野で活動を始め、その後、ポルノ女優となり引退、バンド活動を始めた。容貌は、漆黒の衣装を身に纏い華奢な女性であったが、身長は六尺程度もあった。気合いれてびっしりと刻み込まれた観音様の和彫りは圧巻で、その威圧感には平伏すしかなかった。衣装の束縛着は、隷奴に成り下がりもがく栄光と、自己を棄て去る名誉を示唆しているようだった。
「織田裕三の家の郵便受けに反吐を引っ掛けてやるわ!」と発言したり、インタビューで名前の由来を訊かれて突然帰ってしまうなど、スキャンダラスでエキセントリックな言動も目立ったが、フォロワーやファンに対しての発言は、極めて真摯だった。殊に叫んでいたのは、「やりたいことをやれ!」って、こと。
或る雑誌のインタビューでは、こう答えていた。
「映像世界に何の希望も持てないし、音楽なんてもう模倣でしか存在し得ない、文学なんて下らないし意味がない。心象風景の具現化に拠る藝術的表現に於いては、先人の作品から何らかの影響を少なからず受けた模倣品に過ぎないわ。しかし、そこに偶然性が加わり、超個人的独白に結実して藝術作品が完成される。アタシのアイデンティティ?そんなものはないわ!でも、今までして来たことに後悔はない。やりたいことをやっただけ。嗚呼、何かに真剣に取り組んで、「夢の為に努力してます。」って、顔してる若者がムカつくわ。夢は信じていてれば、いつか叶いますよ?莫迦じゃねぇ!?夢を売る商売なんて、ペテン師だと思うわ。どんなにがんばってみても、殆どの人間が、何れ暮らしの果てに散るのよ。そして、どんなに美しいものも、どんなに醜いものも、時が総てを壊す。でも、こんなことほざいていても何も変わりはしない。大人っぽいんだか子供っぽいんだか判然としないバンド名の音楽を聴いて、「いいよね。」「なんだか、いいよね。」なんて呟き合っているアベックなんて死ねばいいわ。そんな暇あったなら、アタシたちの音楽を聴いて欲しい、一曲でも。メジャー・シーンに興味はない。契約などせずに、自分たちが創りたい音楽を創り、それを必要とする人が一人でもいればいいの。そんな人がいる限りやり続けたい。そして、アタシたちは、一部の特定的な人間だけに聴いてもらうんじゃなくって、色んな人たちに聴いてもらいたい。総ての人たちの心を音楽で変えることは不可能だろうけれど、一人一人、一寸ずつは変えられると思うの。」
ヌード・モデルや前衛藝術家らと結成されたバンドでの活動。その音楽は、絶対的な既存の法則に決して則られることのない音楽性も露、そして、不協和音の塊のようで、オレは酷く衝撃を受けた。既成概念に囚われると云う呪縛を解き放つべく、啓示(と言ったら、大袈裟だが)のように感じられた。
内臓を口から吐き出そうとしているような咆哮、若しくは断末魔の叫び声、のようなトラックもあれば、獣人の唸り声の如くに、「殺してやる殺してやる殺してやる…。」と、延々叫び続けるトラックや、電子音のように無機質な声色で、「愛してる愛してる愛してる…。」と、淡々呟かれるトラックなどもあった。家庭内暴力を振るう中学生が絶叫しながら金属バットを振り回し、食器棚を破壊しているようなものもあった。
『I (Don’t) Love N.Y.』。911以降のアメリカの正義を大胆にコラージュした作品。そのプロモーション・ヴィデオのラスト、逆さに吊るした星条旗を燃やすシーンは、マジ、鳥肌ものだった。
そして或る日、S.E.の狂信的信望者の一人が、精神に異常を来たした。啓示を受けたと語るその電波系狂人は、人類は核戦争に拠って一度滅亡し、それを神の手に拠って修復されたものが今在る現実世界である、と主張した。その際、生贄として、自らの家族の命を神に捧げるべく約束を取り交わしていた狂人。代償として一家を惨殺し、我が尽力で平和を取り戻したのだ、と陰鬱なる昂奮で話したらしい。三面記事に掲載された狂人の写真。西洋の悪魔のように奇妙に垂れ下がる鼻先は、男性自身を思わせた。しかし、その狂人は犯行当時、心神喪失状態であったと鑑定され、直ぐに釈放された。
バンドは、遺憾の意を示したが、ワイド・ショウの恰好の標的、餌食となった結果、解散に追い込まれたのだった。
そして、今日に至る。表立った活動は見当たらない。
一時期、自らをangel with dirty faceと云うソロ・プロジェクト名として改名するも、浸透せず、誰もそうは呼んで呉れなかった。言い難いし。


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