以下引用 東京新聞Web 2016年3月3日 朝刊 http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201603/CK2016030302000138.html
手話を日本語と同等の独自の言葉と認める「手話言語法」を作ろうという動きが広がっている。法制定を国へ求める意見書が三日、栃木県芳賀町議会で採択される見通しで、全日本ろうあ連盟によると、国内に千七百四十一ある全ての地方議会で採択が完了する。機運は高まるが、国は法制定に後ろ向きだ。 (皆川剛、後藤慎一)
◆きょう採択出そろう
ホワイトボードに掲げた栃木県地図に、青いシールが一つだけ張られている。残りは赤、赤、赤…。
宇都宮市の県聴覚障害者協会。手話言語法制定を求める意見書が県内の議会で採択されるたび、「達成」を示す赤いシールを張ってきた。「未了」の青いシールは芳賀町だけ。
芳賀町では手話通訳を置くための予算増加への懸念などから、二年前に意見書が不採択になった。町に繰り返し足を運んだ事務局長の渡辺純子さん(55)は、三日の採択を前に「今までで最高の日になる」と喜ぶ。
手話言語法は、全日本ろうあ連盟が二〇一二年に法案を作った。手話を言語と位置付けた障害者権利条約が〇六年に国連で採択されたことを受けたもので、二十一条から成る。重点は、手話を日本語と同等に位置付け、ろう児を対象にした特別支援学校などで必須教科として教えること。国や地方自治体には、手話での情報提供を義務付ける。連盟が地方議会へ働きかけ、一三年の石川県白山市議会を皮切りに各地で採択が進んだ。
全地方議会で意見書が出そろっても、法制定への道は険しい。文部科学省は「特別支援学校でも全教員が手話を使えるわけでない。生徒の障害の程度もさまざまで、必修化は難しい」と説明。議員立法に向けた具体的な動きもない。
手話の普及に向け、手話言語条例を制定する自治体も相次ぎ、都道府県レベルでは鳥取、神奈川、群馬各県に条例がある。
◇
◆「特別支援学校」で必須教科に」
相手の口元に集中し、意味を必死に読み取る。「たばこ」と「たまご」は全く同じ動き。「単語を区別するだけでエネルギーを使い果たしてしまう」。一歳の時に薬の副作用で重度の難聴になった全日本ろうあ連盟事務局長の久松三二(みつじ)さん(61)は、ろうあ者にとって手話がなぜ大切かを力説する。
手話と日本語は別の体系だ。例えば、三つの品詞で表現する「二階に上がる」は、手話では「チョキ」の形を胸の前で上に動かす一連の動作で表す。
「読唇術では単語が頭の中でつながらず、まとまった意味にならない。手話を使うことで、他人が考えていることや、いろんな考えを持っている人がいることを初めて知った。本当の意味で社会に参加できた」
日本のろう教育は、補聴器と読唇術を用い、健常者の世界に障害者を近づけようという歴史をたどった。一九二〇年代に米から音声言語を教育に用いる口話法が輸入され、当時の文部省も推進。久松さんが通ったろう学校でも「手真似(まね)をやめましょう」という標語が張られた。手話は先輩からこっそり学んだが、人目が気になり使えなかった。
連盟によると、手話を言語として認める法律を制定する国は九カ国。韓国では今年八月に施行される。
くしくも三日は「耳の日」。「手話は私たちの文化を育む言語だと分かってほしい」。久松さんは、芳賀町の採択を前にそう願う。
■手話言語法案(抜粋)
第1条(目的)
・この法律は、手話を日本語と同等の言語として認知し、ろう者が(中略)手話を使用して生活を営み手話による豊かな文化を享受できる社会を実現するため、(中略)あらゆる施策の総合的かつ計画的な推進を図ることを目的とする。
第6条(手話の習得)
・ろう児(乳幼児を含む)は(中略)発達段階に応じて手話を学習する機会が保障される。
・国は(中略)学習指導要領に手話の位置づけを策定し、ろう児を対象にした特別支援学校等においては必須教科とする。
昨日の東京新聞朝刊、1面トップです。
新聞の記者も、関係者も、さぞ大きく驚いていたでしょうね。
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