ある日の郁実さん
その日、たまたま私には用があり
やっちゃん一人だけが、郁実さんに会いに
老健へと行った
もしかして、郁実さんが老健に入居してから
やっちゃんが一人で行くのは、この時が初めてだったかもしれない
そう思うと、たまには嫁抜きの
親子水入らずも、良いものなのかなと
今更ながらに気づいたりもした
やっちゃんが出かけてから、二時間が経過していた
途中、買い物に立ち寄っていたらしく
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一時はどうなるかと思っていた郁実さんの容態も
どうやら安定したのか
翌日には郁実さん
好まなざる棟へと移って行った
取りあえず私たちは、ほっと一安心
兎も角、胸をなでおろすことができた
そんな私たちの姿を見て、郁実さんは
何か感じとるものがあったのか
それとも慣れぬ環境に、未だ気が動転しているのか
その日の郁実さんは、異常に変だった
やっちゃん「新しい棟に移ってから、次男や三男たちは・ . . . 本文を読む
それから三日が経った、ある日の事
またもや老健からの電話
看護師からだった
「郁実さんが昨夜から胸の痛みを訴え・・・様子を見る為、ナースステーションがある、元いらした病室に移させて頂きます・・そして何事もないようであれば、先日移された部屋に、又、戻ってもらいます」
そう言うと、看護師は電話を切った
直感的に、郁実さんの症状は
ストレスからきたものなのではないかと
安易かもしれないが
私 . . . 本文を読む
郁実さんは続けた
「前も後もない・・」
「どこへ行っても、変わらない・・」
「治らない・・・この身体」
私は郁実さんのこの言葉を聞いて
もしかして、郁実さんは・・・
部屋を移動することで
自分の身体も治せるのではないか
そう郁実さんは期待していたのでは
郁実さんは歩けるという希望を
まだ持ち続けていたんだと
私はその時、確信した
私は驚きと喜びのあまり
思わずその場にいた、やっ . . . 本文を読む
郁実さんが別の棟に移ってから
一週間が経過していた
そろそろ新たな棟にも、慣れてきた頃かと
私たちは郁実さんの様子を見に
老健を訪ねてみた
今度の棟は、認知棟とは違って
身体の不自由な人たちが主で
アルツハイマー病や脳血管疾患とする
精神的な患者は、ごく僅かだった
なぜ認知症の郁実さんが、ここの棟に移されたかは
特に気にはしていなかった
ただ単に、認知症患者の中でも
郁実さんは比較的大人 . . . 本文を読む