ハーバード・ケネディスクールからのメッセージ

2006年9月より、米国のハーバード大学ケネディスクールに留学中の筆者が、日々の思いや経験を綴っていきます。

アメリカが直面する最大の問題(その1)

2007年10月13日 | 日々の思い

 「アメリカが現在直面している最大の問題は何か?」と問われたら皆さんは何を挙げられますか?

 9.11以降のテロとの戦い?拡大を続ける財政と貿易の双子の赤字?加熱する移民受入れの是非を巡る議論?あるいは際限なく広がる所得格差を挙げる人もいるかもしれません。

 しかし、僕が今日取り上げる問題はこのどれでもありません。

 アメリカ社会をジワジワとしかし着実に蝕み、アメリカ経済・社会、そして財政に膨大なる負のインパクトを与えつつある問題、それは・・・

 肥満(Obesity)です。

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 アメリカを旅行する日本人が、まっ先に驚き、そして強烈に印象に残るのもの。それは恐らく、その油ギッシュな味付けと明らかに二人分と思われる量の食事でしょう。

 また、こちらで暮らしていると、信じられない量の砂糖がふりかけられた、強烈に不健康そうな着色料を使用したお菓子を、親がスーパーで平気で子供に買い与えている風景をしばしば見かけます。また、ジムでコカ・コーラをグビグビ飲みながら一生懸命走っている人を見かけて何とも言えない気分になることもよくあります。

 「こんな不健康そうな油と砂糖を大量に使った食事・飲み物をバクバク食べて、本当に大丈夫なのだろうか・・・」

 という日本人の直観的な疑問・不安は、関連の統計を見るにつけ、的を得ているものであることに気付かされます。

 例えば、アメリカ疾病予防管理センターCenter for Disease Control and Prevention)の統計によれば、アメリカ成人人口の実に64%が過体重(Overwight)であり、31%が肥満(Obesity)であるとされ、実に5900万人に上りますそしてこの数は20年前と比較して2倍近くに激増しており、肥満傾向は所得や年齢層をとわず上昇しているというのですから、正に国民病と言えるでしょう。

  ただ、単に「過体重」や「肥満」と言われても、一体どの程度の状況なのかよく分かりません。そこで、こうした分類に使われるのBMI(Body Mass Index:体格指数)と呼ばれる【体重(kg)÷身長(m) ÷身長(m)】で算出される指標に注目したいと思います。

 例えば僕は体重が68キロ、身長が177センチなので、68÷1.77÷1.77=21.7という数字が出てきます。

 では、僕がアメリカで「太り気味」あるいは「肥満」に分類されるには体重を何キロまで増やさなければならないでしょうか??疾病予防管理センターの基準では過体重(Overweight)はBMIが25~30、肥満(Obesity)はBMI30以上とされているので、逆算すると・・・

 過体重になるためには最低10キロ(計78キロ)、肥満に届くには最低26キロ(計94キロ)増やさなければならない計算です。

 こうした状況になると当然糖尿病、高血圧、さらには心臓発作といった症状を引き起こしやすくなります。現に、肥満を原因とした疾病の多発により、医療費も増加の一途を辿っており、州政府と連邦政府の折半で提供される低所得者向けの医療保険であるMedicaidの財政は圧迫され続けています

 さらに深刻なのが子供たちを取り巻く状況。

 2006年8月20日付のニューヨークタイムズ紙は、現在全米の17%の子供たちが肥満であり、将来30%から40%の子供たちが糖尿病を患う可能性があること、その結果、現在の子供世代の平均寿命はアメリカ史上初めて、親世代と比べて短くなることが予見される、という疾病管理予防センターの調査結果をセンセーショナルに報じました。

 途上国では飢餓で多くの人が命を落としている一方で、世界で一番豊かなアメリカが、あるいはそれ故に肥満というNational Crisisに直面しているというこの皮肉な状況。しかし、一体何故このように肥満が蔓延してしまったのでしょうか?(つづく)

 

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