ハーバード・ケネディスクールからのメッセージ

2006年9月より、米国のハーバード大学ケネディスクールに留学中の筆者が、日々の思いや経験を綴っていきます。

Korea Japan Trip 2007 (その9:最後の夜)

2007年03月31日 | Korea-Japan Trip

 夢のようだったKorea Japan Tripが終わり、ケンブリッヂでの生活、そしてケネディスクールでの慌しい日常に戻るのを明日に控えた東京での最後の夜。両親と弟の協力により、MPP同期の友人5名を自宅に招き、最後の一夜を同じ屋根の下で過ごす機会を設けることが出来ました。

 家の1階に雑魚寝をすることになった友人達のうち、一人は既にこのブログでも紹介したバハマ出身のグラハム。それから、ドミニカ人のローラ、エクアドル人のイェセナ、アメリカ人のゴンザロ、そして今回のトリップをともに創った韓国人の友人DWの5人です。

 皆、中間試験終了直後に飛行機に飛び乗り、韓国・日本で超濃密な6日間を過ごしてきたせいか、食べきれないほどの夕食と会話を楽しんだ後は、一様に“岩のように”熟睡していました。

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 この日の日中は、希望者を浅草や鎌倉、築地の市場などに日本人幹事が案内するオプショナル・ツアーが用意されていました。そのうちの一つが、"Tokyo Morning Walking Tour(東京、朝の散歩ツアー)"。

 何気ない名前が付いていますが、皇居の周りを散歩した後に、日韓関係に影を落とす論争的な場所、靖國神社とその横にある博物館、遊蹴館を見学するというもの。

 夕方、自宅に向かう電車の中で、韓国人のDWに「今日はどのツアーに参加したの?」と聞いたところ、「いや、それについて是非話そうと思ってたんだ。靖国ツアーに参加したんだ」という返事が。そして二人の間で交わした会話は、僕にとってこのトリップで得た貴重な財産の一つとなりました。

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DW「正直、行ってよかったと思うよ。韓国では靖國神社のことがイヤというほど報道されているし、議論されている。僕を含めた殆ど全ての韓国人にとって、靖國神社は正に軍国主義、植民地主義の根源みたいな、そんなイメージだけが先行した極めて象徴的な場所なんだよ。

 ただ、今日行って、正に“靖國なるもの”を目の当たりにして、何だか不思議と冷静な気持ちになったんだ。桜がきれいに咲いていて、普通にデートスポットみたいな雰囲気もあって、“あぁ、ここが靖國なのか”っという思いになって、何ていうか、実物を見たことで、靖國神社について客観的に捉えられるようになった気がする。

    

 一方で、遊蹴館は正直すごくショックだったよ。時間があまりなかったもんだから、前半の戦国時代の話なんかはすっ飛ばして、近代史のコーナーをよくよく見たんだけれど、とにかくすごいね。

 例えば、南京大虐殺(Nanjing Massacre)という記述はどこにもなく、あるのは「南京作戦(Nanjing Campaign)は成功に終わった」という説明。中国人の友達と二人でショックを受けてしまったよ。あの博物館には20世紀前半の日本の行動が、反省の対象である侵略戦争だったという位置付けはどこにもされていないね。

 何よりもショックだったのは、大勢の子供達が親に連れられてあの博物館で歴史を教わっていること。

    

 僕は、僕の中での反日感情に決着をつけるのにすごく時間がかかったんだ。色々勉強したり、本を読んだり、旅行をしたりする中で、思想が右に行ったり左に行ったりしたこともあった。

 最終的には、韓国の対日観も歪んでいて双方が正すべき所を正していかなければならない、っていう思いに至って、その時以来、韓国の子供達や学生に、韓国の見方だけで日本を見るのは良くない、ということを語り、韓国と日本が本当に成熟した関係を築くことが出来るよう、僕なりに小さな努力を続けてきたつもりだったんだ。

 でも、当の日本のほうがこれじゃぁ、僕のこれまでの思考の葛藤や努力は一体なんだったんだろ、、、って何だか悲しい気持ちになったよ。」

僕:「率直に気持ちを語ってもらえて嬉しいよ。確かにあの博物館の記述の多くは、君が指摘したように、戦争を正当化、美化するような内容であることは間違いないよ。ただ、あの博物館に提示されている歴史観が日本人一般の歴史観であると考えるのも大きな勘違いだと思うので、そこは是非、僕の話を聞いてもらいたい。

 まず、あの博物館は論争的な場所として日本人に知られているけれど、決して、いわゆる人気スポット、一般的な博物館として捉えられてはいないということ。あそこの博物館の内容が歴史教科書にそのまま書かれているということもないし、あの内容を鵜呑みにしている人は多くないと思う。

 それから、一緒にいなかったので何ともいえないけれど、博物館での親子の会話は、僕が察するに、おそらくそのお母さんは、戦争や軍国主義の賛美を子供に教えていた訳ではなく、日本がアメリカや中国と戦争をしたということ、戦争は良くないという事を教えていたのだと思う。僕の主観になるけれど、それが日本の大人が子供に近代史を教えるときのスタンダードだと思う。

 もっとも、「戦争はよくない」ということに留まり、南京の話や韓国の植民地化の詳細については、意図的にか、あるいは教える側も無知・無関心なのかは分からないけれど、深く教えることをしていないのもまた事実だと思うけれど。」

DW:「ふーん。それを聞いて少し安心したけど、でも、一体あの博物館の価値って何なの?学ぶべきものはあるのかな?」

僕:「そうだね。例えば、君も見たかもしれないけれど、あの博物館の最後のコーナーには神風特攻隊に志願して亡くなった若者達の遺書と写真が並べられているだろう?

 僕も去年のちょうど今くらいの時期、遊蹴館をはじめて訪れたとき、遺書を一つ一つ手にとって読んでみたんだ。その内容は、別に軍国主義を礼賛することでも、敵を倒しにいくことへの興奮が書かれている訳でもない。もっと、人間的な美しいものだったよ。

 自分の母親、奥さん、あるいは生まれたばかりの赤ちゃんのことを思い、彼らを残していく事を悔やみ、悲しみ、しかしそれでも、彼らを守るため、自分を育んでくれた田舎を守るため、さらには日本の将来を守るため、敢えて自分の命を賭して神風として逝く道を選んだことが書いてあるんだよ。

 自分の身を犠牲にして、自分以外の誰かを、文字通り命がけで守るという先人がいたことに思いを馳せるのは、軍国主義とかそういうこととは次元の違う、韓国でもアメリカでも共通した大切なことなんじゃないかな。

 日本は戦後“平和ボケ”している」とよく日本人自身がややシニカルに自分達のことを表現するのだけど、そうした雰囲気の中であそこに並べられた遺書にふれることは、一般的な現代日本人があの博物館で学べることの一つだと思う。」

DW:「なるほどね。でも、こういう会話が出来るってのは本当にいいな。色々難しい問題があるけれど、俺が君の事好きで、君が僕のこと信頼しているのは、変わらないしね。」

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 ケネディスクールの仲間5人と、久々に中央線にゆられながら思いました。

 日韓関係にせよ、日中関係にせよ、お互いをより深く理解するためには確かに論争的な話題を避けられない。

 しかしその前に、まずはカラオケでもいい、焼肉でもいい、時間を共有して友情を培うことが大切なのではないか。その友情の上に立てば、論争的な話題を議論する時にでも、個人の話と国レベルの話とを区別した上で、相手の思いや主張にも冷静に耳を傾けることが出来る。

 ケネディスクールに留学するに当たって一つの目標、

 「論争的な話も冷静に出来るような本当の友情・信頼関係を韓国人・中国人の友人との間で創る」

 この一部を達成する大きなきっかけが、Korea Japan Tripのお陰でつかめたように思います。


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9 コメント

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Unknown (Satsuki)
2007-04-19 22:38:36
 「遊就館」ですね。以前、韓国の知人(学生運動で投獄経験のある、左派に属するであろう人です)とやはり靖国に行った所、戦地の兵士が故郷の母親に宛てた手紙の展示には感ずるところがあったようでした。

 「論理的な話も・・・創る」という目標、もちろん素晴らしいことで、有効な手段だとは思うのですが、一方でなぜ中韓に対してのみ個人にすら「国家」が被さってくるのかと、趣味で両国を見ている身としては思うのです。また、個人的な友情がなければ個人と国とを区別できず、相手の話を冷静に聞くのは困難なのかとも。一般的には、現状はそうなのだろうと分かってはいるのですが。
二重投稿 (Satsuki)
2007-04-19 22:40:21
 なぜか二重投稿されてしまったようです。片方及びこのコメントを削除して頂けますか?
ikeikeさんへ。 (kaza)
2007-04-21 17:34:34
がんばってますね~。
たまにブログ見させてもらってますが、読みがいのある文章ですねぇ。
なかなか興味深いです。
いろいろ考えさせられることもありますが、ここでは挨拶のみで。

なお、僕は京都でそこそこ頑張ってますが、気づいたら大学の教員になってました。
様々な枝分かれ人生を歩みつつ、結局自分の本来の専門分野です。
まあ、完全に落ち着いたわけでもないので、またどこかに拠点を移す可能性も無いわけではありませんが。

またそのうち会いましょう。
奥さん共々お元気で。by高校テニス部の一員
はじめまして。 (netaro)
2007-04-22 04:09:27
こんにちは。はじめてコメントしますnetaroです。
将来留学したいと思って検索しましたら、ikedayさんんのブログにいきつきました。TOEFLの勉強に苦労しているところで、このブログをみて励みにしています。
 私も韓国の学生と領土問題について議論したことがありました(しかも2004年というバッドタイミングで)。ニュースで彼らが感情的に反日デモをしている光景をみて、彼らと冷静な話ができるのかと不安でした。しかし、実際話しあってみると、私たち以上に冷静に論理的に意見を述べる人ばかりでした。それでも親族に日本兵士から殺傷されたという人が感情を抑えきれない場面はありました。日本と韓国では良いにしろ悪いにしろ歴史教育で培われた価値観や思いが違うんだなと実感できました。一方で、私たちは飲食や日本観光を何日か共にしていたので、どんなに議論が泥沼になってもそれと友情は別だという確信がもてました。最後は結論が出ませんでしたが、お互い涙を流して別れることができました。
そういう経験からikedayさんのおっしゃることに深く共感できました。拙い英語しかできない私よりもikedayさんのほうがもっと深い話ができることでしょう。毎日お忙しいでしょうが、どんどん海外留学生との対話を楽しんでください。日本から応援してます。
たぶん会いました (WHY)
2007-04-22 05:56:29
日本に潜伏しているとは知りませんでした。
先日、電車の中で非常に良く似た人を見かけましたが「今、ikeday_1977氏が日本にいるはずがない」ってことで他人のそら似だと片づけていました。

リアルikeday_1977氏だったんですね。。。
声を掛ければ良かったっす。...orz

てゆか特徴的なikeday_1977氏がこの世に二人もいたら・・・以下、自粛。

靖国神社については同感。
遊蹴館については、今年初めて行きました。(↓)
http://naze.nazo.cc/blog/200701.html#20070105450

どんな国にも歴史の恥部というのはあるでしょうから、「今」その「場(国)」に存在する人同士がどう思うか、どう思えるか、なんでしょうかね?
アヘン戦争なんて「ヤーさんですか?アナタ?」みたいなインネンつけてやっちゃった、みたいな戦争ですし。
当の韓国だってベトナム戦争では・・・。

ただ一方で、嫉妬と羨望は紙一重なのかな?って気もするので、日本が諸外国からそう言われることについて、日本も一歩進んだ歴史観や倫理観を持つ必要がまたあるのかな?という気もしています。
>Satsukiさん (ikeike)
2007-04-23 10:47:15
こんにちは。非常に示唆的なコメントありがとうございます。なぜ、中国人・韓国人と接する時にのみ、個人の間にすら国家と歴史が影を落とすのか・・・僕の短い経験では中々答えは出ません。
一般的には双方の歴史教育のあり方に答えを求めるのでしょうが、実際に中国・韓国の歴史教科書を読んだことがない身としては何ともいえません。
今後も中国・韓国の友人達を増やし、彼らと時間を共有する中でその答えを見つけていきたいと思います。
>kaza (ikeike)
2007-04-23 10:58:42
おー、本当に久しぶり!結婚式以来だね。元気そうで何より。ブログを読んでくれてコメントまでくれてかなり嬉しいです。
僕はまだまだ自分の専門が何かも決めあぐねていて、ご覧の通りアメリカで色々トライしている最中です。このままだと一生“専門”が決まらないまま終わるかも知れん・・・と最近ちょっと焦り気味です。一方で、“専門”なんてなくてもいいのさ!と開き直り気味の自分もおります。
ではまた。帰国後また皆で飲みたいね!
>netaroさん (ikeike)
2007-04-23 11:05:41
はじめまして。ブログを読んで頂き、コメント有難うございました。このブログでも触れましたが、中国・韓国の若者が総じて日本の若者よりも近代史について強い問題意識を持っているのは間違いないと思います。一方で、歴史観について「結論」を出す必要は必ずしもないのかも知れないとも最近思っています。お互い、どう考えているのかをお互いの立場に立って素人努力できる関係になることが大事なのかなと。

留学に向けて準備頑張ってくださいね。僕も海外経験の一切ないDomestic野郎だったため、TOEFLはかなり苦労しました。このブログでも今後、留学までの道のりを綴っていきたいと思っていますので、今後ともよろしくお願いします。
>whyさん (ikeike)
2007-04-23 11:17:06
久しぶり。コメント有難う!見かけたなら声かけてくれればよかったのにー。本社にも許可を取っての帰国なので、本当は皆と久しぶりに会って飲む時間とかあればよかったのだけれど、ブログにも書いたとおりスケジュールがパンパンで余裕がぜんぜんありませんでした。。
歴史観については同感です。色々見方はあるけど、まず無知・無関心は少なくとも日本が「国際社会で名誉ある地位を占めたいと思ふ」のならよくないよな~と思い、勉強を続ける日々です。

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