ハーバード・ケネディスクールからのメッセージ

2006年9月より、米国のハーバード大学ケネディスクールに留学中の筆者が、日々の思いや経験を綴っていきます。

「お役所仕事」を変えるには?(その1)

2007年09月15日 | 公共組織の戦略的経営

  非効率でムダの多い業務フロー、やる気のない職員、その結果できる市民の長蛇の列と高まる不満・・・

 こんなネガティブなイメージばかりが湧いてくる「お役所仕事」という言葉。では何故このような状況が続いているのでしょう?役人が無能で市民のことを考えずに自分の保身とPM5:00きっかりに家に帰ることばかりを考える人間の集団だからでしょうか?

 非常に大胆な言い方をすればこの「お役人=ダメ」という発想に立って進める“改革”が民営化、即ち「お役所仕事」そのものを、効率的でやる気があって、顧客のことを考える民間企業に丸ごと移す方法であると言えると思います。

 しかし、「お役人=ダメ」という公式は果たして妥当なものなのでしょうか?

 1991年、米国はインディアナポリス市の市長選で正にこのような発想に立ち、「4年間で市役所職員の25%カット」を公約として戦い、そして勝利をおさめた共和党のStephen Goldsmith市長はしかし、市長として市役所職員の仕事振りをつぶさに観察つるにつれ、別な気付きを得ることになります。

 「役人が仕事をするから、非効率な「お役所仕事」が生み出されるのではない。そこに競争がないことが真の原因ではないか?」

 そして、Goldsmith市長は、この発想に立って画期的な手法、「官民協働入札Public Private Competition: a public bid」の導入に向けて動き出すことになります。

 この秋学期の授業選択にあたり、僕がまず第一に選んだコース、「Public Private Partnership(官民協働)」は、日本が「市場化テスト」を導入するに当たりモデルケースとした、インディアナポリス市の事例で始まりました。

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 この授業を担当するAlan Trager教授はモルガン・スタンレー等の投資銀行で培った金融の専門知識を武器に、ニューヨーク市やニューヘブン市、あるいはボストン市で市長のアドバイザーとして数々のPublic Private Partnershipのスキームを仕掛け、成功に導いてきた人物。1972年にケネディスクールを卒業した先輩でもあります。

    

 ケネディスクールの他の多くの授業同様、Trager教授の授業も徹底したケースメソッドを採用。授業の冒頭で学生をCold Call(事前の予告なしに学生を名指し発言を求めること)してケースの概要を説明させ、その後、様々な問題提起をしながら、学生同士、学生と教授とのディスカッションや質疑応答を通じて、そのケースから重要なエッセンスを抽出していく、という「対話式」で授業を進めていきます。

   毎回1つあるいは複数のケースを扱う訳ですから、この秋学期を通じて40以上の官民協働の事例を見ていくことになります。対象となるケースは、アメリカから始まって、ギリシャ、ホンジュラス、韓国、インドなどなど、途上国・先進国を問わず様々。また一言に「官」といっても、対象となるプレーヤーは連邦政府、地方政府、軍、国際機関など多様。もちろん、成功事例だけではなく失敗事例も数多く扱い、その中には、既にコトが終わって「ケース・スタディの題材」としてきれいに形が整っているものだけでなく、まさに現在進行中、紛糾中のドロドロの事例も含まれます。

 このような多種多様なケースを数多く読み、深く議論をすることを通じ、また「Battle of the Partnerships」というチームに分かれたロール・プレイングのセッションに参加することを通じて、

 ・ 民間セクターと効果的なPartnershipを構築していくための戦略

 ・ 民間セクターがPartnershipへ参加を考える際のIncentive

 ・ 潜在的なパートナーを発掘するためのマーケティング手法

 ・ 官民協働のスキームに不可避的にともなうリスク

等について理解を深め、実践的なスキルや視座を身につけていくことがこのコースの目的です。

   こうした「Public Private Partnership」の授業で扱う最初のケースとなったのが、冒頭で触れたインディアナポリス市の官民協働入札制度。次回の記事では、この画期的な官民協働のスキームを使ってPublic Value(公益)の増大を果たすと共に、市職員のやる気と潜在能力を引き出すことに成功したこの事例を詳細に紹介していきたいと思います。

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