001:初
初めてのブランコに似たかなしみが沈む秋刀魚の瞳の底に
002:幸
幸せな小鳥の歌う空のようお臍をうんと持ち上げる腹
003:細
ひとしきり怒ったあとの細い枝。わたしが伸ばしわたしに刺さる
004:まさか
まさかなと冷笑苦笑。ぼくは猫。みんなは犬でぼくだけが猫。
005:姿
下卑た俺(姿勢悪い)がバラバラに。ガラスのように綺麗ではない。
006:困
僻むよりなくて無茶苦茶焼いてみたクッキー。だけど独り。困った。
007:耕
実直な小さなお百姓さんが耕すように気を取り直す
008:下手
下手くそが帰れカスイネお前さえおらへんかったら ずっと聞こえる
009:寒
あいつのは寒いとほくそ笑みながら出した穢れを見透かされてる
010:駆
狂おしく裸足で駆けてくサザエさんみんなに笑われてる気がして
011:ゲーム
飽きられたゲームソフトを借りてきてとても大事に遊んで飽きる
012:堅
主体的に堅気ではないふりをして千円だそうと気張ってはみた
013:故
この人は無事故無違反。泣き出すか酔い潰れるかしかない男
014:残
無残とも言う声もする。場違いの店でいい顔繕うを俺に
015:とりあえず
とりあえずマーキングだとおはように毛の生えたほど挨拶をする
016:絹
「え?」とかいう君の言葉の絹糸に懲らしめられてちぎれるか指
017:失
喪失を飲み下しつつ夕映えて顔の見えない君へ手をふる
018:準備
悦に入っておられるところ恐縮です。殴る準備が整いました
019:層
大層なことを抜かした口臭は阪神電車の臭いに似てる
020:幻
幻だ。とんこつ醤油ラーメンもイミフメールもあなたの事故も
021:洗
プーチンはよく手を洗い水色のナイトキャップを被って眠る
022:でたらめ
でたらめに並んでいると見せかけて神の摂理に適うおばちゃん
023:蜂
陽光はあくまで静か。天窓をつらぬくすべを蜂は知らない
024:謝
謝れと氷の中で喚いてた気泡はどこへ カフェテラス4時
025:ミステリー
手の平に窪みにミステリーはある。おやゆび探偵なかゆび警部
026:震
死の震え 魚をさばく時だとか平気な顔に捩る時とかの
027:水
とりかえしつかない水に水を足す(金魚じゃないよ。でも、助けて!!!!!!!!!!)
028:説
説明は俺になかった。俺だけになかった。そして魚崎にいる。
029:公式
白鳥を連れて来たけど汚いから非公式に殺されてゆく
030:遅
順調に閉め出されてく。善悪によらずなにかと遅いやつから
031:電
鳩をとばしたらやっぱり舌打ちをされた気がして電気消します
032:町
開いたら僕がいなくて楽しげな町が生まれるケータイ電話
033:奇跡
パゾリーニ『奇跡の丘』を見るように足場が高くなるまでを見た
034:掃
《清掃中》十三駅の便所さえ提示するのにお前ときたら
035:罪
蜜と罪、裏表とかテレ東のドラマのようなギラギラを吐く
036:暑
猛暑っと頑張ろうなと声かけて殺し屋みたいな視線を受ける
037:ポーズ
ポーズだと見透かされつつやるうちに事件の人の目になってゆく
038:抱
抱き起こす春ねじ伏せる夏もえる秋うずくまる冬 蔦は似ている
039:庭
庭先にちょろっとまいた豆まきの豆より僕の夜はましかな
040:伝
伝わった(伝わってたかもしれないが)服をきちんとたたんでみせた
041:さっぱり
肘ついて新聞よんであくびしてさっぱりな店しあわせな店
042:至
駆け上がる鮮紅色のホリホック 翼は要らぬ夏至の空には
043:寿
イギリスの寿司屋は素手で握れない。俺は真顔で縋り付けない
044:護
弁当の色がきれいで冬厚着。彼も私と同じ過保護だ
045:幼稚
あたたかい雨の会話にエバミルク過ぎて紅茶を幼稚にさせる
046:奏
小麦粉と卵と砂糖と牛乳と。四重奏がふくらんでゆく
047:態
醜態を晒してばかり。金づちで破壊しないと分からない価値
048:束
ホウレン草ひと束やるよ、もう帰れ 犬の臭気の満ちる玄関
049:方法
私にも有効だった。湯につけてピンポン玉をもどす方法
050:酒
いつだって酒の力を借りている。酒は大人のドラえもんです
051:漕
燃え盛る巨大なガレー船を漕ぐ人を思って紅葉を見てた
052:芯
替え芯として捨てられてごみ箱の中にインクを少し吐き出す
053:なう
嘘の「なう」積み重ねてる。矛盾点つく人なんていないと思う
054:丼
麝香丼ここに完成。違いなど分かりたくない大人のために
055:虚
十二月虚ろな猿の目のならぶ檻の前にて零すチチボーロ
056:摘
指先は微かに毒の香をおびる。日々草の花がら摘めば
057:ライバル
友達もライバルもない。僕は猫。みんなは犬で僕だけが猫
058:帆
黴くさきテーブルクロスひろげれば帆影のような祖母の記憶が
059:騒
この秋にたぶん死なない私が生意気に聞く虫の喧騒
060:直
《死にたい》と《素直に話したい》間をスイッチバックしてゆく電車
061:有無
北風のように有無など言わせない教師にこっそりつけたカメムシ
062:墓
両隣の墓にも花を同じだけ(に見えるように)用意していく
063:丈
頑丈なはずだとか言う。俺は木の真似して出来ぬものと思った
064:おやつ
さんざんに罵りあった後に食うおやつのプリン なんでプリンだ
065:羽
最後まで見ていたけれどまた鈴木砂羽が誰だか分からなかった
066:豚
飲まされて薔薇に染まった豚の肌 肉を美味しくするためという
067:励
奨励賞 それがどれほどすごいのか分からぬままにそれぞれ帰る
068:コットン
声がする。「コットンコットンしなさんな」きっとコットンするなよと思う
069:箸
わり箸はうどんの汁を含みながら熱帯雨林の雨を思った
070:介
好きだった空も名前も武器のよう自分の中の悪を介して
071:謡
童謡の景色が胸に落ちたとき大人の君が立っていました
072:汚
汚染とは何なんだろうと腰掛ける。スーパーに並ぶ空気椅子に
073:自然
かきわけて記憶をおこす。自然薯を掘りだすように荒く静かに
074:刃
刃渡りはマイナス30センチほど。俺の言葉で血まみれになる
075:朱
乱筆を朱墨はなぞる。さわがしい烏を森へいざなう夕日
076:ツリー
クリープを四杯いれたお茶飲んでクッキー食ってツリー飾ろう
077:狂
狂ったら進めるのかな まやまやと飛びかう虫が薄暮に浮かぶ
078:卵
「はい、卵われた」と言われ初めての作り笑いを鍵盤の前で
079:雑
里山の雑木のように罪のない話をたんと楽しんだ日々
080:結婚
「結婚をしていました」と言ってみる。特に変化は見られなかった
081:配
運命の配送センター 積み荷なく出てゆく白いトラックもある
082:万
万能と呼ばれる葱の細さなど白々と見て言い過ぎている
083:溝
ひょっこりと溝から顔をのぞかせる猫がぼくらを逸らせる月夜
084:総
全国の非リア充のツイートの総重量は五トンを超える
085:フルーツ
「父親がヤクザ」と言わせ立ち上がることを策したフルーツバスケット
086:貴
「貴」の文字が腑に落ちながら受け取った名刺は行方しれずほどなく
087:閉
《閉》を押し冬は降りくる。5、4、3…… どうせあなたは綺麗のだろう
088:湧
それは豹。湧き上がるもの。春、僕を八つ裂きにしに駆けてくる影
089:成
「成人の約七割が……」どうであれ俺には都合悪い気がする
090:そもそも
もそもそもそもそもそもそもそもそうそもそもそううそもそ 起きなよ
091:債
債権者会議にお集まりの方クッキー食ってツリー飾ろう
092:念
山上の垂訓受けた人のよう記念撮影し終えた後は
093:迫
クリスマスソング流れて冴える赤 みな迫真の演技に見える
094:裂
裂けて散るかもしれないと曇天の君の眉根を注視していた
095:遠慮
遠慮され残る巻き寿司 巻き寿司を作った人は怒って欲しい
096:取
手に取れば香り重みが嬉しくて林檎をみがく眠れない夜
097:毎
駅前のパン屋が毎日開くことは尊いことと勤めて分かる
098:味
大好きと君が言ってた菓子を食う。普通だったが親しい甘さ
099:惑
ブルーベリージャムの色した困惑がうすくひろがる夜間飛行は
100:完
夏空もホットケーキも君の歌も完ぺきでしたと神さまにいう