猫研究員の社会観察記

自民党中央政治大学院研究員である"猫研究員。"こと高峰康修とともに、日本国の舵取りについて考えましょう!

インフレ・ターゲット導入をめぐり、中川・竹中VS与謝野

2005-12-20 01:30:11 | 経済全般
 中央銀行の独立性を守りながら政府のマクロ経済政策目標を達成する手段として、物価目標の導入が有効であると思う。いわゆるインフレ・ターゲットである。これは、政府と中央銀行の協定により物価上昇率を一定の値に保つように日銀が金融政策を行うというものである。自民党の中川政調会長や竹中総務大臣は、インフレ・ターゲットを導入せよという議論を展開している。彼らの論拠は「日銀の独立性は、政策の手段に限定されるのであって、政策の目的を自主的に決めることはできない」という点にある。さらには、日銀法の改正すらちらつかせて早期の量的緩和に反対している。これに対して、与謝野経済財政・金融大臣は「日銀の目標は物価の安定で、物価の安定とは、デフレでもインフレでもない状況が望ましい。その意味で、日銀は日銀法の精神で政策決定されていると理解している」としてインフレ・ターゲット導入には消極的である。また、日銀の福井総裁も慎重であるようだ。
 さて、中川政調会長のいう「日銀の独立性は、政策の手段に限定される」という主張はおおむね正しいと思う。政策の目的を決めるのは政府以外にありえないのであって、日銀が政策の目的まで決めるようでは独立性を拡大解釈しすぎというものである。ただし「金融緩和を続けよ」と圧力をかけるのは、中央銀行の独立性を侵す可能性がある。金融緩和を継続するか否かは政策の手段に属するものだからである。インフレ・ターゲットを導入してそれに従って日銀が適切な金融政策を実施するのが、日銀の独立性のあるべき姿であろう。また、物価上昇率の目標を導入した場合、中川氏が示唆しているような政府の専権事項とするのではなくて、日銀と政府の協議事項とすべきである。よって、与謝野大臣の「日銀の独立性を重視せよ」という主張もゆえなきことではない。
 また、マイルドで安定した物価上昇に伴って名目成長率が上がれば税収も増え、財政再建のための増税を圧縮できる可能性がある。この点も、与謝野大臣は「インフレを期待しながら財政再建をするという悪魔的手法をとってはならない」と述べて反対している。しかし、これには首肯できない。インフレターゲット、より正確には物価目標の導入は、何もハイパー・インフレを引き起こして国債を事実上帳消しにしてしまえなどという暴論ではないのだ。
 時あたかも、ようやくデフレ脱却の糸口が見えてきたところである。ここで、例えば2%のマイルドな物価上昇率の目標を設定してそれを達成すべく金融政策を遂行していくことを示せば、市場に対して明確なメッセージとなり、より一層力強い景気回復の流れを作ることができるのではないだろうか。そういうわけで、あらためて、物価目標の設定を強く支持したい。


(参考記事1)
[与謝野担当相、静かで理性的な日銀との対話手法を提唱]
 [東京 16日 ロイター] 与謝野経済財政・金融担当相は16日の閣議後の会見で、政府と日銀の政策協調に関連し、政府は日銀に対して静かで理性的な話し合いをする手法を取るべきだ、との見方を示した。
 与謝野担当相は、「日銀の政策について、政府・与党が物を申し上げるのは当然であるにしても、静かな雰囲気のなかで、理を尽くして申し上げるのが大変大事な点だ。各国の例を見ても、政府と中央銀行が必ずしも意見が一致しない場合、静かに理性的に話し合いをする手法をとっている。経済財政担当としては、日銀首脳の方々と政府の考え方、政府・与党の雰囲気をきちんと伝える役目を果たしたい」と述べた。
 また、インフレターゲットに関しては、「インフレターゲット論は非常に大きな幅を持った概念で、どういう主張をしているかは内容が違う」と述べた。
 さらにデフレに後戻りしない仕組みとして、政府・日銀が物価安定目標を設定することはひとつの考え方だと思うが、積極的には検討しないという理解でよいのか、との重ねての質問に対して、与謝野担当相は「日銀の目標は物価の安定で、物価の安定とは、デフレでもインフレでもない状況が望ましい。その意味で、日銀は日銀法の精神で政策決定されていると理解している」と述べるにとどめた。
 日銀と政府の関係では、竹中総務相と中川自民党政調会長が、日銀の独立性は、政策の手段に限定されると主張。政策の目的を自主的に決めることはできないと強く訴えてきた。また、二人は日銀法改正の可能性にも言及。量的緩和政策の早期解除に反対する姿勢をにじませてきた。
 これに対し、与謝野担当相は、自民党政調会長のときから、日銀の判断を尊重する姿勢をみせ、今回の発言も、中川氏や竹中総務相の強面の発言とは一線を画しているとみえる。市場関係者の間では、政府・与党内でどちらの声が正統性を持つにいたるのか注目したいとの指摘が出ている。
(ロイター) - 12月16日13時7分更新

(参考記事2)
[インフレ・ターゲット導入、政府・日銀へ要請 自民方針]
 自民党は十五日、デフレを脱却し、物価上昇率を金融政策の目安とするインフレ・ターゲット(物価目標)の導入を政府・日銀に働きかける方針を固めた。中川秀直政調会長が指示し、同日の党金融調査会金融政策小委員会(山本幸三小委員長)で具体的検討を始めた。デフレ脱却を本格化させるため物価上昇を誘導するもので、物価上昇率2%程度を念頭に調整するとみられる。
 中川氏は記者団に「日銀の副総裁二人もそういうものが必要だと言っているし、ヨーロッパはそうやっている。検討はすべきだ」と述べた。
 政府と中央銀行が政策協定の形で物価上昇率の目標を決める海外の例などを参考に導入を検討する。
 背景には、物価上昇に伴って名目成長率が上がれば税収も増え、増税に頼らない財政再建につながるとの狙いもある。ただ、政府内には「インフレを期待しながら財政再建をするという悪魔的手法をとってはならない」(与謝野馨金融・経済財政担当相)との批判も出ている。
(産経新聞) - 12月16日3時3分更新

(参考記事3)
[政府・日銀の政策目標、望ましい物価踏まえ議論を=自民政調会長]
 [東京 15日 ロイター] 中川自民政調会長は、政府・日銀の政策目標について、望ましい物価水準を踏まえて議論してほしい、と述べた。
 ロイターに語った。
 15日に初会合を開いた自民党金融政策小委員会では、デフレ脱却に向け、政府と日銀が共有する政策目標策定についての議論をスタートさせた。
 具体的な政策目標について、望ましい物価水準も含めて議論するのかとの質問に対して、中川政調会長は、「そういうことも踏まえて議論して欲しい」と述べた。さらに、諸外国では、安定物価目標が政策運営の「アコード」となっている事例もあると指摘し、安定物価目標も検討課題であることを示唆した。
 中川政調会長は11月18日のロイターのインタビューでも、インフレもデフレも起こさない物価上昇率の目標を、日銀ではなく、政府が設定することの是非について、党内で議論していく考えを示していた。
(ロイター) - 12月16日5時56分更新


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2 コメント

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Unknown (劇団たぬき)
2005-12-23 23:03:58
TBどうもでした。

インフレターゲットについては、僕も賛成でして・・・竹中さんが結構前にも言ってましたよね、たしか。内閣府特命担当相(経済財政政策)だったころだったと思うんですけど。

これに反対してたのが、金子勝や榊原英資とかでしたけど、金子は何でも反対ばっかで・・・辟易していたのを覚えています。
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劇団たぬきさまへ (猫研究員。)
2005-12-23 23:29:30
インフレターゲットという言葉が誤解を招きがちなんですよねぇ。参考記事にもある「物価目標」とか、あるいは「経済成長率目標値」とか、そんな呼び方が定着すれば受け入れられやすいと思います。

金子氏の件、全く同意です。まともな政策論になってませんよ、あれは。
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