「俺っち、馬鹿だから、わかんね」と横山は首を振った。「ほんと、俺っち、馬鹿だから」。
馬鹿だから、かわいいんじゃないの?と藤田は思う。ヤマダちゃんも横山のこと、かわいいって言ってたし、玲子さんも、横山のこと、好きだと思う。嫌いだとしても、玲子さんのことだから、横山のこと、もっとよく知ったら好きになると思う。ただ、高橋くんはダメだ。横山のこと、嫌いなままだ。だって、いかにも、そりが合わなさそうだもん。だから男同士は面倒だ。高橋くんには、横山みたいな、ふにゃふにゃで柔軟なんだけど、キュっと締まるような格好良さないもん。
「藤田ちゃんは、高橋とまだ付き合ってんの?」
「付き合ってるよ」
「じゃあ、帰りなよ」
「なんで?」
「今みたいな感じだと、嫌だから。こんな時間に、今みたいな感じだと、嫌だから。俺、馬鹿だけど、そういうことには、うるさいから」
私は、横山に無理やり、帰れ、と言われて、店を出た。一人で、とぼとぼ帰る。
横山の、そういうところが、またかっこいい。いや、泣けるくらいのかっこよさだ。
暗くて、寒くて、星がチカチカしてる。信号待ちで、高橋くんに電話をかけると留守電。さては、と思い、玲子さんに電話を掛けたら、案の定、高橋くんは玲子さんと一緒だった。
「あ、藤田ちゃん、高橋に電話掛けなおさせようか?」
「いや、いいです。玲子さん、高橋の風邪の具合、どんな感じですか?」
「直接、聞きなよ、隣にいるから」
「あの、玲子さんの見た目でいいんです」
「咳の一つもしてないわよ」
「だって、風邪気味だって、言ってたから」
「そうなの?」
「ごめんなさい、電話切ります」
私は電話を切ったあと、コンビニに寄って、お金をちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、下ろす。
高橋くんは、確かに風邪気味だと言ってたから、すごく心配した。とっても心配したから、今日は何度も、頭が痛くなりそうになった。でも、高橋くんは何も言わない。いつも、何か隠してる風なので、とても不安。だから、横山に付き合ってもらって、いろいろ相談にのってもらった。でも、高橋くんは、玲子さんと一緒に飲むくらい元気だった。なんだか、やな感じだ。心配した分、利子が欲しい。ここのコンビニも、もうちょっと、ちゃんとしたカスタードのプリンを売り出してもいいはずだ。なにか、おかしい。「おかしい」と思い出したら、全部おかしい。信じられない。おかげでお腹が空いた。どうしようもなくお腹が空いた。高橋くんは、玲子さんに、ねえねえ、今の電話、誰から?とか聞いてるはず。ぜったいに。それで、玲子さんは、いつもの玲子さんっぽく、そうねえ、誰かしらねえ、なんて、とぼける。ああ、やだ。電話なんか、掛けなきゃ良かった。
もっと、かわいくなりたい。関係ないけど、かわいくなりたい。今の私じゃ、かわいくない。お金欲しい。腹減った。あと、ヴィレッジ・バンガードで売ってた計算機が欲しい。計算機買ったら、ちゃんと、レシート整理する。誓った。いま、私は誓った。計算機を買う。それで、お金が余ったら、高橋くんになんか、かっこいいキャラクターの時計を買って上げる。たぶん、変に喜ぶ。予想がつく。あいつは単純だ。気の利くプレゼントを上げてたら、なんとかなる。
私は、郵便受けを開けて、ピザの宅配のチラシだけ取り出して、自分の部屋へ向かった。
馬鹿だから、かわいいんじゃないの?と藤田は思う。ヤマダちゃんも横山のこと、かわいいって言ってたし、玲子さんも、横山のこと、好きだと思う。嫌いだとしても、玲子さんのことだから、横山のこと、もっとよく知ったら好きになると思う。ただ、高橋くんはダメだ。横山のこと、嫌いなままだ。だって、いかにも、そりが合わなさそうだもん。だから男同士は面倒だ。高橋くんには、横山みたいな、ふにゃふにゃで柔軟なんだけど、キュっと締まるような格好良さないもん。
「藤田ちゃんは、高橋とまだ付き合ってんの?」
「付き合ってるよ」
「じゃあ、帰りなよ」
「なんで?」
「今みたいな感じだと、嫌だから。こんな時間に、今みたいな感じだと、嫌だから。俺、馬鹿だけど、そういうことには、うるさいから」
私は、横山に無理やり、帰れ、と言われて、店を出た。一人で、とぼとぼ帰る。
横山の、そういうところが、またかっこいい。いや、泣けるくらいのかっこよさだ。
暗くて、寒くて、星がチカチカしてる。信号待ちで、高橋くんに電話をかけると留守電。さては、と思い、玲子さんに電話を掛けたら、案の定、高橋くんは玲子さんと一緒だった。
「あ、藤田ちゃん、高橋に電話掛けなおさせようか?」
「いや、いいです。玲子さん、高橋の風邪の具合、どんな感じですか?」
「直接、聞きなよ、隣にいるから」
「あの、玲子さんの見た目でいいんです」
「咳の一つもしてないわよ」
「だって、風邪気味だって、言ってたから」
「そうなの?」
「ごめんなさい、電話切ります」
私は電話を切ったあと、コンビニに寄って、お金をちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、下ろす。
高橋くんは、確かに風邪気味だと言ってたから、すごく心配した。とっても心配したから、今日は何度も、頭が痛くなりそうになった。でも、高橋くんは何も言わない。いつも、何か隠してる風なので、とても不安。だから、横山に付き合ってもらって、いろいろ相談にのってもらった。でも、高橋くんは、玲子さんと一緒に飲むくらい元気だった。なんだか、やな感じだ。心配した分、利子が欲しい。ここのコンビニも、もうちょっと、ちゃんとしたカスタードのプリンを売り出してもいいはずだ。なにか、おかしい。「おかしい」と思い出したら、全部おかしい。信じられない。おかげでお腹が空いた。どうしようもなくお腹が空いた。高橋くんは、玲子さんに、ねえねえ、今の電話、誰から?とか聞いてるはず。ぜったいに。それで、玲子さんは、いつもの玲子さんっぽく、そうねえ、誰かしらねえ、なんて、とぼける。ああ、やだ。電話なんか、掛けなきゃ良かった。
もっと、かわいくなりたい。関係ないけど、かわいくなりたい。今の私じゃ、かわいくない。お金欲しい。腹減った。あと、ヴィレッジ・バンガードで売ってた計算機が欲しい。計算機買ったら、ちゃんと、レシート整理する。誓った。いま、私は誓った。計算機を買う。それで、お金が余ったら、高橋くんになんか、かっこいいキャラクターの時計を買って上げる。たぶん、変に喜ぶ。予想がつく。あいつは単純だ。気の利くプレゼントを上げてたら、なんとかなる。
私は、郵便受けを開けて、ピザの宅配のチラシだけ取り出して、自分の部屋へ向かった。