小説『生活小説』

『生活小説』の実戦・実戦版です。半分虚構、半分真実。

閑話休題。

2004年09月11日 | Weblog
デニーズ国分寺店にて。

ユカリ「すんまへん。遅刻しました。すんまへん。丸井で、服、見てたっス。そしたら、そしたら、時間が経ってました。すんまへん。あ、わたし、アイスティーで」
一郎 「いいっス。別に」
ユカリ「なんか、一郎さん、ウキウキしてませんか? おっかしー。なにか、おかしー」
一郎 「あら、お気付きになられましたのね、ユカリさん。あたくし、明日、デートなんざますの」
ユカリ「うわっ。いいじゃないですか。どんな人なんですか?」
一郎 「そりゃ、かわいいっスよ。もう、メロメロっス」
ユカリ「‥‥」
一郎 「で、なんだか、ふにゃふにゃしてるんですけど、ぱしっとしてて」
ユカリ「‥‥」
一郎「そんで、目がかわいいですね」
ユカリ「‥‥」
一郎 「あ、聞いてる」
ユカリ「すんまへん。メール打ってました」
一郎 「‥‥」
ユカリ「悪気はナッシング」
一郎 「‥‥あ、アイスティー二つお願いします」
ユカリ「あと、ブラウニーチョコサンデー」
一郎 「じゃあ、それを」
ユカリ「あと、クリームあんみつも」
一郎 「はい、はい、以上で。はい」
ユカリ「ごち。ごち。ごち。」
一郎 「そんなに食べたら太るよ」
ユカリ「あら、そうですわよね。一郎さんはご存知ないですわよね。はい、そうでしたね」
一郎 「栗山っちと付き合ってんでしょ。それぐらい、こちらの情報網はキャッチしてます」
ユカリ「あ、聞きました?」
一郎 「本人から、直接、聞いております」
ユカリ「栗山っち、最高っスよ」
一郎 「‥‥」
ユカリ「栗山っち、すごい、照れ屋さんですよ」
一郎 「‥‥」
ユカリ「腕、太いんですよ。で、爪がなんかこう、ピキピキしてんの。ピキピキ」
一郎 「‥‥」
ユカリ「あ、一郎さん、聞いてます?」
一郎 「すんません、メール読んでました」
ユカリ「‥‥」
一郎 「‥‥」
一郎・ユカリ 「(爆笑)」
ユカリ「すみません、トイレ」
一郎 「あのお、水ください。それから追加で、鶏肉のみぞれ煮」

襲い掛かる恋愛の魔力で二人はバカ寸前。 一郎のデートは? ユカリの栗山への愛は? どうなる、一郎?! どうする、ユカリ?!

次回の読みどころ

 杉山美加っちは、ホテル・ノーチラス。死んじゃダメです、高橋さん。ユカリと栗山っちは、もうラブラブ。最近登場しない、永田は? 羽田は? そしてナカムラは? 次回を待て! 



(32) インディアン・サマーの前。 3

2004年09月10日 | 小説+日記
 ユカリはパン屋でのバイトを終えると自転車をこいで駅まで向かい、急行に乗って帰ってくる、栗山を待っている。もしもし、ユカリです。今、駅にいます。この留守電聞いてますか? 聞いてたらメールください。今、どこですか? ぱくぱくぱくぱく。しばらくして、ユカリの携帯にメールが届く。「名古屋は楽しかったよ。もうすぐ着きます。ユカリちゃん、荷物を縛るゴムひもは持ってきた?」。ユカリは再び、栗山に電話する。着信音がしばらく鳴った後、留守番電話サービスに切り替わる。はいはい、了解。ひもはもってきてるよ。はやく帰ってきてね。ぱくぱくぱくぱく。以上でーす。さっき、着信してるとき、栗山のポケットの中で、携帯がブルブル震えてたんだろうな、と思うと、ユカリは楽しくなってくる。きっと、くすぐったくて我慢できないぜ、栗山っち。もう一回、わたし、かけちゃいます。ごめん。ユカリはまた栗山に電話をかける。着信の合図が鳴る。しばらくして栗山が電話に出る。おいおい、着いたよ。もうすぐ改札。はい。栗山さん、待ってますから。はい、はい。改札に、旅行かばんを二つ携えた栗山がやってくる。ユカリは手を振る。栗山は笑顔で応える。ユカリちゃん、お待たせしました。お土産もあるよ。あ、ちす。ども。それ、持ちます。いいよ、いいよ。俺、自分で持つから。二人は駐輪場で、ユカリの自転車の荷台に旅行かばんをのせ、ゴムひもでくくりつける。じゃあ、この自転車、俺が押していくよ。いや、いいっスから。わたしが、やりますから。ユカリちゃんも相変わらずだなあ。電車の中で、携帯をあんなに鳴らされたのは初めてだよ。ユカリは心の中で、まばゆい光に包まれたかのようなときめきを味わう。やさしー、やさしー、栗山っち、やさしー、ぜんぜん、おこらないでやんの。すげー、やさしー。栗山は、ユカリが自転車を押している後ろで、荷台を支える。ユカリちゃんは、俺と二人になると口数減るんだね。なんだか、ユカリちゃんって面白いね。いや、そんなことないっス。なんか、照れるんだけど。あれですよ、愛の表現ですよ。栗山さんへの愛の表現です。栗山はそれを聞いてクスクス笑う。ユカリは自分で言った台詞に耳を真っ赤にする。それで、ユカリちゃん、留守電の「ぱくぱくぱくぱく」ってなんだったの? あ、それも愛の表現っス。ユカリちゃんは、楽しいね。そういう人って、俺も好きだな、すごく。やりー、やりー、栗山っち、わたしに惚れてる。ぜってー、惚れてるって。うれちー、うれちー。不幸なユカリへ、幸せなユカリから、幸せパンチ。ユカリパンチ。通称ユカパン。あの、栗山さん? なに?ユカリちゃん。栗山さんは、そういうことは好きですか? え?そういうことって?え?そういうことって?と杉山美加は高橋に尋ねる。だから嫌いなわけじゃないし、君に魅力が無いわけじゃ全然無いんだよ。じゃあ、安心していいの? もちろん。良かったあ。杉山美香は高橋の横に転がる。天井の一メートルを超える大きさの鏡が二人を写しだす。部屋に流れる勇壮な音楽が急にカウントダウンに変わる。「ホテル・ノーチラスは緊急事態。全員、配置に着け!」。ナレーションが聞こえる。5、4、3、2、1、0。ゼロと、ナレーションが告げた瞬間、爆発音とともに、ストロボライトが炊かれる。チカチカするなかで、高橋の動く姿がストップモーションに見える。きれいだな、と杉山美香は思う。そして、部屋は徐々に明るくなっていく。「作戦終了。作戦終了」。301号魚雷室は、急に静かになり、赤い照明でぼんやり照らされている。ずいぶん、派手な部屋だね、ここは。高橋は笑いながら、杉山美加の髪をいじる。さっきの話なんだけど。ああ、その話か。だからね、事故のせいで、機能不全になったんだよ、うん。だから、君の魅力とか、君のことが嫌いとか、全然、関係無いの。治らないの? わからない。困らないの? ぼくは困らないけど、相手は困るんじゃない? わたしは困らないよ。そういうことは無くてもいいもん、ぎゅっとしてくれれば。ぎゅっとしてるだけで、済むといいけどさ。出来ないときは他のことが、いろいろ出来るようになるもんだよ。そう言うと、高橋は杉山美加に覆い被さる。最中に、高橋の頭の中には、ホテル・ノーチラスの屋上のことが蘇る。まあ、あのとき、ぼくは死んじゃったようなもんだもんな。何回死にそうになってんだよ、おれ。まあ、今回は自分の意思だから、意味合いは違うけどね。杉山美加は、高橋の肩に噛み付いたり、背中をぱちぱちと叩いたりしながら、なんだか、高橋君は面白い人だよなあ、と思う。高橋君とはなんだかんだといろいろあったけど、なんだか、奥が深いし、一緒にいても全然飽きないなあ、と思う。わたしが高橋君と初めて会ったときから、高橋君は高橋君だけど、絶対に中身は同じ高橋君じゃない。毎日のようにころころ高橋君は変わる。わたしも変わったのかな。そう、強くなったもん、強くなった。杉山美香は高橋の首に抱きつく。高橋の首から背中が汗で濡れている。再び、部屋は暗くなり、計器が点滅した後、「魚雷発射用意」とのナレーションのあと、すさまじい爆音がとどろく。

閑話休題。

2004年09月10日 | Weblog
ユカリ「こんにちは」
一郎 「こんばんは」
ユカリ「あ、こんばんは」
一郎 「あの、遅刻とか、そういうのは、いいんですよ、慣れてるから。でも、今、何時でしょう? 時計読めるかな? ほら、この短い針が時刻の『時』の部分ね、で長い針あるでしょ、これが『分』なのね」
ユカリ「なんか、すごい、嫌味」
一郎 「あの、時間もあれなんで、テレコ回していいですか?」
ユカリ「なに? 『テレコ回す』って」
一郎 「録音はじめていいですか?」
ユカリ「はい、別に。一郎さんのお好きなように」
一郎 「うわ。すげー、むかつく」
ユカリ「おあいこですぅ」
一郎 「あの、本題に入っていいですか?」
ユカリ「はい」
一郎 「あんた、クビ」
ユカリ「はいはい。都合が悪くなったらクビですか。はいはい」
一郎 「じゃあ、荷物まとめて」
ユカリ「うん。お世話になりました」
一郎 「なんつって。引越しセンターでも呼びますか」
ユカリ「引越し祝いに、そばでも注文しますか」
一郎 「あー。おもしれえ」
ユカリ「受けるー、受けるー、おもしろい」
一郎 「はい、今月のお給料です。明日からもがんばってください」
ユカリ「あ、どうも。ちす」
一郎 「で、給料袋の中は五円玉一枚」
ユカリ「うわ、ほんと。受けるー、受けるー。すごい受けたんですけど。あー、おなか痛い」
一郎 「まあ、要するに、疲れ気味ってことですわ」
ユカリ「ああ、そんな感じする、するー」
一郎 「では、皆さんによろしくお願いします」
ユカリ「そういうの、得意だから。だいじょーぶ。だいじょーぶ」

 謎の発言を残して、ドトールコーヒーから立ち去った一郎さん。そして、残されたユカリの運命は? 


(31) インディアン・サマーの前。 2

2004年09月09日 | 小説+日記
 なんだか、疲れちゃった、と杉山美加は言う。ここから、家に帰るまで、どれくらいかかるかな、三、四時間かかっちゃうかな? そんなにかからないとは思うけど。いいよ、美加、ここら辺に泊まろうよ。なんだか、いろいろあるけど、高橋君はどこに泊まる? ぼくは別にどこでもいいよ。そういう場所には何のこだわりも無いから。じゃあ、あの潜水艦のネオンのホテルがいいな。ホテル・ノーチラスと書かれた看板をくぐって、中へ入る。なるべく安い部屋を探して、その部屋の写真についているボタンを押し、鍵を受け取る。「お泊りですか?」「ええ」「301号魚雷室です」「え?なんですか?」「301号魚雷室です」「あの、301号室、ということですか?」「まあ、そういうことですが、301号魚雷室なわけです」。ふたりはエレベーターにのり三階へ向かう。高橋は途中で、きつく美加の手を握る。痛いよ、高橋君。痛いってば。じゃあ、美加、キスして。馬鹿じゃない? と美加は笑いながら高橋にキスをする。部屋の入り口の上に「301」と書かれたランプが赤と青に点滅している。ドアを開けると、部屋の中には、パイプが張り巡らされていて、計器類があちこちに取り付けられてあり、メーターが揺れている。随分、凝った作りだね。わたし、座りたいんだけど、椅子とかソファーは無いのかな? と美加は言う。あれかな、あの狭い二段ベッドが椅子代わりかな? なあ、美加、そうじゃない? じゃあ、そこで寝ろっていうの? いいや、ベッドはほら、向こう。高橋が指を差した先には巨大なベッドがある。うわあ、四、五人、眠れちゃうんじゃない? すごいなあ。美加と高橋は、二段ベッドの一段目の上に座って、テレビを見ている。高橋は、思いついたように、ちょっと俺、外に出てくる、と言う。どうしたの? お買い物? まあ、そんなところ。美加は怪訝そうな顔をする。高橋はフロントに電話して、ドアを開けてもらう。じゃあ、すぐ、戻ってくるから。はあい。高橋は建物の階段を見つけると、上へのぼる。八階で階段は終わる。高橋が、八階にある、鉄の扉を開けてみると、そこは屋上で、暗闇の中で巨大な潜水艦の模型に赤いネオンが光っている。高橋は潜水艦に近寄って、ポンポンと胴体を叩く。下を覗くと、ホテル・ノーチラスの前の道路を、何台もの小さい車が行き交っている。さて。高橋は屋上の縁に腰を掛け、足を空中にブラブラさせる。今、飛び降りた方が、良いのかな? それとも。高橋は考える。まあ、いろいろあったけど、楽しかったし。頭痛がして、もう何も書けないかもしれないけど、そこそこ納得は出来てるし、美加はかわいかったし、まあね、そんなもんでしょ、人生とか、そういうものって。だから、いいんじゃないのかな、今、飛び降りても。足をブラブラ。痛いなあ、まだ痛むよ。手術跡を撫でる。何だかどうでも、いいや、別に。ねえ、ちょっと待ってくださいよ、そりゃないっスよ、と高橋の耳に、若い男の声が聞こえる。高橋さんがそういう風になっちゃったのは、こっちの責任もあるんですから、困るんですよね、そういうの。だから、お返しが出来るまで待っていていただきたいんですよね。とうとう幻聴まで聞こえるようになっちゃったかな、と高橋は思う。高橋さんも空手とか、やられたらいかがですか、楽しいもんですよ、体も丈夫になるし、当然、喧嘩も強くなるし。高橋はなんだか、可笑しくなってきて、その幻聴に返事をする。うん、わかったよ。空手、やってみるよ。ずいぶん変わった幻聴だな、と高橋は笑いをこらえる。そうですよ、空手、ぜひ。いい道場、紹介しますから。ありがとう。だから、まずは、部屋に戻りましょうよ、ね、高橋さん。高橋さんがそんなことじゃ、ナカムラさんだって悲しんじゃいますよ。ナカムラ? ナカムラかあ。そうだよな。あいつは絶対、人一倍悲しむ奴だもんな、わかった、わかった、幻聴さん、ありがとう。部屋に戻るよ。わかったよ。幻聴だ、なんてひどい扱いですね、判ればいいんですよ、わかれば。高橋は階段を下りて、フロントまで行き、部屋のオートロックを開けてもらう。「301号魚雷室、ただいまロックを解除致しました」。ドアを開けて中に入ると、美加は二段ベッドで、テレビをつけたまま横になっている。高橋は、彼女の頬と髪を撫でる。耳を美加の胸に当てて、心臓の鼓動を聞く。それから、彼女の手を握る。美加の目が急に開いて、寝てると思ったのか、このスケベ高橋。そう言って、高橋に飛びついて抱きつく。帰ってくるのが遅いから、心配したよ。こっちもいろいろあるんだよ。男の事情。なによ、それ。美加、早く、休もうよ。高橋君が、休もうって言って、素直に休んだためしはないじゃん。そりゃ、当たり前だろ、こういう場所なんだから、覚悟しておけよ、と言って高橋が部屋の明かりを消すと、計器類が、細かく緑や赤や青に点滅して、スピーカーからサイレンの音や、勇壮なマーチが流れ出す。なんだか変なホテルだな、と美加はポツンとつぶやく。高橋が、まあ何事も、結果良ければ、全て良し、うん、素敵なホテルだよ、と答える。ほんと、素敵なホテルだよ。