Takeda's Report

備忘録的に研究の個人的メモなどをおくようにしています.どんどん忘れやすくなっているので.

Webの進化とエージェント (1/7) はじめに

2006年10月05日 | 解説記事
以下は2001年5月号のScientific American誌に載ったTim Berners-Lee他の記事の冒頭である[1].

電話が鳴ったとき,娯楽システムからビートルズの“We Can Work It Out”が流れていた.Peteは電話で出たとき,彼の電話は音量調整を持っている他のローカルデバイスすべての音量を下げるようメッセージを出して,音を低くした.彼の妹,Lucyが医師の部屋から電話をかけていた.「お母さんは専門家に診察してもらい,物理治療を続けてなくてはいけないのよ.2週に1回ぐらいね.これから私のエージェントにアポイントメントを取ってもらうわ.」Peteはすぐに車での送り迎えを請け負った.
医師の部屋で,Lucyは彼女のハンドヘルドのWeb Browserを通して,エージェントに教示していた.エージェントはすぐに医師のエージェントから母親の処方箋に関する情報を入手していた.そしてこのサービスを提供する提供者をいくつか調べ,加入している保険でカバーでき,母親の家から半径20マイル以内で信頼できる評価サービスにおいて優秀と評価されている提供者を探した.次に提供者の可能なアポイントメントの時間(個々の提供者のエージェントが提供)とPeteとLucyのスケジュールのすりあわせをはじめた...

これがセマンティックWebが実現する未来のWebというわけである.ここにはWeb上のエージェント,エージェント間メッセージング,エージェント検索,Webの信頼性,エージェント間でのネゴシエーションなど,様々な技術要素が含まれている.Tim Berners-LeeはいわばセマンティックWebにWebの未来を仮託したわけである.
これから5年以上経った.セマンティックWebはどうなったであろうか.あるいはWebそのものはどうなったであろうか.
Tim Berners-LeeがdirectorであるWebの標準化団体であるWorld Wide Web Consortium(W3C)ではワーキンググループなどを作ってセマンティックWebの推進を行ってきた.ここではRDF (Resource Description Framework) , RDF Schema [2], OWL (Web Ontology Language)[3]といった言語を策定してきた.また研究コミュニティは上記のような言語の開発やその処理系,それを使ったアプリケーションなどを開発してきた.その結果,Web上の情報にメタデータとして意味を付加する仕組みを構築されている.
さらにWeb上のサービスを標準化するWebサービスと結合して,Webサービスに意味を付加する仕組みが提案,開発されている.
セマンティックWebの歩みは期待外れのものであったかもしれないが ,確実に基盤を整えつつある.
ただし,セマンティックWebの技術はRDFなど部分的なものは世の中で使われるようになったが,これぞセマンティックWebというアプリケーションはなかなか生まれなかった.すなわち,セマンティックWebが研究室をなかなか出られなかった
一方,エージェント技術もまたなかなか研究室をでることができなかった.1990年代にはモバイルエージェント言語Telescript[4]が,エージェントコミュニケーション言語としてはKQML[5]が開発されて,エージェントを利用したアプリケーションが普及するかと思えたが,Webの劇的な普及の前に霞んでしまった.その後もWebと連動して動作できるJavaベースのモバイルエージェントも数々開発されてきたが,大規模な利用にいたっていない.
この間にも,Webは次々と変化して言った.この最近の変化をTim O’Reillyは“Web 2.0”と名づけた.この名づけは絶妙で多くの人が使う概念となった.過去のWebがバージョン1なら,今のWebはバージョン2であるというわけである.ソフトウエアのバージョン1とバージョン2では論理的な進展があるわけではないが,なんらかの性能向上や使いやすさでの進歩がある(と期待されている).今のWebはそんな状態であるというわけである.
彼の記事[6]によれば、Web2.0とはまずWebをプラットフォームとして位置づけることである.これはある意味当然のことなのであるが,あえてその価値を再認識せよということである.次に利用者のモデルとしては「情報の自己コントロール」であるとする.すなわち情報利用者は情報提供者に一方的に従属するといったモデルではなく,相互に関係しあいかつ自立した利用者ということを想定している.特徴的な要素としては
(1) パッケージソフトウエアではなくてサービス
(2) 参加のアーキテクチャ
(3) 高い拡張性とコスト効率
(4) 再構成可能なデータソースとデータの変換
(5) 単一デバイスを超えたソフトウエア
(6) 集合知の活用
を挙げている。また,代表的なサービスとしては
1. Folksonomy (例 del.icio.us, Flickr)
2. 豊かなユーザ経験 (例 Gmail, Google Map, AJAX)
3. ユーザの貢献 (例 PageRank, eBey, Amazon)
4. Long tail (ex. AdSense)
5. 公開ではなくて参加(ex. Blogs)
6. ラディカルな信頼 (ex. Wikipedia)
7. ラディカルな分散化 (例 BitTorrent)
この個々の特徴やその具体化されたサービスなどWeb2.0の詳細については元記事を参照されたい。
それではWeb 2.0の出現はセマンティックWebもエージェント技術も不要であるということであろうか.
確かにWeb 2.0においては,セマンティックWebもエージェント技術でも看過されていた側面を露にしたという点で大いに評価できる.しかし,それによって,他の技術が不要になるのではなくて,相補的な関係であると考えるべきであろう.以下ではWeb 2.0とセマンティックWeb, エージェントの関係を詳しく見ていくことにする.

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