夜明けのダイナー(仮題)

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SS:Candee-Graffiti <その2>

2010年11月28日 19時33分16秒 | ハルヒSS:長編
      (その1より)


    <Face To Face>
 
そんなこんなで一週間が過ぎ、土曜日。 定例の不思議探索。 朝倉が加わったとは言え
「遅い、罰金!」
これは変わらないらしい、困ったものです。
「僕の真似をしないで下さい」 うっ、古泉すまん。 そして顔が近い!
「失礼致しました。 所で最近、小規模ながら閉鎖空間が多発しておりましてね。 やれやれと言った所でしょうか」
こら、さり気なく俺の台詞を使うな。 仕返しか? しかし何故、閉鎖空間が発生するんだ。
「おや、心当たりが無いとおっしゃるので? それでは帰宅されましたらご自分の顔を鏡で御覧になって下さい」
さっぱり訳が解らん。 ちなみにSOS団が6人になった事で探索は3手に分かれる事になって……何が悲しくて古泉とペアになったのか。 ああ忌々しい、忌々しい。 ちなみに他の2組は長門・朝比奈さんペアとハルヒ・朝倉ペアだ。

午後からは、おっ、朝比奈さんとペア!? 何と言う役得! 残るはハルヒ・古泉ペアと長門・朝倉ペア。 正直どうでも良い。
まだ残暑が厳しい祝川沿いを歩く。 水遊びしている子供達で賑やかだ。
「あの、キョン君」 な、何でしょうか朝比奈さん。 あなたの願い事なら何でも聞きますよ。
「涼宮さんの事、どう思ってるんですか?」 はい? あの~朝比奈さん、急に何をおっしゃってるんですか。
「朝倉さんが来てから涼宮さん、部室で時折淋しそうにしてるんですよ? もしかしてキョン君、朝倉さんと――」
「あ、あの朝比奈さん。 話が全く見えないんですが?」
「ニブ過ぎます、キョン君」 え、何がですか? さっぱり俺には何が何だか。
「ふぇ。 あ、ゴメンなさい、キョン君。 勝手にわたし、話を進めてしまって」
「いえいえ、それは別に気にしないで下さい」
「……気にして下さいよ」
「え?」
「とにかく、涼宮さんを悲しませない事! 解りましたか?」
「は、ハイっ!」 全く内容が理解出来ないが、朝比奈さんにこうも強く言われたら、肯定の返事をするしかあるまい。

――しかし『ハルヒが淋しそう』か、俺の前では普通に見えるのだが。 でも実際そうだとしてハルヒに直接聞く訳には行くまい。 ましてや、あの『涼宮ハルヒ』が他人に弱みを見せるなんてあり得ない、と思う。 
「でも……な」
ハルヒを1人の女の子として考えれば、悩み・苦しみ・もがく事もある筈だ。 確かに俺は鈍感かも知れない。
だからハルヒの救助信号を受け取っていないだけかも知れない。 そして、そもそも俺の気持ちって何なんだ?
「……俺には」
――初恋に破れて以来、恋愛感情に対して希薄な部分があるようだ。 自覚の無い所で『トラウマ』があるのだろうか。
普通なら、美人で魅力的な女性に囲まれた環境に居るなら、その内1人位には何かしら感情を抱くのは当然なのだろう、多分。
しかしだ、正直な所、俺には通常なら抱くであろう感情が欠落している様だ。
いくら朝比奈さんが良いと言っても『憧れ』の範疇を超える事は無く、長門も『時に放っとけない』存在。
そして、朝倉に好きと言われても、理解出来ない自分が居たのは確かだ。 最後にハルヒ、お前は俺の――。

「……ョン君、キョン君。 どうしたんですかぁ?」  うおっ、朝比奈さん!? 顔が近いですよ、もっと近く……じゃ無く、何やってるんですか。
「ふぇ、だ、だってキョン君、立ち止まって考え事してて。 その、まるでフリーズしたみたいだったから、心配して……」
も、申し訳ありません朝比奈さん。 心配して頂けるだけでも身に余る光栄でございます。



 
   <Lunch Box>
 
そして平和な日曜が過ぎ、また始まる一週間。 いい加減、この暑さには自粛願いたい。 
 
「……キョン君、お・き・て♪」 おお、妹よ。 ついにボディープレスを止めてくれたか、体の痛みが無いぞ。 と思った次の瞬間
 
      『チュッ』
 
な、何しやがるんですかマイ・シスターよ! しかし冷静になってみれば声が違ったな。 寝ぼけ眼を開けた先に見えたのは北高のセーラー服を着た
「あ、朝倉!?」
「おはようキョン君、朝ごはん出来てるわよ」 何故、朝倉が此処に居る? エプロン着て、完璧なポニーテールで……
「キョン君のご両親と妹さんの許可は得てるわよ。 『起こしに来ました』って言ったら、あっさり上げてくれたわ」
――俺の家族に、我が家のセキュリティーについて小一時間説教せねばなるまい。
「あと、朝食のついでに、キョン君のお弁当も作ったから」
「はい?」
「私の分とキョン君の分よ♪」 あの朝倉さん、俺と貴方は『幼馴染』か何かでしたっけ。 この展開、何て言う恋愛ゲーム?

と言う訳で一緒に朝食・一緒に登校・一緒の弁当を食べ……って
「おい、朝倉」
「何、キョン君」
「……『同じ中身の弁当』って、どう言う事だ?」 同時に弁当箱を開いた俺は、朝倉に尋ねた。 
一緒に弁当を食べようとした、国木田以外の3人がフリーズしたのは何故かは知らないが
「だって、一緒に作ったんだから中身が同じなのは当然でしょ」
「キョ~ン、何処まで進んでるのかしら? 涼子との仲は」 は、ハルヒさん。 何処って、何処ですか!?
「あら、キョン君、迷惑だったかしら」
「涼子、何やってるのよ!」
「涼宮さん、何って? キョン君の家に朝、起こしに行って、一緒に朝ごはん食べて、弁当作っただけよ」 『だけ』って何ですか、『だけ』って?
「り、涼子。 抜け駆けはズル……じゃ無かった、団員の管理は団長であるあたしの責任よ。 涼子がやる必要は無いわ!」
「あら、それじゃあ私も団員なんだし、管理してくれるのかしら」
「あう」 おいハルヒ、押されてるぞ。 朝倉、ニヤニヤしてハルヒを見るなよ。 古泉、もし閉鎖空間が発生したら原因はコレだぞ。 文句は朝倉に言ってくれ。
「おい、キョン。 二股ってどういう事だ!!」 谷口、米粒飛ばすな。 汚いぞ。 あと二股って何だ、訳が解らん。
「キョン、やれやれだよ」 国木田、俺の方がやれやれだぞ。 笑顔で弁当食べてる奴が言う台詞じゃないし、それ。
「じ、じゃ涼宮さんも朝、キョン君の家に行って朝食とお弁当を作ってあげれば良いのね!」 おい阪中、何を勝手に決めてるんだ!
「そ、それよ阪中さん! キョン、明日はあたしが朝食と弁当作るわ!!」 へ、何をおっしゃってるんですか?
「それじゃ涼宮さん、こうしましょ。 月曜と水曜は私が、火曜と木曜は涼宮さんが担当って事で。 そうすれば週に2回づつ、公平に作れるわよ」
「残りの金曜日はどうするんだい?」 国木田、何か楽しそうだな。
「それじゃ金曜日は2人一緒ってのはどう? そして休日があった週の金曜日は、休日に当たった人が振替で担当。 これでどう? 涼子」
「良いわよ、決まりね♪」 あのー、当事者の俺が完全に置いてけぼりなんですけど~。
何時の間にか谷口が居なくなってるし……弁当、殆ど手をつけてないぞ。 勿体無いな。
あと、クラス中の視線がこっちに集中してるんですが。 お前等、昼休みもうすぐ終わるぞ? 早く食べろよ。
 
      『やれやれ』
 
あの~、クラスの皆様方、何ですかそれは? むしろ、俺が言いたいのですが――。



 
    <Nextage>
 
次の日・火曜日
 
   『ガン・ガン・ガン・ガン――!!』
 
な、何だ!? この金属音連打は。 火事か? 火元は何処だ!
「おっきろ~! 朝だぞ~!!」 は、ハルヒ!?
「朝食出来てるわよ、ちゃっちゃと着替えて下に降りて来なさい!」
ハルヒを見ると、北高セーラー服の上にエプロンして……ポニテまで。 うむ、朝から眼福! って、そうじゃ無くって
「おい、ハルヒよ」
「何?」
「手に持ってるのは何だ?」
「見て解らないの。 フライパンとお玉よ」
「いや、それは見れば解るが、何故持っているのかと」
「朝、起こすと言えばコレでしょ? 『フライパン連打』」
……定番と言えば定番なのだが、それならば昨日の目覚めのキ――って、何を考えた俺!
「そんな事より、さっさと起きる!」 へいへい解ったよ。 身支度を整えて下に降りると
「おおーっ!」 昨日の朝倉の作ってくれた朝食はシンプルなトースト・ハムエッグ・サラダと『洋定食』だったのだが
今日のハルヒが作ってくれた朝食は『和定食』。 ごはん・味噌汁・鮭の塩焼き・納豆・おひたしetc。
「さあ召し上がれ!」
まあ、こいつの作る料理の味は今更語るまでも無いのだが、昨日の朝倉・今朝のハルヒと、一体何時に起きてウチに来ているのだろうか?
「悪いなハルヒ、朝早くから」
「え、良いのよキョン。 あたし達の勝負なんだから、気にしないで」
はて、何の勝負なのだろうか。 SOS団内での内部抗争は止めてくれよ、とりあえず。 そして弁当を持って一緒に通学。 谷口なら号泣モノなんだろうな、このシチュエーションは。
――但し、今日の相手は泣く子も黙るSOS団・団長『涼宮ハルヒ』なのだがな。
 
俺の母親は「朝食・お弁当と作る手間が省ける上に、こんな可愛い女の子2人がアンタの……それで本命はどっち?」とか言ってるし、妹は妹で「キョン君、プレイボーイ!」 って、俺には全くもって自覚が無いのだがな。
クラス内、違うな。 学年内、いや。 学校内で、俺への視線が日増しに多くなっているのは気のせいだろうか?
とにかく、今回はこの台詞が多く出るな
 
      「やれやれ」


  
    <Birthday>
 
そんなこんなで9月が過ぎる。 最近の俺は他の奴曰く『両手に花』なのだそうだが、どう考えても『針のムシロ』としか思えん。
そして10月。 今月の8日は、とあるイベントが控えている。 そう
 
    ハルヒの誕生日  だ
 
実は本人には内緒でSOS団で計画しているのだ。 当然『名誉顧問』の鶴屋さんも含めてであるが。 イベント事は全て押さえなければならない(であろう)SOS団であるならば、その団長様の誕生日は盛大にやらねばなるまい。
ハルヒが掃除当番で遅れる時や、土曜日の探索終了後等に本人に内緒でミーティングをし、プランを練っている訳である。
料理は前日までに用意し、当日放課後に部室でセッティングするのは朝比奈さん・鶴屋さんの上級生コンビ。 受験シーズンで忙しい中、お任せして申し訳ありません。 
そして、前日までに部室の掃除・当日の飾りつけを行うのは他の4人……まあ、料理の食材の買出しもやったのだが。 しかし、俺はロクに手伝う事が出来なかった、何故か?
火曜・木曜・金曜は朝からハルヒが居るし、月曜・水曜は教室で一緒、土曜は探索となると、日曜日しか動く事が出来ない。
「申し訳ありません朝比奈さん、鶴屋さん。 すまん古泉・長門・朝倉」
「良いんですよ、キョン君」
「別にいいっさ! 気にしないでおくれよ、少年!」
「構いませんよ。 涼宮さんに気付かれない為には貴方にお任せした方が良いと思いますし」 何をだ、古泉?
「……別に問題ない」
「良いのよキョン君。 そんな事より、返事は?」 何の事だ、朝倉?
「私と涼宮さん、どっちを選ぶかよ」
「だから、お前はともかく、ハルヒが俺をどう思ってるか知らんが」
「じゃあ、私を選んでくれるのね♪」
「あのなぁ」
「あ、あと、涼宮さんを『ハルヒ』って呼ぶなら、私の事を『涼子』って呼んで。 お・ね・が・いっ!」
「――善処する」
あ~もう慣れたと言えば慣れたのだが、此処に居る他の4人の視線が痛いのですが……。
 
 
さて、10月8日・当日の朝。 偶然か必然か? 今朝の担当はハルヒだ。
「あ~ハルヒよ」
「な、何よキョン」
「放課後ヒマか?」
「え? と、特に用事はないわ。 何か用?」
他の団員+鶴屋さんが部室でセッティングしている間、ハルヒを足止めし時間稼ぎするのが俺の役目だ。
「まあな、授業が終わってから言うよ。」
――妙にハルヒの顔が赤くなりソワソワしだしたが、何か勘違いしていないだろうか?  まあ、誕生日関連の話題は避けておくとするか。 感づいて地雷を爆発させてなるものか。

そして放課後、屋上にて。 時間かせぎ自体は10分程度で良いのだが、その時間の間を俺がどうしろと!? 色々と考えたが結論が出ず……。
「何よキョン、こんな所に呼び出して」
「いや、別に。 特に用事と言う程の事では無いが」
「じゃあ、さっさと部室に行くわよ!」
「ま、待ってくれハルヒ!」 俺はハルヒの手を握る、此処で容易く行かせる訳には行くまい。
「なあハルヒ、高校生活も半分を過ぎてしまったな」
「そうね。 って何よ、急に改まって」
「ハルヒは今までの高校生活、楽しかったか?」
「た、楽しいに決まってるじゃない。 今まで、ううん、もちろんこれからもよ!」
「そうか、そいつは良かった」
「そう言うキョンは、どうなのよ?」
「俺か、楽しいに決まってるだろ。 誰かさんに引っ張りまわされれるお陰で『退屈』って言葉が俺の辞書から消えてしまいそうだ」
「いつも間抜け面でボ~っとして退屈そうなのに?」
「ついでに言うなら、それに比例して財布の中身も減っていくのは勘弁して欲しい所ではあるが……」
「それなら集合時間に遅れなければ良いじゃない」
「時間に遅れた事は一度も無い筈だがな」
「あんたが一番最後に来るからよ。 他の団員を見習って早く来なさいよ!」
「……やれやれ」 さて、そろそろ良さそうかな
「所でキョン、何の為に此処に呼び出したのよ」
「さぁてね」
「――キョ~ン!?」
「冗談だ。 さて、部室に向かうとしますか。 本題は部室に行ってからだ」
「何か納得行かない気がするけど、まあ良いわ」
何故アヒル口になるんだハルヒ? 俺、何か不満にさせる事を言ったかな。 まあ、下らない用事で呼び出したのは流石に悪かったな。
「……ニブキョン」
「何だってハルヒ、良く聞こえなかったが」
「うっさいわね、さっさと行くわよ!」
「うわ、こら。 ネクタイ引っ張るなって!」 

さて、こうして部室に向かった訳だが、何時もの様にハルヒがノックせず勢い良く部室に入って行くと……
    パーン!!       クラッカーの一斉砲撃!
      
      「「「「「涼宮さん、Happy Birthday!!」」」」」
 
「うわ、な、何、みんな!?」 おーおー。 驚いてるなハルヒよ。
「おめでとうハルヒ、黙ってて悪かったな」
「ま、まさか屋上に呼び出したのって」
「その通り、これの支度の為の時間稼ぎって奴さ」
「……ばか」
飾り付けられた部室にテーブル上のオードブルの数々、そして朝比奈さんが淹れてくれたお茶が並ぶ。
「さあ、照れてないで入れよ、団長」
「そうですよ、涼宮さん」
「お待ちしておりました」
「料理冷めないうちに遠慮せず食べるっさ!」
「……おなかすいた」
「ほらほら涼宮さん、一言一言♪」
「ふぇ? あ、えー、おっほん。 皆ありがとう。 あたしの為にこんなに用意してくれて、とっても嬉しいわ! そしてSOS団は不滅なんだから、全員あたしについて来なさい! あと、キョン。 あたしに隠し事なんて千年早いわよ!」
あの、黙ってパーティーやろうとしたのは、ここに居る全員の総意なんですが。
「乾杯の音頭はあたしがするにょろよ。 それじゃ皆の衆、コップを持って、カンパ~イ!!」
    
   「「「「「「カンパ~イ」」」」」」
 
早速料理にがっつくハルヒ・長門。 まあ、俺は特に何もしてないから一番最後でいいか。
「お勤め、お疲れ様でした」 うわ、古泉。 顔が近い!
「貴方と一緒に入って来た時の涼宮さんの顔の方が、今の笑顔より素敵でしたよ」
「そんな事無いだろう古泉。 お前の目は節穴か」
ハルヒだって祝って貰ってるんだから、俺と2人で居る時より今の方が嬉しいだろ。
「キョン君♪」
「うわ、あs……じゃ無かった。 り、涼子?」
「むっ、まだ無理して言ってる。 もっと自然に『涼子』って言ってみて」 い、言えるか! 全く、この小悪魔インターフェースが。
「そう言えば、お前の誕生日って何時になるんだ?」
「そうね、構成された日付になるのかしら、この場合。 ちなみに再構成の日付と違う場合、どっちを取れば良いのかしら?」
「知らん、そんな事。 自分達の親玉にでも聞くんだな」
「ぶ~っ、キョン君。 冷たいのね……」
「あ、すまん。 悪気は無かったんだ」
「うふふ……相変わらず、からかうと面白いわ♪」
「て、テメ~!」
 
――このやり取りの一部始終をハルヒが見ているのを俺は知らなかった。
もちろん会話自体は聞かれなかったが、何を勘違いしたのか『仲睦まじく』しているように見えたらしい。
そして、その日の夜。 また俺は、あの空間に巻き込まれた訳である。 勘弁してくれ……。
 


      (その3へ続く)


    

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