夜明けのダイナー(仮題)

ごった煮ブログ(更新停止中)

SS:Candee-Graffiti <その5(最終話)>

2010年11月30日 21時13分43秒 | ハルヒSS:長編
         (その4より)   


   <エピローグ5・『12月18日・金曜日』>
 
 
前日、帰り際に
「ゴメンね、キョン。 あたし、明日の朝、用があるから……」
「ゴメンなさいキョン君。 わたしも明日の朝、用事あるから……」
ハルヒと涼子にそう言われたので、久し振りに一人で登校している。
「……しかし、何かが変だ」 妙な胸騒ぎがしている。
 
今朝は妹のボディープレスも無く、両親共にあの2人が来ない事に対して何も言って無かった。 それは昨日ハルヒが「明日は2人共来ません」と言ったせいだろう。 それじゃあ、この胸騒ぎの原因は何なんだ? 単に『12月18日』にトラウマがあるせいなのか。
そんなモヤモヤを抱えたまま校内に入る。 下駄箱の前で会った朝比奈さんや鶴屋さんは普通に挨拶してくれた。 2年9組の前では似非スマイルのイケメンが話し掛けてきた。 そして――。
「うい~っす」 2年5組の教室に入る
「おはよう、キョン君」
「おっす、涼子……って、おい」
「何?」
「どうして、お前が此処にいる?」
「どうして? って此処、わたしの席だけど」
俺の後ろ、どう考えてもハルヒの席だろ、そこは……ま、まさか!?
 
 
 
――冷静に考えてみれば、この時、他のクラスメートに聞けば直ぐに答えが出たんだろうに。 パニックを起こして焦った俺は
「長門っ!!」 急いで廊下に出た
「……何?」 廊下に出たと同時に出くわした長門は
「な、長門!?」 眼鏡を掛けていた
「……観察に徹し過ぎた為、わたしの出番が極度に減少していた。 これは作者のミス、うかつ」 な、何をおっしゃっているのですか、長門さん?
「……よって時空改変を行った」
――うそだろ? どうして? なぜ? 俺は絶望のあまり、その場で膝から崩れ落ちた。
 
 
 
「マジかよ、長門」
「……と言うのは、ジョーク」 ほぇ!?
「何やってんの、キョン」 は、ハルヒ?
「ゴメンね、キョン君」 り、涼子?
「……ドッキリ、大成功」 なぁ~がぁ~とぉ~!!

怒りより脱力感が勝った俺は、そのまま廊下の上で横になった。
「――パ○ラッシュ。 俺、もう疲れたよ……」

 
 
    <エピローグ6・All You Need Is Love>
 
「あの時の『悪夢』の内容、あんたから聞いた事はあったんだけど、ここまでトラウマだったとはね。 本当にゴメンね、キョン」
「ハルヒは涼子に『席換わって』って言われただけなんだろ」
 
「わたしも長門さんから話を聞いてて、思わず悪乗りしちゃったんだけど。 ゴメンなさい、キョン君」
「もう良いよ……3度目のナイフが無いと誓ってくれるなら」
 
「……有機生命体の『トラウマ』と言う物が理解出来て居なかった。 わたしのミス、処分を」
「いや、別に処分って――それじゃあ、もう眼鏡を掛けるのは止めてくれ」
 
そんなこんなで12月19日・土曜日。 さすがに今日は『罰金』は無し。 これでもし『罰金』があったら――俺はSOS団を辞めたかも知れない、多分。 今日はクリスマス・パーティーの為の買出し。 6人揃って北口駅南の『鶴屋北口ガーデンス』に向かう。
 
     「「「「「「うわ~っ。」」」」」」 
 
店内の吹き抜け、と言うべき部分に、聳え立つ巨大クリスマスツリー。
「きれいですぅ」
「凄いですね」
「……驚愕」
「綺麗よね」
「確かにすごいな、これ」
「……キレイ」
おっと、見とれてる場合じゃないな、買い物せねば。 しかし、クリスマス前の最後の土曜日とあって、ごった返す人波。
「これじゃあ、直にはぐれてしまうぞ」
「それでは、こうしましょう。 とりあえず2手に分かれて、万が一はぐれてしまったら携帯で連絡を取りましょう」
「でも古泉君、電波が悪くなる可能性もあるわ」
「それじゃあ、連絡が取れなくなった場合は、夕方5時にこの場所で待つ。 これでどうかしら?」
「朝倉さん、それで良いですぅ」
「……了解した」
「それじゃあ2手に分かれる。 って、もうメンバー決まってるな」 俺以外の5人が黙って頷く。 コンビネーション抜群だな。
  
    俺・ハルヒ・涼子
    古泉・長門・朝比奈さん
 
このメンバーに分かれるのは既定事項ですかね。
「それじゃあ、行くわよ!」 ハルヒ・涼子は俺の腕に、しがみついて来た。
「なあ、ハルヒ・涼子」
「「何よ?」」
「普通に歩かないか」
「「はぐれるでしょ!」」
「あの、お2人さん。 『当たってる』んですけど……」
「「当ててるのよ!!」」   そうですか、やれやれ。
 
 
 
12月24日、クリスマス・イブ。 短縮授業の為、鍋をやるにはもってこいだ。 
放課後、早速部室に向かい支度を始める。 材料の下ごしらえは既に済んでいるので、あとは煮えるのを待つのみ。
その間に飲み物を各自、渡してゆく――当然、アルコールは無しだ。 学校だしな。
「皆、飲み物は持った? それじゃあ乾杯するわよ! メリークリスマス!!」
    「「「「「メリークリスマス!!」」」」」  
パーティーが始まり、俺達は鍋を囲んで盛り上がった。
 
窓の外は凍てつく冬晴れの昼下がり、部室内は暖房と鍋の温かさで少々暑い位だ。
今年の鍋の味付けはハルヒと涼子の合作。 料理上手の2人が作ったのだから美味いに決まっている。
 
 
「ねぇ」
「何だ?」
「今夜、待ってるから」
「ああ、以前に約束した通り、な。 楽しみにしてるぞ」
 
俺と『彼女』が小声で会話している。 今日は団活終了後、『彼女』の部屋に行く事になっている。 その時


 
……少し淋しげな視線を感じ、目が合ってしまう。
心の中で謝った後、目を閉じる――。
再び合った視線の先には、僅かに微笑む顔が見えた。


   
    『胸の奥が苦しい』
 
俺はその時、どんな表情を浮かべていたのだろうか。
 
 
「あーすまん、少し席を外す」
「僕もご同行致します」 連れション、か。 食事中だから、口には出すまい。
「直ぐに戻って来る」
「戻って来た時には中身は無いと思いなさいよ」
マジか!? ハルヒ、それは勘弁してくれ。      そして2人、廊下に出る。 
 


 
    <エピローグ7・For Your Happiness>
 
「一緒に来たと言うからには、何か用か、古泉」
「いえ、何も。 寧ろ何か言いたいのは貴方の方では?」
「察しが良いな。 将来は心理学でも専攻する気か」
「それも良いかも知れませんね」
「話が長くなるかも知れん、先に用を足しておくか」
 
 
「所で古泉」
「何でしょう」
「お前、恋愛してるか」
「いきなりですね。 僕も男子高校生ですし、正直、気になる女性も居ますが……生憎、機関に所属する身ですし、多忙ゆえ恋愛どころでは無いのが実情です。 残念ながら」
「――すまん、古泉」
「いえ、お気になさらずに。 それでは僕も単刀直入に言いますが……貴方はご自分の選択に、まだお悩みで?」
鋭いな、こいつ。 さすがエスパーか。 いや、そんな能力は無い筈だが。
「正直に言えば、な。 俺は初恋に破れた時、ものすごくショックだった。 そんなトラウマが恋愛に対して臆病になっていたと思う。 『選ばれなかった悲しみ』って奴だ」
「でも貴方は片方を選んだ。 貴方は涼宮さんと朝倉さん、どちらかを選ぶ2択しか考えなかったのですか?」
「……どういう意味だ」
「他にも選択肢があったと言う事ですよ。 まあ、そのどれも貴方が選ぶとは思えませんがね」
ニヤケスマイルのイケメンエスパーは続けた
「まず1つは、全く別の女性を選択する事。 我がSOS団には涼宮さん・朝倉さんの他にも朝比奈さん・長門さんと言う魅力的な女性がいらっしゃる。 他に目を向けても……キリが無いので止めておきましょう。 2つ目は、涼宮さん・朝倉さんの2人同時に付き合う」
「有り得ん!」
「フフッ、でしょうね。 貴方の優しさがその選択肢を選ぶとは到底、思えません。 そして最後に――」
急に古泉の顔つきが変わった。 目つきは鋭くなり、口元も引き締まってかなり真剣だ。
「……2人共、選ばない事です」
「!!」
「今、何を考えました?」
「全く、その考えは無かったからな」
「でしょうね。 あなたがその選択をするとは思えませんが、もし、その選択をしていたら、どう考えます?」
「……俺は、悩まずに済むのだろうか」
「かも知れませんし、逆に」
「更に悩むかも知れんな。 傷つくのが2人に増える、いや、その選択をした俺も、か」
「はい。 だから貴方の選択は正しいとも言えますし、違うとも言えます。 正解なんて無いのですよ。 恋愛、いや人生において……それとも一生笑いっぱなしの悩みの無い人生を貴方はお望みですか?」
「それは無理だ。 そんな人生があるなら見てみたい気もするがな」
「僕から言わせて頂けるのなら、贅沢な悩みですよ」
「すまんな、古泉。 お前の気持ちも考えないで、自分の事ばかり考えて」
「気にしないで下さい。 僕のこの人生も、自分で選んだ道ですから。 貴方もですよね」
古泉は微笑んでいた。 作り笑いでは無く、自然に――。
「なあ、古泉」
「何でしょうか」
「迷惑掛けたな」
「とんでも無い、こちらこそ失礼致しました」
「でも、本音で向き合ってくれただろ?」
「はい」
「それで良いんだ。 あとな、お前にも幸せが来ると良いな……いや、きっと来るさ。 もし将来、お前に彼女が出来、結婚する事になったら式には呼べよ。 お前は俺の事をどう思っているか知らんが、俺はお前の事を只の友人とは思っていない。 それ以上に大事な奴だ」
「ありがとうございます。 僕も貴方を大事に思っていますから、式を挙げる際にはお呼び致しますよ。 尤も、結婚は貴方の方が先でしょうから、その時は盛大にお祝いしますよ」
「サンキュ、古泉」
  
「キョン、古泉君、片付け始めるわよ!」 おっと、ハルヒか。 え、片付けだって!?
「そうよ。 だって長門さんが全部食べてしまったもの」 マジかよ、涼子。 ろくに食べて無いんだぞ、追加頼む!!
 
     「「うん、それ無理!」」     ハモるなよ、お前等。
 
「良いじゃないですか。 夜、『彼女』の手料理で満たしてもらえば」
「黙れ古泉、一言多いぞ」 やれやれ、空腹は後で満たすとしますか。
「さあ、片付けに行くわよ!」
「「「了解!」」」 
 

 
 
    <エピローグ8・Only For You>
 
雲一つ無い夕暮れの寒空の中、俺達は坂を下っていた。

「ホワイトクリスマスは無理ね」
「そんな都合よく行かないさ、世の中」
「あら、現実的過ぎるのも良くないわよ」
「おっしゃる通り。 偶には夢を見るのも良いかと」
「……ケーキ食べたい」
「美味しいケーキ屋さん、紹介しますね」 それぞれ他愛も無い会話で下校して行く。 

明日は終業式。 高校生活も折り返し地点を過ぎて、朝比奈さんはもうすぐ卒業。 こうして6人揃って下校するのも、あと何回だろうか。
「それじゃあ、解散!」
光陽園駅前で別れる俺達、それぞれの家の方角へ散らばって行く。
 


――俺は独り、缶コーヒーを買い、駅前のベンチに腰掛ける。 『彼女』の部屋に向かう前に、気持ちの整理をつけたかったからだ。

  「何を迷っているんだ、俺は?」

そう、何も迷う事は無い筈だ。 俺は『彼女』を選んだ、それに何の問題があるのだろうか。
「荷物を取りに行くから」と『彼女』を先に行かせたのだが、荷物は今座っているベンチの後ろのコインロッカーにあるのだ。
だから、別に待ってもらっても良かったのだが……矢張り心の隅に引っ掛かる感情が邪魔をしていた。

      『とまどい』

自分で決めた道なんだ、だけど。 あの時、悩んで、迷って決めた答え――それが本当に正しかったのか? 


駅前の横断歩道、北高のカップルが並んで歩いて来る。 仲良く腕を組んで、幸せそうな笑顔を互いに向けて……そう、あの二人みたいに互いに今が幸せなら良いんじゃないか? 答えなんて直ぐに出なくても仕方無い、未来なんて解らないんだから。 あのカップルの未来も、そして、俺達の将来も。

   「さて、腹も減ったし。 行くか!」


残りの缶コーヒーを飲み干し、立ち上がる。 すっかり陽が落ちた周辺には、家々の明かりが一つ、また一つと寒空に揺れていた。 
駅のロッカーに預けてあった着替えと『彼女』へのクリスマス・プレゼントを抱え、俺は線路沿いの道を少し急いだ。 『彼女』は部屋で俺を待っている。 俺は今、どんな顔をしているのだろう?


   ――ふと見上げた澄んだ空の彼方には、一番星が輝き始めていた。


     
       <『Candee-Graffiti』> ~Fin~



 







コメントを投稿