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京都「少年野球・死のしごき事件」第1回口頭弁論開かれる

2006年04月29日 | Baseball/MLB

(特訓という名の凄惨な「リンチ」が行なわれた現場)

このBlogでもたびたびお伝えしているが、京都府・京田辺市で昨年10月に起きた「少年野球チーム・死のしごき事件」で、熱中症による多臓器事件で死亡した奥瀬翔人君(当時13歳)の両親が、少年が所属していた有名少年野球チームの総監督(64歳)らを相手に損害賠償を求めて起こした民事訴訟の第1回口頭弁論が、昨日、京都地裁で開かれた。

まず、事件の概要については、1月27日付の「京都新聞」コラムをご参照いただきたい。(アドレスも記載しますが、更新により削除される可能性もあるので、記事自体もコピーいたします。「京都新聞・コラム『取材ノートから』1/27付http://www.kyoto-np.co.jp/kp/rensai/syuzainote/060127.html

少年野球チーム選手熱中症死亡 練習に偏重せぬ指導を
京田辺支局・松田ゆい

 京田辺市の少年野球チーム「京都田辺硬式野球部」の中学2年生の選手が練習中に倒れ、熱中症で死亡した問題で、昨年末、両親は、責任の所在を明らかにしたいと当時の総監督(63)を業務上過失致死容疑で府警に告訴した。体調管理や救護措置など指導陣の措置は適切だったのか。スポーツのすそ野を支える地域の指導者の危機管理能力が問われている。

警鐘をならしたい
 「毎日涙のない日はなかった。守ってやれなくてごめんな」。亡くなった奥瀬翔人君=当時(13)=の父親は、息子に心の中であらためてわびながら「指導者が熱中症についてしっかりと認識した上で指導にあたるよう、警鐘をならしたい」と告訴の理由を明かした。

 練習は昨年10月1日、大会の敗戦後、総監督の指示で行われた。奥瀬君は、投球練習と、20メートルダッシュ100本、30メートルダッシュ100本、坂道ダッシュ100本をこなし、2回目の坂道ダッシュ100本を始めた矢先に倒れ、翌日、多臓器不全のため亡くなった。

 総監督は「本人が大丈夫と言ったので、5分から10分寝かせていた。水分と休憩も取らせていた」と弁明。一方、両親は「すぐに救急車の要請を行い、その間に体温を下げていれば助かった」と話す。

チーム全体の失敗
  チームは、ロッテの今江敏晃選手や巨人の内海哲也選手ら多数のプロや甲子園球児を輩出。総監督の指導力に将来有望な球児が集まったが、保護者は「親は素人だから練習メニューなどに口出しできなかった」「逆らうと子どものレギュラー取りが心配だった」と複雑な思いも抱えていた。

 結局、チームは上部組織の日本少年野球連盟の処分を受けて解散し、選手の多くは他チームに移籍。総監督と一部の保護者は「子どもの野球をする権利まで奪うのは間違い」と、連盟にチーム復帰の嘆願書を提出しているが、連盟の鎌谷實審査室長は「チーム全体の失敗」と救済措置は取らない方針。

医療知識学ぶ例も
 熱中症は、体温の冷却や救急隊の要請など迅速な対応が不可欠だ。日本サッカー協会は、2005年度から少年サッカーチームの指導者に指導員認定資格の取得を義務づけ、熱中症を含めた医療知識などを学ばせている。また、地域に根ざすスポーツ少年団の指導者も、日本体育協会の講習でスポーツトレーニングに必要な知識を体系的に得ている。

 京都田辺硬式野球部が所属した日本少年野球連盟は、年に一度指導者講習会を開いてきたが、技術指導が主だった。京都支部は今月末、全所属チームの監督らを対象に救急救命の講習会を初めて開く予定だが、指導者の一人は「自分のチームで事故が起きないとも限らず、ボランティアで引き受けていて怖くなる」と不安を隠さない。

 競技がうまくなりたいと練習に励む子どもを後押ししながらも、時には練習を強制的に止めるのが大人の役目だ。判断の誤りは、夢ある少年の未来を閉ざし、選手の活躍の場を奪う。指導的立場の連盟はもちろんのこと、個々の指導者や保護者らが一体となって技術偏重ではなく子どもの成長の度合いを考えた育成システムを早急に作っていかなければ、同じような悲劇が繰り返されることになる。

[京都新聞 2006年1月27日掲載]

 

両親が起こしたこの刑事告訴については、まだ告訴を受理した田辺署の結論が出ていないようだが、両親はこれと並行して、元総監督らを相手に損害賠償請求の民事訴訟を起こしている。刑事訴訟の立件には時間がかかることも多く、その間に総監督側が証拠隠滅工作などを図り、損害請求よりも、事件の真実がうやむやにされるのを防ぐことを第一の目的とした民事訴訟と考えていいだろう。その第1回口頭弁論の様子を、「京都新聞」は次のように伝えている(http://www.kyoto-np.co.jp/article.php?mid=P2006042800157&genre=D1&area=K10)。

 

元総監督側、争う姿勢 少年野球特訓死第1回口頭弁論

 京田辺市の少年野球チーム「京都田辺硬式野球部」の練習中に倒れ、死亡した中学2年生の奥瀬翔人君=当時(13)=の両親が、元総監督を相手に損害賠償を求めた民事訴訟の第1回口頭弁論が28日、京都地裁(井戸謙一裁判長)であった。総監督側は事前に提出した答弁書で「不慮の事故で賠償責任はない」と主張、争う姿勢を示した。

 訴状によると、翔人君は昨年10月1日、京田辺市の木津川運動公園で、試合に負けた後の「ペナルティー練習」として20メートル走、30メートル走を各100本した後、坂道ダッシュの途中に倒れて意識を失い、翌2日、熱中症による多臓器不全で死亡した。

 両親は▽練習は中学生にとって厳しすぎる▽休憩や水分補給が不十分▽倒れた後も救急車到着までの30分間、事実上放置していた-と主張。総監督側は▽休憩や水分補給は十分で、翔人君の体調不良による偶然発生した事故▽練習を見ていた親にも安全確認の義務がある-などとしている。

 閉廷後、記者会見した翔人君の父親は「親は練習に口出しできない雰囲気だった」と述べ、「熱中症は知識があれば防げる病気。2人目の翔人を出さないためにも、正直に過ちを認めてほしい」と語った。(「京都新聞」4月28日付)

 

まったく「盗っ人猛々しい」とは、まさにこの総監督のことを言うのだろう。事件が明るみになった直後、両親に正式に謝罪もしないまま、自己弁護のため自ら積極的にテレビや新聞の取材に応じ、カメラの前に顔まで出し、実名も公表していた人間が、いざ裁判が始まると法廷には姿を見せず、弁明書だけを提出して弁護士に朗読させ、事件の原因をまず「少年の体質」に押しつけている。両親のもとには事件直後や、提訴後にも、「そんな狂気じみた練習を止められなかった親の責任はどうなのか」などという嫌がらせの声も寄せられたようだ。しかし、閉廷後の記者会見で両親が「親は練習に口出しできない雰囲気だった」と語っていたように、スポーツ現場の指導者である総監督らの行為よりも先に(ときには免罪までして)、両親の監督責任を追及しようとする考え方は、「上下関係偏重」「上意下達絶対主義」「指導者・先輩=独裁者・専制君主・支配者」という、旧日本軍から悪しきDNAを受け継いだ「体育会系体質」に毒されている日本スポーツ界の現状を把握・理解していない、あるいはそれを肯定している人間の言い分である。

そうしたネットファシストなどの「応援団」にも勇気づけられたのか、元総監督はさらに弁明書の中で、こともあろうに「練習を見ていた親にも安全確認の義務がある」などと妄言を吐いている。「語るに落ちる」とはまさにこのことをいうのだろう。
それならば事件当日の状況について補足すると、この総監督はダッシュ中に倒れた奥瀬君を助けようと駆け寄ったチームメートたちに「放っておけ」と怒鳴り(実際に奥瀬君は約30分にわたって放置され、それが死につながったのだが)救護活動そのものをさえぎっている。また、別の試合では頭部にデッドボールを受けて昏倒した別の少年が救護テントで手当てを受けていたのを無理矢理起こして、まだ意識が朦朧としているのに打席に立たせてマスクもかぶらせ続けたとの証言もある。そして、この「死のリンチ特訓」が行なわれた当日、京都田辺チームは朝から公式戦2試合に出場し(少年野球で、プロどころか高校野球でもやらないダブルヘッダーである!)、亡くなった奥瀬君は投手・一塁手として2試合とも出場しているのだ。もし「奥瀬君の体調不良が原因」だとしても、その原因を作ったのはやはり総監督ら指導者たちだったのである。  

もし、自分の指導に過ちがなかったと言うのならば、堂々と法廷に出て、それを主張すればいいのに、さすがに両親に合わせる顔がないのか、出廷を拒否して、弁明書で「言いっぱなし」にするという行為だけでも、この総監督の指導者としての資質、それ以前に人間性そのものが根本から欠如していることが手に取るようにわかろうというものだ。いずれにしても今後の裁判で、事件の真相はさらに明らかになっていくことだろう。私も何とか公判を傍聴して、こうした悲劇がスポーツの現場で繰り返されないための一助にしたいと考えている。

なお、この事件に関する当Blogの関連記事は、下記のアドレスからご参照ください。
(事件発生直後=2005年10月7日)
http://blog.livedoor.jp/kairi19581/archives/2005-10.html#20051007
(所属チームの解散・総監督の除名処分直後=2005年10月23日)
http://blog.goo.ne.jp/holycow1998/e/fa3a068dbd69ac2d81f08229b4899fce 

(事件現場取材=2005年12月2日)
http://blog.goo.ne.jp/holycow1998/e/e150dc04d0796ab82ce0d46dbe38b613
(刑事告訴直後=2006年1月6日)
http://blog.goo.ne.jp/holycow1998/e/04f27e7c2be50aed398aae6fd6f5698f
(損害賠償請求民事訴訟提訴直後=2006年3月9日)
http://blog.goo.ne.jp/holycow1998/e/af78129d172c47d87746b62923452f06



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5 コメント

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いい暴力と悪い暴力があるようで (破壊王子)
2006-04-29 22:09:15
今年、大新聞系のプロ球団の監督が、オープン戦で大学の後輩にあたる若手を「足で指導」したニュースがありました。(某球団のシニア何とか氏もよく自慢されているようですが。)

これを美談のように仕立てて報道したメディアがあったはずです。

この風潮がある限り、この事件と同じ事は再び何処かで起きるでしょう。

非常に根の深い事件だと改めて感じました。

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戸塚ヨットスクール (ADELANTE)
2006-04-30 03:19:45
戸塚ヨットスクールの校長が出所し、記者会見で「判決に納得していない。体罰は教育です」と発言していました。(朝日ニュースターのニュース番組でみました)
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何のための「刑罰」なのか (Ryo Ueda)
2006-04-30 11:19:41
麻薬事件で実刑を食らった角川春樹氏もそうですが、断罪されて刑に服しても出所後反省のかけらも見えない人間を見ると、日本の刑法が定めている刑罰の効果に疑問さえ感じますね。出所者の再犯率が高いのもわかる気がします。

戸塚校長に関しては、人の命が失われているっていう自覚がまったく欠如しています。被告になった総監督と根は同じ人間性の持ち主なのでしょうね。
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Unknown (Yosh)
2006-04-30 13:59:09
 この事件のことは、貴ブログで取り上げられていなかったら私の記憶からいつの間にか抜け落ちてしまっていたことでしょう。非常に痛ましい、しかし「よくあること」の延長線にある事件だと思いますので、今後とも追求をお願いします。私からはせいぜいコメントを書くという形くらいの応援しかできませんが。



 犯罪心理学の世界では、大ざっぱに言って、犯罪者の再犯の可能性は2パターンに分かれることが知られています。完全に構成して2度と繰り返さない人と、何度でも犯罪を繰り返す人です。確かに後者については、刑罰の効果が薄いのかも知れません。ただ、人格障害とも関わる問題で、現状の刑務所の体制からは荷が重い面もあると思います。どこから手をつけるべきなのか、考えるだけで途方に暮れそうです。
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こどもを送り出す側として他人ごとではないです (おりがみ)
2006-05-03 01:47:50
毎年のように卒園児何人かが少年野球チームへ入ります。

保育所で「野球ゴッコ」を楽しんでいる私にも多少なりとも「野球楽しいよ」と言った責任があると思ってます。全てのお子が大人の間違った指導で傷ついたり野球が嫌いになったりしませんように。



高校生の色々な「不祥事」とともに「体罰」など本当に根が深い。

自分の周りの子が無事ならまぁ良いか・・なんて到底思えません。
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