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高校・大学野球界の「プロ除菌体質」を嗤(わら)う(その1)

2006年01月27日 | Baseball/MLB

(高畠導宏氏は高野連の「プロ除菌体質」の犠牲者でもあった)

1995年に発行されたボルティモア・オリオールズ発行の月刊誌「ORIOLES」には、全国の高校や大学の野球部で指導に当たっているオリオールズのOBたちの近況が掲載されている。
2001年に現役を引退した元サンディエゴ・パドレスの強打者トニー・グウィンは、引退後出身校のサンディエゴ州立大学野球部で指導に当たり、大学野球ワールドシリーズの解説者も務めている(Aki猪瀬氏に言わせれば「そんなところで解説しているより、自分のチームをカレッジワールドシリーズに出場させてよ」ということでもあるのだが=笑)。
またNBAのトレイルブレイザーズ、ロケッツで名ガードとして活躍したクライド・ドレクスラーも引退後に出身校のヒューストン大学バスケットボール部の監督に就任している。
日本でもサッカーの世界では、天皇杯でJリーグのチームと大学、あるいは高校のチームが対戦するケースがある。
ところが、野球の世界では、こうした光景は見られない。学生野球、特に高校野球の世界では、時代錯誤もはなはだしい「プロ除菌体質」がまかり通っているからだ。

まず、学生野球の基本法ともいえる「学生野球憲章」の次の条文をお読みいただきたい。

第2章「大学野球」
第10条 選手及び部員は、職業野球に所属する選手、監督、コーチ、審判員その他直接に職業野球の試合若しくは練習に関与している者又は関与したことがある者と試合若しくは練習を行ない、又はこれらの者からコーチ若しくは審判を受けることができない。但し、直接に職業野球の試合又は練習に関与したことがある者であっても、日本学生野球 協会審査室においてその適性を認定された者については、この限りではない。 
同2. 前項の規定は、職業野球のスカウトその他これに準ずる者についても、これを準用する。

この規定は高校野球においても高野連の規定で、大学よりもより厳格なものとして施行されている。

一読しただけで、まず「職業野球」という表現を未だに使っていることに強い違和感をおぼえずにはいられない。「職業野球」は、もちろん発足当時のプロ野球界では自らが「日本職業野球連盟」と名乗っていたこともあり、公式な呼称ではあったが、その当時から蔑称としてのニュアンスが強く、1940年に戦時体制への協力から「日本野球連盟」と改称して以降は(当時新聞は「日本野球」の用語を使っていた)、終戦後から現在に至るまで、職業野球の名称をプロ野球機構や球団が使うことはない
学生野球憲章が制定されたのは1946年12月21日(当時は「学生野球基準要項」)だが、そのあと7度にわたる改正が行なわれ、最後の改正は1992年だったにもかかわらず、職業蔑視とも言うべきそうした蔑称を堂々と使い続けていることじたいに、「学生の健全な育成」とはほど遠い考え方がうかがえてならないのだ。

学生野球の「プロ排除」がどれだけ徹底しているかといえば、たとえば評論家の豊田泰光さんが、テレビの取材で母校の水戸商業高校の野球部グラウンドを訪れても、部員の姿がないのに、グラウンドに降りてしゃべることもできないのである。ちなみに豊田さんが最後にプロ野球と関わったのは1972年の近鉄コーチとしてだから、30年以上の歳月が流れている
最近は「雪解け」が進んで、昨年の12月からは現役プロ選手が今年から母校のグラウンドで自主トレが出来るようになった。ただし、次のような細かい規定がある。

プロ野球現役選手の母校練習参加承認に関する規定
【日本学生野球憲章第12条適用】

▽シーズンオフ(12月1日~翌年1月31日)に、プロ野球現役選手が自らのトレーニングを行うため、母校で練習に参加することを認める。練習参加を希望するときは、事前に当該校から所属連盟に届け出ること(口頭可)。
なお、ことさら当該校の宣伝とみなされるような行為は差し控えること。
(プロ野球現役選手の母校練習参加に関する申し合わせ事項)
1) 母校の練習参加には所属連盟に事前連絡が必要で、必ず前日までの連絡、確認を高校においては野球部責任教師または監督、大学においては監督または専任コーチと取ること。
2) トレーニングにふさわしい服装で参加すること。
3) 野球部員の前で喫煙はしないこと。
4) 野球部員の個々の進路に関することには関与しないこと。
5) 高校においては野球部責任教師または監督、大学においては監督または専任コーチが不在のときはトレーニングに参加することはできない。
6) 野球部員全体への挨拶、自己紹介や激励などの話をすることは差し支えないが、技術指導を伴うミーティングをすることはできない。
7) トレーニング中、個々の部員に気がついたアドバイスをすることは差し支えないが、ノックをするなどの指導はできない。
8) 母校が他校を交えて合同練習をするときは参加できない。


3と4はわかりますよ。そもそも喫煙者が異常に多いプロ野球界の体質じたいがおかしいんだし、悪質なスカウト活動でアマ野球との関係を悪くしてきたのも事実ですから。でも後輩たちにノックもアドバイスもできないっていうのは行き過ぎ、というより競技の普及・発展という観点からすればナンセンスそのものではないだろうか。

脇村現会長が就任してから、高野連のかたくなな体質もずいぶん変わった。ただ、それまでがあまりにもひどすぎたので、雪解けが進んだといわれる現在も、「非常識」とも思える体質は、依然として続いているのである。
プロ経験者に関しては、高校野球の監督になる場合、次のような規定が設けられている。

【日本学生野球憲章第10条適用】
(4) プロ野球団退団後、高等学校教諭として通算2年以上在職している元プロ野球団関係者は当該学校長の申請により当該都道府県高等学校野球連盟、日本高等学校野球連盟を経て日本学生野球協会においてその適性審査を行う。(高等学校教諭に関する特別審査)
『補足事項』
教諭歴のうち実習助手、非常勤講師としての在職期間は通算年数に加えることはできない。


この在職期間も最初は10年だったのが、5年、そして2年と短縮された。それでもこの規定のために、南海やロッテの名打撃コーチとして知られ、その後福岡の私立高校の教諭に転じた高畠導宏氏は、野球部を指導する夢を果たせぬまま、ガンのためこの世を去っている。
また、この規定を適用されて高校野球の監督になった人も、次の14名に過ぎない。

「高校教員資格での適性認定者」
(1) S59.4.18 後 藤   富 瀬戸内高校
(2) S59.7.25 前 川 八 郎 堀越高校
(3) S62.10.2 入 江   淳 宮崎中央
(4) S63.11.28 東   照 洋 柳ヶ浦
(5) H6.7.22 西 村 高 司 長浜北
(6) H9.3.13 佐 藤 文 男 府中東
(7) H10.2.4 竹 本   修 武庫工業
(8) H11.4.1 阿 井 英二郎 つくば秀英
(9) H11.7.1 杉 山 富 栄 旭丘
(10) H12.4.1 山 本    多摩大学附属聖ヶ丘
(11) H14.4.1 佐 野   心 常葉学園菊川
(12) H14.4.10 小 林 昭 則 帝京
(13) H15.4.1 有 倉 雅 史 帯広三条
(14) H15.4.1 大 野   久 東洋大学附属牛久

しかし、逆に「プロ経験のない」指導者の資格規定は皆無も同然。何度も同じことを書くが、プロの経験がない人間ならば、近所の野球好きのオッサンを連れてきて高校野球の監督に据えても文句を言われないのである。この点について、現在は高野連の幹部を務める人物に電話で問いただしたところ、「ご意見としては承っておきます」との誠に慇懃無礼な答えが返ってきた。さすが、原爆の犠牲者慰霊を呼びかけた高校生の行動をストップさせただけのことはある。
皆さんは、学生野球界のこうした「プロ除菌体質」について、どう思われるだろうか。もちろんプロの側にも大いに問題があり、プロ・アマ球界断絶の原因を作ってきた。しかし、源流には、アマ球界の指導者たちが「商売人野球」「見世物」とプロ野球への差別を公言してきた経緯もあるのだ。
今後、学生野球憲章を「検証」しながら、こうした問題の不条理さと解決法を見出していきたいと考えている。



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1 コメント

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はじめまして (おりがみ)
2006-01-30 16:19:05
プロアマの壁、今の小学生が大人になるまでにはなくなっているでしょうか?私たちの親の世代がなぁなぁで見過ごしてきているけれど、わたしは「このままでいいわけないよ」と思っているものです。ではまたー。
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