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スランプの福留孝介に話してあげたいミッキー・マントルの「いい話」

2008年07月30日 | Baseball/MLB

 (「史上最強のスイッチヒッター」ミッキー・マントル。マイナー降格の際、「中心選手の矜持」を学んだ)

 

 オールスター戦終了後の10試合で、打点、ホームランともにゼロ──これが福留孝介(シカゴ・カブス)の「現状」である。
  本来、デレック・リーアラミス・ラミレスのあとの五番として期待され、少なくとも球宴前まではその役割を果たしてきたが、ファン投票出で選出されたオールスター出場前から下降線をたどり始めた打棒は依然として湿っており、打順も七、八番に下がることが増えてきた。

 一昨日、私が解説を担当したスカパー!MLBライブの対マーリンズ戦でも、センター前にシングルヒット一本は放ったものの、塁上にランナーを置いた場面では早いカウントでいずれも凡退。昨日の対ブリュワーズ戦でも途中出場で1安打を放ち盗塁も決めたが、依然として打点・ホームランのゼロ更新は続いている。

 放送でもコメントしたのだが、一昨日のシングルヒットといい、昨日のゲームでCC・サバシアから放った内野安打といい、ちょっと過激な言い方になるが私から見ると「打たないほうがマシ」なヒットである。以前にも厳しいことを書いたが、こういう福留の姿からは「志の低さ」ばかりが目について仕方がないのである。

 球場の広さ、相手投手の球威、公式使用球の大きさの違いなどを考えれば、確かに中日ドラゴンズ時代のように20本、30本台とホームランを量産するというわけにはいかないだろう。しかし、それでもシングルヒットのコレクターになることをファンは求めていないし、ルー・ピネラ監督ら首脳陣もそうした役割を本音では彼に期待していないはずだ。

 たとえホームランが15本前後でも、塁打数(トータルベース)でリーグの上位に食い込むこと──福留の打者としてのタイプを考えれば、これが首脳陣やファンを満足させ、チームの勝利に貢献できる理想像であると思う。つまり、彼はそれがプルヒッティングであろうと流し打ちであろうと常に強くバットを振り抜き、打球が左中間や右中間を抜いて二塁打や三塁打を稼ぐ「ギャップヒッター」であることを心がけるべきなのだ。福留には全盛期のノマー・ガルシアパーラ(レッドソックス時代)を左打ちにしたようなバッターになってほしいし、アレックス・ロドリゲス(ヤンキース)やマニー・ラミレス(レッドソックス)も本質的にはギャップヒッターである。

 センター返しは本来はバッティングの基本だが、少なくとも昨日のセンター前ヒットは打球をより遠くに、速い打球で飛ばそうという意図のもとでもたらされた結果ではなかった。要するに(それが決して悪いと言っているわけではないが)イチローピート・ローズが一番打者として打つ打球である。だが、福留は中日時代、そしてカブスにおいても、あくまでポイントゲッター、つまりランナーを塁上に置いて打席に立ち、彼らを生還させる、あるいは最低限より先の塁まで進塁させるバッティングをしなければならないのだ。

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 通算536本塁打を放ち、1956年には三冠王にも輝いた「史上最強のスイッチヒッター」ミッキー・マントル(ヤンキース)にこんなエピソードがある。

 1951年、彼は19歳の若さでメジャー昇格を果たした。前年、マイナーC級(現在のルーキーリーグレベル)での活躍が認められての抜擢だったが、実情は、引退が迫っていた大スター、ジョー・ディマジオの後継者づくりを急いだヤンキースフロントによる“青田刈り”であり、実際、シーズンが始まるとやがて深刻なスランプに陥り、ケイシー・ステンゲル監督によって再調整のためトップファームのカンザスシティーに送られた。

 メジャー再昇格を焦ったマントルは、カンザスシティーでの初打席で、当時メジャーでも一、二を争うといわれた快足を生かし、バントヒットで出塁したが、それを見たカンザスシティーの監督ジョージ・セルカーク(戦前ヤンキースで活躍した外野手で、ベーブ・ルースの背番号3を受け継いでいた主力選手)は、イニングが終わって意気揚々とダッグアウトに引き上げてきたマントルを一喝した。

「おいミッキー、ヤンキースはそんなせこいマネをさせるためにお前をここによこしたんじゃないぞ。クリーンヒットを打たせるためなんだ!」

 シーズン後半、ステンゲルがマントルをヤンキースに呼び戻したとき、そのスイングははるかに力強さを増していた。そして、数試合ノーヒットが続き、ステンゲルが「気分転換にバントヒットでも狙ったらどうだ」とアドバイスしても、マントルは頑として首を縦に振らず、左右両打席で体がねじ切れんばかりのフルスイングをやめようとはしなかった。

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 昨日のスタメン落ちは、おそらく「休養」の意味合いが強かったとは思う。しかし、監督が本当に信頼している選手ならば、本人が申し出ない限り、ラインナップからは外さないものだ。カブスではデレックやラミレスがまさにそんな選手だし、アルバート・プホルス(カージナルス)やデレク・ジーター(ヤンキース)、連続試合出場を続けていた当時の松井秀喜もそうだった。日本のプロ野球では、何といっても金本知憲(阪神タイガース)がその代表格だろう。

 おそらく10年ぐらいのスパンで、金本と福留のプレーを見続けてきているが、野球選手としての素質、センスなどすべてにおいて福留が上回っていると思われるのに、プレーから深い感動を受けてきたという点では圧倒的に金本に軍配が上がる。それはひと言でいえばやはり金本の「志の高さ」ゆえだと思う。

 金本がプレーを通じて観客に与えてきた感動、チームにもたらしてきた好影響は、私がここにいちいち書き連ねる必要などないだろう。将来、金本がユニフォームを脱いだあと(その時期はできるだけ遠い未来になることを祈っているが)、阪神タイガースは出版物や公式サイトに球団史を掲載する際、「紀元前」にあやかって、年表を「金本前」と「金本後」に分けるべきだと私は考えている。

 金本には決してメジャーには行って欲しくないが、しかし彼の存在をアメリカの野球関係者、メディア、ファンにひとりでも多く知ってもらえればと思う。彼はそれほどの選手なのだ。

 金本と福留を比較するならば、 単に野球エリートと雑草という野球選手としての生い立ちだけでなく、パワー(それも金本の場合、想像を絶する猛トレーニングと節制の積み重ねで身につけたものだ)以外は、野球センス、素質、肩、脚力と何もかもが福留に軍配が上がるだろう。それだけに、福留に金本のような「志の高さ」が加われば、まさに鬼に金棒であり、それこそ数年後にはメジャー最高年俸を手にするのも決して夢ではないのだ。

 一昨日のシングルヒットに話を戻せば、試合には勝ったものの、福留自身には「明日につながらない」一打であり、そのあとのチャンスでの、しかもあまりにも早いカウントでの、難しい球に手を出しての凡退には、大いに失望せざるを得なかった。一発長打を狙えと言っているのではない。彼が「ギャップヒッター」としての自分自身を取り戻すために、結果はどうなっても打席で理想のスイングを追い求めるべきなのだ。
 それは決してエゴイズムではなく、彼が本来の打球を取り戻せば、カブスの100年ぶりの世界一はより現実味を増す
のである。

 福留には、以前にも厳しいことを言ったり書いたりした(そのためにとんでもない言いがかりをつけられたこともありましたが=笑)。しかし、どうでもいい、どうなっても構わない選手には苦言など最初から呈さないのである。彼にシーズンの最後までフィールドに立ってもらい、勝利の美酒に酔いしれてほしいと願うからこそのアドバイスでなのである。福留のこれからの奮起に大いに期待したいと思う。

  

 

  

 

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