東埼玉病院 総合診療科ブログ

勉強会やカンファレンスでの話題、臨床以外での活動などについて書いていきます!

がん終末期における輸血の適応について

2016-10-23 20:18:41 | カンファレンスの話題

先日、カンファレンスで話題があがったので、上記について少し調べてみました。随分前に調べたときにあまり明確なものはなく、自分のなかでは、「ある程度のPSがあり、輸血をすることにより本人の症状改善やQOLが週単位で維持できるとことが輸血の適応なのかな」とイメージして終わりました。主には、下記の教科書からの記載含めて、エキスパートオピニオンが主ではありました。

 
「トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント」より

―緩和ケアおける非緊急性の輸血―

適応

一般に、次の基準すべてに適合しているときに行うべきである:

  • 貧血に起因した症状、例えば、労作時に疲労感、脱力感、息切れが起こり

    それらが患者にとり煩わしい、日常生活を制約する、輸血により是正できる可能性がある

  • 輸血の効果が得られ、その効果が少なくとも2週間は持続すると期待できる
  • 患者が輸血とそれに必要な血液検査を受け入れている

禁忌

  • 既往の輸血で利益が得られていない
  • 状態からみて、患者の死が差し迫っている(超終末期である)
  • 患者の死を遅らせるだけという表現があてはまる輸血である
  • 「何かしなくてはならない」と思う家族からの要求を根拠とした輸血
 
 今回、もう一度上記内容について調べてみました。
 
 
 

Asian Pac J Cancer Prev. 2014;15(10):4251-4.

Use of blood transfusion at the end of life: does it have any effects on survival of cancer patients?

20102011年に単病院で亡くなったがん患者398例を後ろ向きに検討。90%に最後の入院時に貧血を認めた。153例に輸血(赤血球)が行われていた。貧血がある患者で輸血群と非輸血群を比較するとそれぞれ生存期間(入院から死亡まで)は15日と8日であり、有意に輸血群が長かった。

(そもそも生存期間が長そうであったから輸血が行われた可能性は否定できず、生存期間を延ばすとも言えないのでは? 1週間程度生存期間が延びるということの終末期における臨床的意義がどの程度あるのかを、輸血という限られた医療的資源とのバランスでどのように考えるか・・・)

 

See comment in PubMed Commons below


J Palliat Med. 2010 Nov;13(11):1327-30. doi: 10.1089/jpm.2010.0143. Epub 2010 Oct 25.

Assessment of fatigue after blood transfusion in palliative care patients: a feasibility study.

貧血があり、輸血をうけた倦怠感があるがん終末期患者30例を対象として、倦怠感のスケールが改善するかどうかを検討⇒輸血後3日後の倦怠感スケールが有意に改善した。

 

J Palliat Med. 2007 Aug;10(4):919-22.

Survey of blood transfusion practice for palliative care patients in Yorkshire: implications for clinical care.

1年間の調査期間で、UKの8つのホスピスのがん患者を対象とした研究。2460人のホスピスへの登録患者のうち140人(5.7%)が輸血を受けていた。輸血を受けた患者の生存期間は最初の輸血施行から平均して42日間であった。(入院患者と比較して外来患者の方が有意に生存期間が長かった平均104日VS36日)

 

 

J Palliat Med. 2016 Oct;19(10):1110-1113. Epub 2016 Jun 29.

Can We Detect Transfusion Benefits in Palliative Care Patients?

PCUに入院した患者のうち、輸血をうけた31例を対象した過去起点コホート研究。このうち89%は臨床医の主観により利益があると考えられ行われていた。患者の94%が症状の改善を報告した。しかし、身体機能や呼吸苦・倦怠感のスケールの改善はわずかであり、客観的な指標の改善は乏しく、プラセボ的な効果が大きいのではないかとこと。

 

 今回、調べたところ以前よりはこの分野の研究がなされていることがわかりました。しかし、まだまだなんともいえないなあというのが正直な感想です。輸血という限られた医療資源でもあるので、患者さんのQOLや症状改善にどれくらい寄与するのかが重要な観点ではないかと思いますが、まだまだ根拠が乏しいなあと感じました。患者さんの予後を考えながら、輸血によりどれくらいQOLや症状改善を望めるのか、症状(呼吸苦や倦怠感)が本当に貧血によるものが主であるのか、他の治療により症状が改善されないかなどの検討が必要なのかなと思います。実際には倫理的な判断とはなるためなかなか難しいですよね。

 


施設入所中の高齢者における降圧について

2016-10-15 17:33:15 | その他


在宅介護を受けていたり、施設入所中であったりする高齢者に対してどの程度血圧をコントロールするのがよいのかはあまりはっきりしていません。ガイドラインをそのままあてはめるような臨床はあまり適切ではないのかなとも思います。しらべものをしていて、施設入所者(高齢者)の降圧に関する文献をみつけたのでそれを今日はのせたいと思います。あまり単体の文献を紹介することは少ないのですが、個人的にはそれなりにインパクトがあったので・・・。

 
JAMA Intern Med. 2015 Jun;175(6):989-95. doi: 10.1001/jamainternmed.2014.8012.

Treatment With Multiple Blood Pressure Medications, Achieved Blood Pressure, and Mortality in Older Nursing Home Residents: The PARTAGE Study.

Abstract

IMPORTANCE:

Clinical evidence supports the beneficial effects of lowering blood pressure (BP) levels in community-living, robust, hypertensive individuals older than 80 years. However, observational studies in frail elderly patients have shown no or even an inverse relationship between BP and morbidity and mortality.

OBJECTIVE:

To assess all-cause mortality in institutionalized individuals older than 80 years according to systolic BP (SBP) levels and number of antihypertensive drugs.

DESIGN, SETTING, AND PARTICIPANTS:

This longitudinal study included elderly residents of nursing homes. The interaction between low (<130 mm Hg) SBP and the presence of combination antihypertensive treatment on 2-year all-cause mortality was analyzed. A total of 1127 women and men older than 80 years (mean, 87.6 years; 78.1% women) living in nursing homes in France and Italy were recruited, examined, and monitored for 2 years. Blood pressure was measured with assisted self-measurements in the nursing home during 3 consecutive days (mean, 18 measurements). Patients with an SBP less than 130 mm Hg who were receiving combination antihypertensive treatment were compared with all other participants.

MAIN OUTCOMES AND MEASURES:

All-cause mortality over a 2-year follow-up period.

RESULTS:

A significant interaction was found between low SBP and treatment with 2 or more BP-lowering agents, resulting in a higher risk of mortality (unadjusted hazard ratio [HR], 1.81; 95% CI, 1.36-2.41); adjusted HR, 1.78; 95% CI, 1.34-2.37; both P < .001) in patients with low SBP who were receiving multiple BP medicines compared with the other participants. Three sensitivity analyses confirmed the significant excess of risk: propensity score-matched subsets (unadjusted HR, 1.97; 95% CI, 1.32-2.93; P < .001; adjusted HR, 2.05; 95% CI, 1.37-3.06; P < .001), adjustment for cardiovascular comorbidities (HR, 1.73; 95% CI, 1.29-2.32; P < .001), and exclusion of patients without a history of hypertension who were receiving BP-lowering agents (unadjusted HR, 1.82; 95% CI, 1.33-2.48; P < .001; adjusted HR, 1.76; 95% CI, 1.28-2.41; P < .001).

CONCLUSIONS AND RELEVANCE:

The findings of this study raise a cautionary note regarding the safety of using combination antihypertensive therapy in frail elderly patients with low SBP (<130 mm Hg). Dedicated, controlled interventional studies are warranted to assess the corresponding benefit to risk ratio in this growing population.

 

フランスとイタリアでおこなわれた80歳以上で施設入所中の1127人を対象としたコホート研究です。平均年齢は87.6歳で女性が78.1%。年齢や女性の割合は本邦の老人介護福祉施設(特養)ともある程度一致します。(我々が関わっている特養もほぼ同様です)

連続して3日間の血圧を測定し、収縮期血圧が130 mmHg未満かどうか、降圧薬を2種類以上服用しているかどうかで分類。2年後までフォローして、死亡をアウトカムとしています。
SBP<130かつ降圧薬を2種類以上服用しているのが227人(20.1%)であり、その他が900人(79.9%)であり、この2群での比較をおこなっています。

250人(22%)が死亡
SBP<130かつ降圧薬を2種類以上服用群が、有意に死亡と関連していた(HR 1.78; 1.34-2.37)。
感度分析も行っており、propensity-score matched(患者の背景因子を調整)、心血管合併症の有無での調整、過去の高血圧既往がない患者を除いた解析においても同様の傾向であった。
 
 日本人にそのままあてはめてよいかは慎重に考える必要がありますが、施設入所者の降圧剤を考えるうえで参考になるかもしれませんね。結構、降圧剤を複数のんでいる施設の患者さんはいますし、実際減らせることも多いのですが、多剤の場合に減らせそうだな~どうしようかな~というときに少し参考になるかなと感じました。