竹村英明の「あきらめない!」

人生たくさんの失敗をしてきた私ですが、そこから得た教訓は「あせらず、あわてず、あきらめず」でした。

いよいよ電力自由化の全貌が見えてきた

2015年12月03日 | 電力自由化
気がつくと、もう12月。11月は結局ブログを書けずに過ぎてしまった。
今年2015年は思いの外めまぐるしい年だった。その原因は、無謀にも電力小売にチャレンジしようと決意したこと。
2014年の秋から今日まで、ちょうど日本の電力システム改革のクライマックスとも言える「電力小売完全自由化」の制度設計が揺れ動く中、一緒に翻弄されながら走り通した1年だった。
気がつくと、エナジーグリーンのオフィス(場所)はなくなり、イージーパワーという新オフィス(スペース)ができ、ネクストエナジー株式会社と業務提携をし、いま高圧契約のお客様のところに電気を売る営業をしている。
ネクストエナジーの代理店という形ではあるが、「電力小売」を開始している。
販売する電気を再生可能エネルギー100%に近づけるために、既設の再生可能エネルギー発電所との、電気の取引相談も始めている。
この1年で、やろうとしていたことに「かなり」近づいていることに間違いはない。
そうとうの犠牲もあったが・・・・。
(冒頭写真はドイツの地下鉄。再生可能エネルギー100%で走っている。すでにこんな社会が実現している。日本も頑張ろう!)


では「低圧小売」はできるのか

肝心なのは、一般家庭。再生可能エネルギーの電気を待っている皆さんに電気をお届けできるのかということ。
これは個人向けグリーン電力証書「えねぱそ」を生み出したとき以来の夢だ。
三つの問題(あるいは課題というべきか)がある。
一つは再生可能エネルギー電源が少ないということ。
二つ目は従来の電気代よりも大幅に高くなるのではないかという懸念。
三つ目は制度設計が再生可能エネルギーの供給を困難にしているのではという懸念。
以上の三つで、あえて4つ目をあげると、再生可能エネルギー電気の低圧供給を可能にするほどのユーザーがいるのかという懸念だが、私はその心配はしていない。
おそらく需要に対して供給側の再生可能エネルギーが圧倒的に足りないだろうという方を心配している。
つまり一つ目が最大の難問だ。

いま、いろいろな審議会での議論を経て、問題点満載ではあるが、日本の電力自由化の制度設計の全貌は明らかになってきた。
これから、再エネ特措法の施行規則の改正案が出され、そのパブコメ、そして公布、4月1日施行という形で進んでいく。
そして結論的にいうと、再生可能エネルギー電気の低圧供給の道はしっかりと見つかったということである。
これから来年度に向けて、いろいろな小売会社が再エネ「低圧小売」にチャレンジを始めるだろう。

この1年何が起こっていたのかをみてみよう。

電力自由化は再生可能エネルギーの普及にとっては本来プラスである。

第1に送電網の広域運用が行われ、北海道や九州でブロックされていた風力発電が動き出すだろう。
第2に低圧小売部門の自由化は、東電などの既存電力を「嫌う」一般家庭のユーザーによって、再生可能エネルギーなどのきれいで安心できる電気のニーズを高める。
第3に発送電部門の分離は、発電部門のコスト構造をあらわにし、これまでごまかされていた原発などの高コストを明らかにする。


再生可能エネルギーは、バイオマスを除いては、燃料を購入する必要のない発電システムであり、ランニングコストは圧倒的に安い。
諸外国で再生可能エネルギーが爆発的に普及している最大の原因はこれで、再生可能エネルギーを使えば使うほど石油の消費量を減らせるのだ。
それは地球温暖化防止という「副次的効果」も獲得できるが、何よりも経済効果が大きい。
だから普通の経済原理でものを考える社会であれば、再生可能エネルギーに進んでいく。

しかし日本の経済原理は違っていて,きわめてムダなもの、お金のかかるもの、既得権者の権利が守られるもの、変化を起こさないものに向かうといびつな原理となっている。その結果として、再生可能エネルギーに限らず、日本経済は長く低迷の底に沈んでいるのである。
日本は成熟経済だから成長が停滞しているのではなく、成長を阻害することばかりやっているから、成長できないだけだ。

日本の電力自由化の議論の中で何が起きただろうか。

昨年2014年の秋に、送電網(系統)への接続制限が実施された。

九州電力管内で太陽光発電の設備認定容量がピーク電力を上回ったことを理由に始まった接続制限は、そんな状況からは程遠い他の6電力にも広がった。
系統への「接続可能量」制限は、あきらかに接続義務を課している「再エネ特措法」違反と思われたが、政府は接続を認める代わりに「無保証、無制限」の抑制(送電線との接続を一時的に切ること)を再生可能エネルギーに課した。
ちょうど今年度から、電力広域的運用推進機関による送電網の広域運用が開始される直前で、送電網を所有している側の既存電力に「抑制権限」を与えることで、本来プラスの1で説明した「広域運用の利点」を事前にブロックしたのである。
設備認定容量は実際の設置容量とは違い、まだ半分以上はできていないもので、それがピーク電力を越えたからといって何も心配することはないのだが、大げさな過剰反応を起こさせたのである。
これによって、抑制などは事実上起こるわけもないが、「無保証、無制限」の抑制を条件付けされた設備計画に金融機関はお金を出さない。事実上、メガソーラーや風力発電の計画はストップをかけられたのである。

2015年の春には「再エネ表示問題」が浮上

FIT(固定価格買い取り制度)は、再生可能ネルギーの電気を高く買い取るという仕組みだが、通常の電気価格部分より大きい上乗せ部分は、「環境価値への代金」と考えられる。他の電気とは違う価値を持っているということだ。
たとえば、CO2を出さない。有害な煙も排ガスもない。放射能も出さなければ、何万年も残る廃棄物もない。加えて資源は無尽蔵で枯渇の心配はない。
その特別な価値にお金を払うことで、再生可能エネルギーの普及を後押しするというのがFIT(固定価格買い取り制度)なのだ。
しかし、このお金は「再生可能エネルギー賦課金」という形で電力消費者が出している。電気の小売事業者は出していない。
そのお金を出していない事業者が、再生可能エネルギーの電気を仕入れて販売したからといって、そこには「環境価値」はもうないよと政府は言う。
なぜなら、それは賦課金を支払った消費者のもとにあるのだと・・。
だから、小売会社は「FIT再エネ」を“再エネと称して売ってはいけないんだというわけである。
それでは「再エネ」という表示自体が消されてしまい、選択の道を潰されてしまうと消費者団体等が猛反発し、やっと「FIT再エネ」表示は認めるという形で決着したばかりだ。

2015年の夏、FIT再エネ仕入れ価格というべき「回避可能費用」の変動相場制への移行が浮上

FIT再エネは太陽光発電なら27円/kWh、風力発電なら24円/kWhというような価格で、今は電力小売会社に買い取られている。
でもこれは「FIT価格」で、小売会社はあとから「環境価値への代金」部分を政府から戻してもらえる。
じゃあいくら戻すの・・というときに、基準となる「元の価格=仕入れ価格」がないといけない。
それを回避可能費用と呼んで、今は政府が定めている。
各電力会社ごとに違っているが、その保有する火力発電所の発電コストの平均値(全火力平均)をあてている。
だいたい10円から12円/kWhの固定相場だ。
それを来年度からは電力取引市場価格への連動性とすることになった。
東京電力のような既存電力も来年度からは「一小売会社」になるのだから、その発電所が指標になるのはおかしいと言う理屈のようだ。
この理屈は、小売会社と発電会社は明らかに違うので、無理にこじつけていておかしい。例えば東電発電が「一発電会社」に過ぎないということなら、鉄鋼や石油会社がやっている火力発電を含めた日本中の全火力の平均にすれば良いだけだと思うのだが。
そもそも「石油の炊きべらし」程度の価値としていた回避可能費用の概念を、需給の関係しだいで高額にもなるという市場価格にしてしまうというのは、かなり乱暴な変化と言える。

2015年秋、全てを吹き飛ばす「買取義務者変更」が浮上

再エネ表示問題にせよ、回避可能費用問題にせよ、電力小売会社が「FIT再エネ」の発電所から電気を仕入れるときの問題だった。
困難はあるにせよ、小売会社は「FIT再エネ」の発電所と直接取引し、再エネ起源の電気を仕入れることができたのだ。
30分同時同量という需給計画の中で再生可能エネルギーの電気をやりくりしなければいけない辛さ、「FIT価格」で買い入れる際の、一時的であれ高額の負担の重さ、そして再エネ発電所を競い合って自らの供給源にするための追加的なコストの発生などなど、いろいろな問題はあるが、それでも再生可能エネルギーの電気を取り扱うことはできた。
ところが「買取義務者変更」は、その小売会社から「FIT再エネ」電気の仕入れを奪ってしまったのだ。
既得権として、すでに特定の発電所と「FIT再エネ」電気の購入契約を結んでいる小売会社に限って、5年間の仕入れ期間延長が認められた。
「激変緩和措置」とされるが、5年後にはいずれ激変がやってくる。
今から駆け込みで、5年間有効の契約を結ぶことも可能だが、
これで低圧小売における「FIT再エネ」販売の道はほとんど閉ざされたと思われた。
残るは非FIT再エネだが、そもそもそんなにたくさんの設備があるとは思えない。
自治体などがやっている公営電力の水力発電や、古いバイオマス設備(RPSからFIT制度に移行できなかった)、そしてFIT買取期間を終了した太陽光発電や風力発電など。
一体どれだけあるだろう。

制度改革検討小委員会で「売れ先の決まっている」FIT再エネに特例措置

買取義務者変更の冷徹な制度変更説明会が経産省の主催で行われたのが11月25日。
ところが翌日の11月26日、再生可能エネルギー導入関連制度改革小委員会で、また違った説明が登場した。
買取義務者変更で、「FIT再エネ」は送電会社が一括して買い取るが、売れ先が決まっている「FIT再エネ」については、送電会社が小売会社に引き渡す。
送電会社は、買い取った「FIT再エネ」電気を、本来は電力取引所に並べるのだが、売れ先が決まっている(購入する相手が決まっている=お客がついている)FIT再エネの電気については小売会社に直接引き渡すことができるという。
「発電側と小売側双方が望む場合」という但し書きも付けられている。
これは、FIT価格での買取は送電会社がやってくれて、売れ先が決まっている場合には、その発電所と個別契約している小売会社に「FIT再エネ」電気を渡してくれるということのようだ。
引き渡し価格はおそらく市場価格連動となるだろうが、小売会社は高値買い入れの重い負担を負わずにFIT再エネ電気を手に入れることができることになった。
ただし、30分同時同量のインバランスリスクも小売会社側に戻ってくると思われるが・・・。

FITも非FITもということで、供給する再エネ電源には厚みが増す

ということで、来年4月1日からの電力小売完全自由化を前に、一時は「FIT再エネ電源」はほとんど排除かと思われたが、かろうじて供給可能になった。
冒頭の懸念、再エネ電気を望む多数のユーザーに対して、供給する電源が圧倒的に足りなくなるのではないかという懸念はひとまず回避されたと言えるかもしれない。
中之条電力のように、地産地消型で地域の資源で地域にエネルギー供給しようとしている新電力もこれで目的達成が可能になった。
これらの制度改革については、冒頭にも書いたようにこれから再エネ特措法の施行規則に落とされ、パブコメにかけられ、1月の中旬すぎには交付されるだろう。
施行は4月1日。その頃までには、また新たな難題、疑問も見えてくるだろうが、ともかくも再生可能エネルギー電気とそれを低圧ユーザーに供給する電力小売会社の道は残された。
太陽光発電しか持たない(契約をできない)小売会社は部分供給(昼は自社契約電源、夜は別の電力会社からの供給)のような道をとることもできる。
できるだけたくさんのユーザーと、できるだけたくさんの「市民、地域の」小売会社がつながること。
これが第一ラウンドの、まずは獲得目標だろう。







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