涼風野外文学堂

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法律の価格破壊やー!(彦●呂風に)

2006年08月17日 | 日記・身辺雑記
 涼風は一応法律関係のお仕事をしています。法律関係といっても弁護士とか裁判官とか難関試験を突破した方々とは全然違いまして、会社組織内の法規担当セクションに現在配属されている、というだけのことで、要するに、素人といえば素人です。そんな素人なりに最近ひしひしと感じる「法律って安くなったなぁ」という話を。

 行政法の世界で有名な「砂防法」という法律があります。どうして有名なのかというと、別に実効性が高いとか独創的な構成だとか、そんな理由ではぜんぜんなくって、「執行罰」と呼ばれる形式の規制方法を定めている唯一の法律だから、という理由です。
 この執行罰というのは、簡単に言うと、法律違反について、一定期間内に是正しないと罰金(正確に言うと過料)払わせるよ、というものです。戦後の行政代執行制度見直しの際に、この「執行罰」制度の含まれる法令はすべて改正され、執行罰にかかる規定は削除等されたのですが、唯一、砂防法だけが、このとき改正されずに残ったのです。
「砂防法には何か執行罰を残す特別の理由が!?」……何のことはありません。砂防法に執行罰の規定が残されているのは、単なる「改正漏れ」であるとされるのが通説です。内閣法制局だってたまには見逃しくらいするさ。ということ。
 ひるがえって、現代において同様の改正を行わなければならないとなったら、どうでしょうか。同様の改正漏れが起こる可能性はほぼ皆無か、あったとしても極少でしょう。理由は簡単、手作業でなく、データベースの用語検索で改正対象規定をピックアップできるからです。先の執行罰の例なら「過料に処することを予告」とかそんなキーワードで検索(他に考えられる何通りかのキーワードで再検索)すれば、ほぼ見逃しはないものと思われます。

 当たり前といえば当たり前なのですが、法律というのは、私が大学にいたくらいの頃はまだ、紙媒体でしか手に入らない情報でした。したがって法学部の学生は、必ず「六法」を買います。「六法全書」とはいいますが、上下2巻のこの本に、現在日本で有効な法律・政省令のすべてが収録されている……などと思うのは思い違いです。現在日本で有効な法令8000件弱のうち、いわゆる六法に収録されているのは、せいぜい数百件がいいところでしょう。
 ちなみに「現在日本で有効な法令を全件収録した書籍」というものも存在します。株式会社ぎょうせいが発行する「現行日本法規」という加除式書籍ですが、全部で100巻を超え、この本のためだけに本棚が一棹必要になります。本体価格は20万円ほどですが、随時加除追録により更新しないと意味がないので、その追録代が年間20万円くらいかかります。
 法学部の学生が購入する「模範六法」「小六法」などの、学習に必要な程度の主要な法令と関係判例の概要を収録した六法が、1冊4000~6000円くらい。ちなみに、数年でものの役に立たなくなる(法改正がある)ので、新しいものに買い換えます。
 市販されている六法に掲載されていない法令を見る必要があったら……まさか自分で「現行日本法規」を買うことのできる学生はなかなかいないでしょうから、図書館に行くほかありません。法令のデータを手元に置いておきたければ、地道に1ページずつ開いてコピーを取るほかないでしょう。

 上記は既に過去の話です。今や法令は「見るだけなら無料」となりました。

法令データ提供システム

 総務省主導のもとに法令データベースが構成され、e-Gov(電子政府ポータル)から法令検索が可能になりました。しかも、市販されている民間の法令検索データベース(CD-ROMやライセンス販売によるもの)より下手すると更新早いです。
 これをもってようやく、法令情報を手に入れるために必要な金銭的・時間的コストが、限りなくゼロに近づいたと言えそうです。このことをどう考えるべきでしょうか?これまで「専門家の独占物」であった法令が、われわれ一般人(と言っていいのかどうか微妙な立場の涼風ですが)が簡単に手に入れられるようになった。逆に言えばこれまでは、日本国内にいる限り等しく皆を拘束するものであった法令が、その適用対象ともなるところの日本国内にいるわれわれにとっても、容易にその内容をうかがい知ることができなかった。無形のバリアがあったということなのではないでしょうか。

 法令情報のバリアフリーは、「われわれ一般人」にも法律について考えるチャンスを与えてくれます。例えば、法令相互の比較検討や、特定の文言を含む法令のピックアップを容易にしてくれます。そうしたアクセス権からは例えば「●●省所管の法令は他省に比べ強権的だ」だの「▲▲省所管の法令は明らかに××省所管の法令と矛盾している」だのといった思考方法が可能になります。こんなところに案外、次の時代を切り開く種が埋まっているのではないかな、と、少しばかり期待しているのです。

 ところで判例情報についても、今までは「判例時報」だの「判例タイムズ」だのの専門誌を購入する以外にアクセス方法はないに等しかった(年間購読料は4万円くらいかな)のですが、最近になってようやく、裁判所のウェブサイトから入れる判例検索システムが、使い物になるレベルになってきました(今までは各裁判所でデータが分かれていて、統合が上手くいってなかった。今年あたりようやく改善された)。
 こうした環境整備が案外、国民全体について「リーガル・リテラシー」とでも呼ぶべき法律理解能力の底上げに寄与するのではないか、ひいてはそれが、テクノクラシーに対する抑止力になるのではないか、という期待もあります。


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