大量の涎

もう直ぐ
家に着く、その数分前より
粘着質の強い涎を垂らす。

暑いワケでもなく、パンティングも
無い。

確実に身体の中の何処かに
異変がある。



自宅の位置指定道路を
一目散に下る。
早く家路に辿り着きたい様子。

社交場

反対側の
出入り口を出るといつもは右へ
行き、帰るが、
この日は出て左。。。



ゆきが角を曲がる少し
前に飼主、nekoさんを見付ける。
何処かへ逃げてくれ、と
合図を送りつつ、彼女には
nekoさんが見えない様に
前へ立ちはだかるも



流石、イヌ。。。
香りを嗅ぎ付け、側溝に沿い
進む。



昔から彼女は側溝マニアであった。
以前の画像が何処かへ
行ったが、何枚か在ったはず。



最初、nekoさんはこの側溝で
撒かれたご飯を食べて居た様だ。

ゆきが変。。。

この日の散歩は、朝から
随分と飛ばす。
それも嬉しくてはしゃいで
早歩きになるのとは異なった。

。。。道端の草に気を取られる
事も無く、唯、ひたすら
必死で真っ直ぐ進む。
。。。何かの目的に向かう様に。




社交場方向へ右回り
で。



一体、何を急いで居るのだろう、
何処を目指して居るのか？



社交場の中へスムーズに入る
がそのまま反対側出入り口へ
真っしぐらに進む。

もう居ないだろう

今から、
「その」様な事を考え、「その」
事で頭の中は占領され
ふとした瞬間にゾッとする。

「それ」は勿論、彼女の死。

今から考えない方が良いよ、
と友人は言う。
だってどうなるか解らない
じゃない。。。

え？どうなるか解らない、
何もかも絶対的な事は無い
だろうが、唯一、普遍的に
繰り返される絶対的な事、
生在るモノの消滅。。。

どうなるか。。。とは
飼主が先に逝く、という事か？
それも無いとは言えないな。。。

ゆきはここ最近、自分の部屋へは
行く事が無くなった。
必ず飼主の足元に蹲る。
これだけ大きな彼女が
椅子から下ろした飼主の足元に
丸まり、伸び。。。

椅子を前後に動かす際には
尻尾を踏まない様に気を付ける。

時折、飼主の足先に重い体重を
乗せる。
暖かな重みを感じ、足が痺れても
動かせずに、暫くその貴重な
重みを堪能する。

全てが無くなるのか。。。
この重みもキッチンに立った際の
気配も。。。

許せない。。。

倫理に反して居様が、全世界から
バッシングを受け様が、
そして自ら尋常、社会通念を
逸脱して居ると認識し様が
気付くとクローン、と検索する
愚かな飼主が居る。

クローンは彼女ではないと
頭では理解するが、頭と心が分裂
する。

以前に獣医が言った。
初めて動物を飼うヒトの方がペットロス
になり易い、と。

。。。一体何頭と巡り逢えば
生→死、と穏やかに受け入れられるのか。

動物。。。いや。。。これだけ
深く密接な繋がりを保ち衣食住を
共にするモノにもいずれ死が訪れる。
。。。そう遠くは無い、未来に。

「動物」を迎える、という事は
その「死」をも柔軟に受け入れ
全て統括した一連の「作業」である、
と思える様になるのはいつなのだろう。

ゆき。。。