小池 真理子著 (新潮文庫) 『無伴奏』 内容:その果てに待つものを知らず、私はあなたを求めた―。多感な響子は偶然に出会った渉に強く惹かれるが、相手の不可解な態度に翻弄される。渉に影のように寄り添う友人の祐之介と、その恋人エマ。彼らの共有する秘密の匂いが響子を苛み、不安を孕んで漂う四角形のような関係は、遂に悲劇へと疾走しはじめる。濃密な性の気配、甘美なまでの死の予感。『恋』『欲望』へと連なる傑作ロマン。 |
この小説は姉と私が交互で繰り返し読むのを繰り返したせいで、4年前(だったかな)に買ったのにカバーもボソボソになってしまいました。今でも大切に読む本の一つに入っています。
私この本を読んだあとに猛烈にパッヘルベルのカノンがいつも聴きたくなります。
これは1969~70年仙台や全国で学生運動の嵐が吹き荒れていた時代を舞台とした小説です。私の母親や父親(年代50~60代)が学生だった頃の話。残念ながら父親は研究室にこもりっぱなしで全然そういう運動から遠いところにおり、母親も全く興味がなかったようでちっともそんな話は聞けません↓↓
文章の力のスゴイところって、やっぱり【ここは1969年、学生運動の嵐が吹き荒れる仙台】って書かれたら一気にその世界に入っていけることだと思う。まぁ中には そんなアホな・・・ と完ぺき白けちゃうような文章を書く作家もいるけど。。 小池氏はいつの時代にも連れってくれます。 私は読み始めた瞬間から灰色の仙台に入り込むことが出来ました。
主人公は高校での問題児 野間 響子、同級生で友人 男勝りで行動力のあるジュリー、趣味は自殺の方法を考えることで、若者のヤル気とか生き生きしているのとはほど遠い存在の美人 レイコ。美しい渉と渉の影のように寄り添う友人の裕之介、裕之介の恋人エマ。 この登場人物のみでほとんど物語は展開していきます。 ジュリーに連れられて入ったバロック喫茶無伴奏 で、渉と裕之介、エマと出会う。これで歯車がガラガラと音を立てて回り始める。。
どうにも言葉にならないくらい切ない話なんです。 完ぺきな美しさの渉に恋をした響子。だけどどうしても中に入って行けない。。この響子のもどかしさも切ないんですが、私は渉と裕之介の関係が本当に切なかった。 学生運動に情熱を傾けることもせず、かと言って勉学に打ち込むわけでもない。狭い離れの部屋で二人は音楽を聴き、コーヒーを飲み、本を読む。愛し会っているお互いを意識しながらもギリギリの状態を保っていた渉と裕之介。それぞれが不器用ながら精一杯今の状態を維持していこうとするその悲しいほどの決心に何度読んでも涙が出ます。
最後はお互いを想うあまりに過ちを犯してしまいます。 渉の遺書にたった一言書かれた言葉 これでやっと静かに眠れる には本当に今までのギリギリの状態に心底疲れていたのが伝わってきます。
この小説は邪推しなくても充分!っていうか邪推する隙間が全然ない小説で、みっちりと濃く、しかし透明な空気が流れています。。