メメント・モリ

このブログでは司法試験関連の受験日記・講座・書評について色々掲載していきたいと思います。

問題集:判例で書く民事訴訟法 早稲田セミナー 板橋喜彦 著

2004-11-05 20:29:05 | 司法試験:問題集
 「判例で書く」シリーズの民事訴訟編です。全40問(第1版のもの:現在の2版には差し替え・追加あり)について解答例・解説、及び論証カードと重要判例の判旨が掲載されています。

 司法試験が実務家登用試験である以上、実務上もっとも重視される判例については検討が必要です。出来ることなら判例を自説にして答案を書きたい、と考える受験生も多いと思われます。
 にもかかわらず、近年まで判例を自説にした答案・論証が少なかったのは、判例を自説とした答案を掲載した信頼できる書籍が無かったためでした。
 本書はこの要望に応える形で作成されています。それゆえ、百選を読んだだけではわからない、判例の価値判断・理論構成について補充した形で論証されている解答例はそのまま実際の答練・本試験で通用するものも多いです。

 とくに、当事者の確定と法人格否認・法定訴訟担当・形成の訴えの利益・安全配慮義務の主張責任・和解の既判力など、判例の結論は知っていても、その理論構成・妥当性まで深く知りえなかった論点について、詳細に解説がなされていて、思わず唸る内容が多くあります。
 また、高橋・伊藤・上田など、近年広く使われている基本書・演習書の問題意識を消化して作問されているため、基本書を読んでいない方には初めて聞く議論もあります。
 私のように、予備校本主体で読んでいる人は、テキストと異なった表現・説明があるのでそれを読むことで頭が活性化され、民訴の理解が深まるでしょう。
 
 もっとも、使用上注意すべき点が多々あります。
 まず、判例の解説に熱心なあまり、解答例が長すぎてそのままでは使えません。また、本番ではまず書けないような込み入った説明・制度についてまで説明されている場合があります。「せっかく勉強したんだから」と考えてしまい、答練でいわゆる「引き込み」をやってしまう危険もあります(失敗済み)。もし、これが難問でパニックになりやすい本試験だったら、と考えると恐ろしい。

 また、一般に言われるように、合格答案には様々なスタイルがあります。
 私が受験当時目指していたのは、条文・定義・趣旨といった基本事項は堅固でありながら、問題の所在・あてはめ・事案における具体的利益状況などは柔軟にその場の思考過程を示す「基本派生・思考型」の答案でした。
 これに対し、本書の答案は、答練の参考答案のように定義・趣旨・規範に留まらず、判例の事案の利益状況についても正確に記憶・再現する「暗記型」の答案である印象を受けました。これは、本書が基本的には判例の解説本たる性格を有しているためかも知れません。しかし、著者の勉強スタイルが、「起きてから寝るまでずっと勉強しつづけ、巻末の論証カードを試験直前まで読み込む」というものらしいので、おそらく暗記主体の勉強をしていたのでしょう。
 そこで「自分の目指すスタイルと違う答案である」と認識した私は、本書の利用を答練の問題のようにファイリングせず、答案構成後にわからなかった理由付け・納得した説明などをマーキングし、その中でも重要なものはC-BOOKに書き写す、という参考書的な使い方をしました。(解答例が実践的でなく、知識が多めであるという点で、学者の演習書に近いものがあります。)

 以上をまとめると、この本は独特のクセがあり、そのクセを自分自身どう扱うかよく考えないと上手く利用できない本である、といえます。また、「司法試験論文本試験で合格答案を書く」という観点からは直接的な効果の薄い本かもしれません。
 しかし、私はこの本を読んで民訴の具体的な流れや当事者の利益・手続などをより鮮明にイメージできて、民訴が好きになりました。そういう意味では、非常に読んで良かったという感想を持っています。