『ドッグヴィル』

ネタバレありありで感想を。
『ドッグヴィル』
今まで見たことの無いタイプの映画でした…


しみの大好きな『ダンサー・イン・ザ・ダーク』の監督／ラース・フォン・トリアーの作品で、
撮影は『28日後…』のアンソニー・ドッド・マントル。
主演／ニコール・キッドマン。

『ダンサー・イン・ザ・ダーク』同様、賛否両論ある映画だと思います。
舞台は、ロッキー山脈ふもとにある村人わずか23人の村ドッグヴィル。
ある日近くの村の方向から銃声が響いて
助けを求める女性グレース（ニコール・キッドマン）と出会う。
村人トムは追っ手のギャングから彼女をかくまい、
村人たちにもグレースをかくまうことを提案。
“2週間で彼女が村人全員に気に入られること”が条件となり、
グレースは村人の為に肉体労働を始めることになる…

まず、セットがほとんどない。
床に道や家などを白線で示しているという、
まるで演劇のようなスタイル。
演者も、ドアがなくてもドアを開けるしぐさなどで
全てを演じている。
最初は違和感があっても、
セリフやしぐさなどで全てを表現している演者に
すぐに引き込まれました。
全体が「章」で分かれているところも演劇っぽい。
その都度ナレーションが入るが、その声もいいので
出来れば（絶対）字幕で見ることをオススメします


小さく貧しい村で、次第にグレースは受け入れられるが
警察からも追われていると判明した後は
みな“かくまってあげている善意”を逆手に
要求する肉体労働がエスカレート…
徐々に人間の奥深くにある“醜さ”が露呈してくる…


はっきり言って
見ていて不愉快なシーン満載です

昨日まで味方だった人も
手のひらを返して裏切ります。
誤解を解く術も無く
追い詰められるグレースに
「ここにいるより捕まった方がましでは？」って
何度思うことか。
首輪とおもりをつけられてなお
肉体労働を課せられる姿は『異様』です
でもこの閉鎖的な空間ではそれも『日常』になる…

美しいグレースは男にとって刺激でしかなく
女にとっては疎ましいものになっていく
鎖をつけられ、村の男たちに“性の訪問”を受ける
愛するグレースがそんな目に遭うのを
トムが止めないことにまた苛立ちが募る
トムもその男たちと同罪だと思う

これは誰もが持っている人間の醜さを
映像化したもののように感じます
こんなに嫌悪感を感じているのに
もしかして自分も村人のように
なり得るかもしれないとも…

ラスト、決断のシーンは恐ろしく美しい月の下
壁も無い、殺風景なセットが
月明かりで浮き彫りにしたのは
鋭いトゲとなった人々の醜さ…

このシーンは照明も音楽も最高です
このセットでしか出来ない映像です
そしてセリフがなくても表情で演じるニコール・キッドマンの
決断した瞳が印象的です

観ていて「罪を償わせた・復讐した」とスッキリする反面、
それでヨカッタのか？と自問自答しちゃうラスト。
犬だけは救われるってところが
「アメリカ人の美学」を皮肉っている気がしました

人間の汚い部分をこれでもかと見せつけられる
けど、きっと大なり小なり、
私たちの身近で起こっている気もする

ホントたくさん思うことはあるけれど
うまく言葉では伝えきれないこの映画

見た人それぞれが何かを感じることが大切で
無理に「善・悪」を決めなくてもいいのかも

ただ…
ラスト、グレースが直接手を下さないことが
中途半端なような…
村を消すよう指示したのは自分なのに
涙を流すところ…
これが人間らしいといえば人間らしいのか？

そして自分を犯した男たちより
大切にしていた人形を壊した女に最大の罰を与える

もし自分なら？って考えるところ満載
グレース目線で見るか、村人目線で見るか、
どちらにしても考えさせられる

３時間もあったと後で気付くくらい
あっという間に見れました

オススメはしませんが
映画としては素晴らしい出来だと思います
主演・脇役共に素晴らしい役者揃いです
どなたか観た方がいたら
ぜひ感想を聞きたいです


『答えを求めても仕方がない
だからここに答えはないのだ』