スパッタリング技術のまとめ

スパッタリング(PDV)技術についての資料です。
リアクティブスパッタ、セルフスパッタについても触れます。

TiNについて(1)

2016-12-02 00:21:35 | 技術情報
(思った様に時間がとれないです。思いついた事を書いて行き、一定の分量になったら、まとめて編集する事にします。)

TiNについて:

電子配置は以下の通りです。(最初の2文字は軌道名で、最後の数字は電子の個数です。)
Ti: 1s2,2s2,2p6,3s2,3p6,3d2,4s2
N: 1s2,2s2,2p3

Ti: [Ar]3d2,4s2
N: [He]2s2,2p3
の様にかかれる事もあります。窒素の2s起動は電子対で満たされており
結合にかかわるのは、Ti:の3d2,4s2 の電子と N:の2p3 の電子となります。

窒素は、2p軌道に電子が3個あり、この電子がX,Y,Z軸方向に伸びています。

チタンは、3d軌道に電子が2個しかありませんが、3d軌道と4s軌道はエネルギー的に近く、
3d,4s 軌道の電子4個が混ざり合います。この混ざり方が4p軌道を含めて複数あります。

TiNを形成している時は、dsp混成軌道と呼ばれる軌道を取っています。この時4個の電子がp軌道と同じように、X,Y,Z軸に伸びています。

ここで、窒素からは3個、チタンからは4個の電子が、X,Y,Z軸方向に伸びているので、2個づつ電子対をつくり共有結合を作り安定します。

その結果NaCl構造をとる化合物TiNができます。Tiのみに注目すると、fcc構造です。

通常TiNの結晶構造は、Nを無視して、fcc構造と記述されます。NaCl 構造は、一方を無視すると、fcc構造です。以下、それに倣います。

電子は2個で電子対を作りますので、7個の電子の内6個は共有結合を作り安定します。
残った1個の電子は、自由に動けますので、金属結合を作ります。

この金属結合+共有結合は強力で、TiNのTi-Ti距離は、Nが割り込んでいるにも関わらずTi金属のTi-Ti距離とほぼ同じです。

またTiの融点が1668℃なのに対し、TiNの融点は約2950℃であり、結合が強い事が分かります。

また、以上のことから、TiNは硬く脆い(共有結合の性質)にも関わらず、電気を流します。(金属結合の性質)

また、この金属結合を作る電子は、原子核の拘束を受けづらく(共有結合が電子対で満たされている)低抵抗です。(21.6uΩ-cm)

この電子は原子核からの拘束力が低いため、p型半導体と接すると電子のドナーとなります。したがって、TiNとp型半導体が接すると空乏層が形成され高抵抗になります。

半導体では、p型半導体とTiNの間にTiを挟む事により接触抵抗を下げるのが一般的です。

Tiは、六方稠密構造をとり、電気抵抗は42uΩ-cm程度ですが、TiNは21.6uΩ-cmと金属よりも窒化物の方が抵抗が低いです。

六方稠密構造のTiをSiO2上にスパッタリングで形成すると[0001]方向に配向した膜が得られます。
この時、Tiの配置は正三角形に並び、fcc構造のTiNの[111]面と同じ配置になります。

上に述べたように、Tiの原子間距離とTiNのTiの原子間距離はほぼ同じなので、Ti上にTiNをスパッタリング方で形成すると、[111]に強く配向したTiNが得られます。

スパッタリングでは、1原子づつ積み重なっていくため、下地の影響を強く受ける事を端的に示しています。

SiO2上に形成したTiNに対しSiN上に形成したTiNは、同じ成膜条件でも10%ほど後者の方が電気抵抗が低い実験結果が得られています。(理由不明)

これに対して、SiO2上に形成したTiNは、抵抗が低い膜の場合や、[100]方向に強く配向した膜が得られます。
実際には、[100]配向した結晶と[111]配向した結晶が混ざっています。
実験では、低抵抗な膜ほど、[100]配向が強いという結果が得られました。

抵抗の異なる主な理由ですが、膜密度が異なっていました。(40万倍での高分解SEM観察結果:倍率は記憶で書いています。)

また、清浄なSi上にTiNとAlを連続成膜し、450℃程度で長時間アニールし、その後Alを除去すると、TiNにクラックが入っている事が確認できました。(膜が収縮した。Alは、TiNの酸化防止用です。)

つまり、[111]配向の強い膜は、膜密度が低くTiN結晶の粒界に隙間ができているという事です。

これは、優先配向面が[100]である共有結合をも持つ物質が[111]配向している場合には、先端が尖った柱状結晶となり、その結果、斜めに入射してくるTi(N)粒子がうまく回り込めないためと考えられます。

また、純金属結合であれば、被スパッタ粒子の表面移動が大きく、多少の影の部分であれば充填できるのに対し、共有結合性を持つ高融点材料では表面移動度が低く、影の部分にうまく回り込めないためと考えられます。

成膜過程の現象:
(次回)

低抵抗のTiNを成膜する方法:
(次回以降)

高密度のTiNがなぜAl-Si間のバリアとなるのか。:
(次回以降)

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