スパッタリング技術のまとめ

スパッタリング(PDV)技術についての資料です。
リアクティブスパッタ、セルフスパッタについても触れます。

3)反跳アルゴンについて

2017-03-06 18:48:04 | 技術情報
2017/03/06 初回投稿


3)反跳アルゴンについて

ターゲット電圧は、スパッタリングを特徴つける重要なパラメータの一つです。
希望する膜を得るためには、他のパラメータ(ガス圧力、磁場の強さ、磁場回路の形状、シールドの形状)で最適な電圧にする必要が有ります。

アルゴンイオン(Ar+)は、ターゲットの電圧に引かれてターゲットに向かって移動します。Arイオンは、ターゲットに衝突する直前にターゲットから飛び出してきた電子と結合し中性化します。この時光を放出します。
(光の波長は、ガスの種類と電子のエネルギーによって変ります。電子のエネルギーは、ターゲット材料と放電電圧によって変りますが、主にガスの種類に依存します。)

少し寄り道します。

AlとArの組み合わせでは、赤紫~紫色です。これは、Alから飛び出してきた電子がArの3p軌道入る時の余分なエネルギーに相当します。

TiとN2の組み合わせでは赤っぽい色の場合と、青白い色の場合があります。

ターゲットの表面がTiMの場合(電子が出にくい)は赤っぽい色で、Tiの場合(電子が出やすい)は青白い色になります。

これは、TiNの成膜でヒステリシスが生じる時にターゲット表面で起きている現象です。
同じガス組成でもターゲット表面状態で、放電電圧が変わります。
条件を振ると、目視で色が変る事が確認できます。

戻ります。

ターゲット中性化したArは、材料と運動量を交換、ターゲット原子を飛び出させます。但し、一定の割合で、ターゲットと弾性衝突し基板側に跳ね返ってきます。

このArを反跳Arと呼びます。反跳Arのエネルギーは、ターゲット材料の原子量に強く依存し、ターゲット材料の原子量が大きいほど高エネルギーのArが基板に跳ね返ってきます。
この時の最大エネルギーは、放電電圧の1/2~1/3程度といわれています。(概算として。)
(エネルギー保存の法則と運動量保存の法則から計算できますね)。

実際には100%弾性衝突とは限らない事から実際にはこれよりも小さなエネルギーを持つ粒子も存在します。
また、ターゲットから垂直に戻ってくるArほど大きなエネルギーを持っており、斜めに基板に戻ってくるArはより小さなエネルギーを持っています。

また、このエネルギーは、被スパッタ粒子よりもかなり大きなエネルギーを持っている事にも注意が必要です。

例えば、放電電圧が600Vの場合、200~300eVのエネルギーを持つ粒子が存在します。

結晶の結合をきる事のできる最低エネルギーは10~15eV 程度(オーダーのみ。)
ですので、このArは用意に基板原子の格子結合を切る事ができ、基板に進入します。

このエネルギーは最終的に熱になり、基板温度を上昇させます。

また、高エネルギーArは基板の結晶中に進入します。(インプラント効果)
基板がSiの場合、Siの表面は結晶がみだれアモルファス化します。
もし、基板結晶の格子の乱れを極端に嫌う用途では、このArのエネルギーをコントロールする必要が有ります。
結局、ターゲットの放電電圧やArガス圧力を所望の膜がえられる様にプロセスパラメータを設定する必要が有ります。


TiNやWのような材料では、成膜中に表面のTiやWを膜中に叩き込み、格子間原子を発生させます。これにより、膜には圧縮応力が発生します。
ただし、基板と成膜した膜の熱膨張係数の差により、室温で測定した膜応力は変化します。

Alの様な融点が比較的低い材料では、Alの格子間原子は成膜中に移動したり、再結晶時に解消されます。

余談ですが、AlとSi基板の組み合わせでは、Alの熱膨張係数はSiにくらべて非常に大きいので、室温では圧縮応力ではなく引っ張り応力が残ります。強い引っ張り応力はストレスマイグレーションの原因にもなるので、成膜温度を高くしすぎるとリスク要因になります。

4)膜中に取り込まれるArガスについて。

(以下次回)

低抵抗のTiNを成膜する方法

2017-03-01 00:31:00 | 技術情報
(2017/03/06 追記)

1)基板温度の影響

スパッタリングにより成膜された膜の膜質は次ぎのパラメータに強く依存します。

α=T/Tmelt

T:基板温度(絶対温度)
Tmelt:その材料の融点(絶対温度)

この式は、スパッタの教科書によく出てきます。
αが小さいほど、ぼそぼそな低密度の膜ができると図付きで説明されていると思います。

この式が何を意味しているかを考えます。
まず、融点では、その材料は液体になります。(融点の定義なので当然)
融点では、原子は結晶の結合エネルギーよりも大きな運動エネルギーを持ち自由に動き回れます。

ターゲットからスパッタリングされた粒子は、5~10数eV のエネルギーを持ちます。
このエネルギーは、融点で原子が持つエネルギーよりも大きいので、ターゲットから飛び出してきた粒子は、基板の表面を自由に動き回れます。

この時、時間と共にエネルギーは、被スパッタ粒子から基板に移動し、被スパッタ粒子の持つエネルギーが融点に相当するエネルギー以下になると、動けなくなります。
(かなり大雑把な議論です。実際にはこれに確率論や、場所によって原子を拘束するエネルギーが違うので厳密な議論ではありません。)

基板の温度が低ければ、被スパッタ粒子から基板への単位時間当たりのエネルギーの移動量が大きく、被スパッタ粒子の基板に到達してから移動できなくなるまでの移動量が小さくなります。
移動量が小さいと、結晶の不完全な場所に到達できず、結果として不完全な結晶となります。

被スパッタ粒子は垂直に飛んでくるだけではなく、斜めに飛んでくる物も多く、シャドウイング効果により、結果として膜密度が上がりにくくなります。
(全ての粒子が垂直に飛んでくるのであれば、膜密度の低下が起こりにくい事に注意。)

2)基板表面の格子振動

上記では、基板温度に注目しましたが、被スパッタ粒子と基板間のエネルギーのやり取りが重要なので、基板全体の温度を高くする必然性はありません。

本当に重要なのは、基板表面の数原子層の格子の振動エネルギー(表面温度)です。

スパッタリング中、並行平板型のスパッタリング(ターゲットの正面に基板があるタイプ)では、基板へさまざまな粒子が流れ込みます。
例えば、被スパッタ粒子、電子、反跳Ar等が主な物です。バイアススパッタでは、Arイオンも重要な役割を果たします。

これらのエネルギーが基板表面の格子振動を促進し最終的には熱となりウエハ温度を上昇させます。

これらのプラズマから流入するエネルギーを増大させても、低抵抗のTiNを作る事ができます。

この中で反跳Arのエネルギーは非常に大きく重要な役割を果たします。

プラズマを静止させて成膜すると、エロージョンの直下では非常に低抵抗のTiNが生成されます。これは、反跳Arにより直下の基板の格子振動が促進され、低抵抗の膜が生成されたと考えられます。

また、エロージョン直下では、被スパッタ粒子の垂直入射量も多い事も、低抵抗に寄与しています。

TiN成膜過程の現象(続き2)

2017-02-28 01:50:11 | 技術情報
3)放電モードによる違い。
N2を添加してスパッタリングを行っている場合に、2つの放電状態が存在します。
a) ターゲット表面がTiの場合:
Ar+ N2+ イオンがターゲットに衝突し、スパッタリングが行われていますが、ターゲットからは、TiNよりもTiが多く飛び出します。プラズマの色は、Tiのスパッタリングと同じで青白い色です。
基盤(の表面)温度が低く保たれている場合には、見た目Tiと同じ金属色ですが、Tiの中にNが固溶している状態の膜が生成されます。この場合でも(N2+H2ガス雰囲気の炉で)高温でアニールすればTiNと同じ黄金色になります。

基盤(の表面)温度が高い場合は基盤表面で反応が起こり、TiN,Ti2Nの混合膜が形成されますが、TiNにくらべ、Nが不足した状態です。ただし、目視では、黄金色に見え、TiNとの区別はつきません。

この様にして生成したTiNはNが不足状態なので、バリアとして使う場合には注意が必要です。

b) ターゲット表面がTiNの場合:
十分なN2+ がターゲットに供給される場合、ターゲットからは、TiN,TiN2,Ti が飛び出しますが、十分な量のTiNが基盤に供給されます。この条件でせい幕したTiNは、RBS分析の結果からは、ほぼTi:N=1:1の膜が形成されていました。(ほんの少し偏りがありましたが、データが残っていません。TiN結晶の粒界の存在がズレの原因と推定。)

ただし、この条件でも、基盤をガス冷却し低温に保った場合や、T/S(ターゲット-ウエハ)距離が長い場合は、Ti色の膜となります。基盤の表面温度が低いと、NaCl構造のTiNが形成されず、Ti,Nの混合膜になります。

TiNのスパッタリングでは、ターゲットから供給されるエネルギーが重要な役割を果たしています。

これに関連して、次回は、低抵抗のTiNを形成する条件について述べます。

(次回)低抵抗のTiNを成膜する方法:
(次回以降)高密度のTiNがなぜAl-Si間のバリアとなるのか。:

TiN成膜過程の現象(続き)

2017-02-28 01:48:05 | 技術情報
#2000文字を超えていると、投稿できないようなので、分割しました。

2:ヒステリシス現象について
TiNの成膜で特徴的な現象に、ヒステリシス現象があります。例えば、ターゲット電力一定、ガス流量一定の条件下で、N2-Arの流量を変化させ放電電圧をモニターする場合を考えます。
1)Ar-100%の場合、通常のArによるTiのスパッタです。
2)N2の流量を増やしArの流量を減らすと、ある時点でTiNの成膜が始まります。(このときプラズマの色が赤く変ります。)
3)最終的に100%N2まで 放電電圧をモニターします。
次に、逆に、N2の流量を減らしArの流量を増やして行きます。
4)ある時点でTiNのスパッタからTiのスパッタモードに変ります。(プラズマの色は赤い色から、青白い色に変ります。)
5)最終的には、Ar-100%で1)と同じ状態になります。
この時2)と4)のAr/N2比は異なっており、また、放電電圧も1=>2=>3と、3=>4=5で異なっている部分があります。

Ar/N2の流量比を一定とし、ターゲットパワーを 低=>高=>低 と変化させても同様な現象が確認できます。

これは、TiNのスパッタ率r(TiN) と Tiのスパッタ率r(Ti) が r(TiN) この条件を満たさない材料では ヒステリシスは発生しません。例えば、Wでは、ヒステリシスは起きません。

(続く)