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日本経済新聞6月27日付文化欄に、フランスで出版社を経営しているディアンヌ・ドゥ・セリエ氏が、「挿絵も光る仏語源氏物語」とのタイトルで、記事を寄せている。
タイトルも、何となく「光源氏」を連想され、面白いと感じた。
内容は、7年前、2000年から、挿絵付きのフランス語版源氏物語の出版プロジェクトに取り組み、この9月に出版の運びとなったことに関するものである。
7年の歳月を要することになったのは、「世界の世俗絵の中でも並ぶものがないほど鮮やかに物語を描写し、独自の潮流を形成している源氏絵」の収集、フランス語版源氏物語に使用する権利を得るための交渉等々に、多大の時間を費やすことになったためとのことである。
しかし、感慨深く感じるのは、日本で千年の時を刻んできている源氏物語が、海を超え、フランス語に翻訳されてフランスの人々の目に触れることになるということである。
ディアンヌ・ドゥ・セリエ氏も「フランスで出版社を営む私も源氏物語の世界に魅了された一人だ」と述懐している。
彼女が、どこでどのように源氏物語に出遭うことになったのかについては、触れられていないが、興味のあるところである。しかし、彼女は「11世紀初め、紫式部によって生み出された源氏物語は、日本における物語文学の原点であると同時に世界文学の中でも傑出した作品といえる」と評価しており、世界文学の中でも「源氏物語が傑出した作品」として位置づけられているところが、何とも嬉しく感じることのできる部分である。
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しかし、フランス語版源氏物語の販売価格を聞いて驚く。
価格は480ユーロ(約8万円)を予定しているとのこと。もっとも、企業助成金が得られるようであれば、すぐにでも値下げするとの計画であるとのこと。
私であれば、書籍を購入する金額としては「二の足を踏んでしまう金額」ということになる。
ただ、仏語訳版には、520点(このうち100点以上が個人所蔵のものとのこと)の源氏絵がちりばめられているとのことで、あるいは、源氏絵のちりばめられている流れを目にするだけで楽しむことのできる書籍かもしれない、と感じる。
ただし、7年間の歳月をかけ、世界中に散らばっている源氏絵の収集、権利取得作業、翻訳を使わせてもらう権利の取得等々、膨大な時間と、膨大な人海戦術が行なわれている背景を考慮すると、ディアンヌ・ドゥ・セリエ氏の言葉を借りれば、それでも「赤字に陥るかもしれない」とのこと。
その勇気及び実行力には脱帽であり、エールを送りたいところである。
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ディアンヌ・ドゥ・セリエ氏は、今年訪日しているようで、「六月初めには、京都や宇治などゆかりの地を回り、源氏物語の世界観を示す『もののあわれ』の情感が今の日本のいたるところに息づいていると感じた」と記事の中で触れており、目頭が熱くなるように感じた。
いずれにしても、「海を渡りフランス語訳版として、フランスの人たちの目に触れる仏語訳版源氏物語」の奮闘を期待し、ディアンヌ・ドゥ・セリエ氏の「源氏物語プロジェクトの成功」を祈念したい。
Written by Tatsuro Satoh on 29th June, 2007