CBTセンター

認知行動療法の使用感・使用例などを具体的に書き込む

③インフォームドコンセント 強迫性障害と認知行動療法

2005-09-23 | 強迫性障害
「暴露反応妨害法」という商品を売りこむのは結構大変な作業だとおもう。10年越しに「それだけは嫌だ!」と思っている事をやってもらうのは並大抵ではない。そういう意味では動機付けが一定量まで達していなければ、インフォームドコンセントを1回順延して三回目に行うこともある。
もし治療における脱落があったとしたら、それは100%治療者の責任だと言える。どこまで理解が入っているか、どこまでやる気になっているかという読み取りが下手で、フィットしない治療を無理やり押し付けたから脱落したのだ。
そんなわけで「上手くいきますように」と祈りながら説明するw

「暴露反応妨害法の説明」
学習理論に基づく強迫行為増加の説明と対応させて、「強迫行為を行うと一時的に不快感は減るけど、全体的に増える。強迫行為を行わないと一時的に不快感は増えるけど、全体的に減る」という例のアレを、線グラフなど書きながら説明する。
強調すべきは一時的な不快感というコストを払うことで、OCDの軽快というベネフィットが得られるということ。コストの事を「副作用」と呼んだりもしている。治療なので作用が副作用より大きいのは間違いないが、しかしきちんと副作用の説明をすることが、返って信頼を築けると思う。
更に「もし強迫行為をしなかったら不快な時間が無制限に続く」という信念に対しても、取り組んでおかなくてはいけない。すでにあるエクスポージャーなどで無限に続かなかった記憶を引き出せるのであれば僥倖だが、そんなに都合よいわけにもいかない。
インフォームドコンセントでは幾つかの寓話を話して、イメージをつかんでもらう。

「全力疾走モデル」
これはおおよそ全員が体験しているであろう記憶なので、気に入っている。
「もしあなたが『全力疾走してください』と言われたら、何メートル走れるでしょう?50m?100m?1500m?それは人それぞれですが、全力疾走する限り必ず限界が来て、立ち止まってしまいます。それは体に限界があるからです。脳も体の一部なので同様に限界があります。強迫行為を我慢して不快感が一杯の時、脳はまさに全力疾走という感じで過剰に興奮しています。そしてそれはある一定時間持ちますが、やがて減衰していきます。備蓄していたアドレナリン等の神経伝達物質が尽きるまで、つまり減衰までにどれだけかかるかは人によって個人差がありますが、無限に貯蔵されているわけでは無いので、やがて減衰します」

「砂山崩しモデル」
これは段階的暴露(ショートステップ)という動機付けが生まれやすいテクニックを補佐します。
「砂で出来た山を思い浮かべてください。ちょうど棒倒しで遊んでいるようなイメージです。OCDの治療はこの山を少しずつ崩していくようなものです。外側から砂を取り除いていけば、山はだんだん低くなっていきます。ある一つのエクスポージャーをすると、そのこと自体が平気になると共にOCDの砂山そのものも若干減ってきます。大きく砂を取れば大きく山は減りますが、大変です。小さく砂を取れば小さく山は減りますが、時間がかかります。自分にちょうどあった量だけ、外側から砂を取り続けて下さい。半分ぐらいまでくれば、今はとても考えられないほど嫌な刺激の嫌さも、標高が低くなって今の半分ぐらいの嫌さに勝手になっています」

「建設的痛みモデル」
毎日毎日自動的に繰り返される際限の無い不快感や不安と、治療によって確実に起こってくる強い不快感や不安を比べてみてください。仮に後者が大きそうだと思っても、その不安や不快感は着実にOCDが減っているという証であり、建設的な痛みなのです。長い目で見れば最終的に不安や不快感が無くなる後者の作戦の方が総量として嫌な気分は少なくなります。

まあ他にもあるけど、こんな感じで。他にもあるというか、お仕着せの説明よりもその患者さんの生活実態にフィットした寓話がカウンセリング中にひねり出せるようになったほうがいい。小泉総理が好きなら痛みを伴う構造改革モデルでもいいw
やったこと無いけど、砂山崩しの絵とか、全力疾走して立ち止まってる絵とか描いてもらっても面白いかもしれない。
いずれにせよ治療的に良いイメージとか、良い寓話とか、そういったものがくっきりと入っていると後々やりやすい。そういう意味では多くの治療教科書は無駄に科学知識が多すぎて、サービスの意味を誤解している。