[WWF]へーげる奥田の空談言説

サークル「WWF」主宰・へーげる奥田が適当に告知したり興味の対象について論じたりするウェブログである。

例題「なぜ人を殺してはいけないのか」と慰安婦問題

2007-03-11 22:35:25 | Weblog
Q.なぜ人を殺してはいけないのですか?

A.別に「人を殺してはいけない」という決まりはありません。
  刑法には、「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する」と書いてあるだけで、「人を殺してはいけない」とは書いてありません。法令に定義された刑に服することを前提とするのであれば、人を殺すことは社会運用上常軌の範疇を逸脱するものではありません。ここにおいて非難されなくてはならないのは、人を殺していながら、法規に規定された刑を免れようとするような行為です。以上。


という話はまあただのトンチ的なネタなわけですが、部分的には正しいところもあります。

人間は、ただ生きているだけの存在ではなく、「意味の世界」に生きています。そしてこの「意味の世界」は、ある程度複雑な、多層構造を持っています。
コンピュータのネットワークにはISOの定義するOSI参照モデルという概念があります。「物理層」「データリンク層」「ネットワーク層」「トランスポート層」「セッション層」「プレゼンテーション層」「アプリケーション層」という、情報処理技術者試験を受けるとき覚えさせられるアレです。階層はそれぞれ独立していて、意味論的な機能のサービスは継承されるものの、各階層は他の階層に対して構造論的には独立しており、他階層に対して責任を持ちません。世界は、しばしばああいった階層構造で説明すると合理的であることがあります。というより、世界構造の在り方を模してこういった定義が作られたというのが正解なんでしょうが。

たとえば、A君はまず「生物」という存在であり、また「人間」という動物であり、「男性」という性別であり、「日本人」という社会的認知を受けた者であり、というように各レイヤーごとに定義されたカテゴリーに属しているのです。

先の「なぜ人を殺してはいけないか」の問いに関しても、問いに答える場のレイヤーによって回答は変わってきます。たとえば「倫理」のレイヤーなら「他の存在者の生命を奪うことは絶対的に悪である」とかそういう感じの回答を得るでしょうし、「経済」のレイヤーなら「人間ひとりを育成するために社会は莫大な経済投資や時間投資を行っているから、それを不必要に破壊する行為は社会的な不利益をもたらすので悪である」というような回答が予測できます。社会から隔絶された状況下において他者に襲われたりするような危険を感じたら、相手を殺して脅威を除こうという行動は「一個の生物」というレイヤーにおいてじゅうぶん合理的な行動でしょうし、逆に人間を社会的動物と定義すれば、「人間はかならずその周囲に、本人以外の人びとの人間関係のネットワークを築いているものであり、十分な理由もなくある人間の命を奪うことは、そのネットワーク全体に大きな不利益をもたらす。特に、その人間と重厚な関係をもつ家族や親族など周囲の人間たちを悲しませるという形での不利益は非常に大きい。ゆえに悪である」とか、「個々の人間が無秩序に周囲の人間を殺すと、社会は安定することができずに総体として大きな不利益がある。ゆえに悪である」などの回答があるでしょう。また「軍事」のレイヤーでは殺人は「絶対的に悪」とは定義されません。単なる通常運用の範疇です。ちなみに、「殺人」という語の定義も回答に大きな影響を与える条件ですが、とりあえずここではふれません。

このように、思惟のなされるレイヤーでごとに回答は用意できます。ただ、同じレイヤーであっても、与えられる前提条件や時代や文化基盤などの環境パラメータによっても回答は変わってきます。「汝殺すなかれ」とか言ってるような「宗教」のレイヤーの思惟であっても、「ただし、こっちの一族を殺した奴は殺しても可」という結論を出すケースが想像されますし、戦争のレイヤーにおける思惟でも、味方に対する殺人や、戦闘行為以外の殺人、非戦闘員に対する殺人は悪と考えるでしょう。21世紀現在は法のもとの平等をうたっている国であっても、300年ぐらい前なら無礼討ちとか言って他者を斬殺することは社会的に認められた行為だったし、仇討ちとかは積極的にしなくてはならない殺人だったわけですしね。

結局のところ、ある事象に対する評価というものはいくつもあるわけで、これはもうそのつど是々非々で唯名論的に考えるしかありません。哲学というものは、この「是々非々」での判断力こそがその極意のひとつではないかとも思うわけです。

今回の従軍慰安婦問題についても、思考するレイヤーが各個てんでんバラバラだというのが困ったもん的状況のひとつの要因ですね。韓国の一般の方々の認識は「どう考えても国家が他国の民を軍隊に対する売春婦にするとは悪に決まっている」というようなレイヤーで考えているわけですが、アベさんとかの政治家が答弁しなくちゃなんない問題はもちっと複雑な場で思考しなければならない問題です。

まず、「従軍慰安婦」といわれるような制度がなぜ当時の日本軍にあったかといえば、それは当時(だけではなく今も)多くの国家の軍が他国に駐屯した場合、その国の民間人に対する性犯罪が必ず発生するという現実があります。当時なんとか先進国に近づこうとしていた日本軍としてはこのリスクを犯したくなかったと想像されます。で、軍人による無秩序な民間人に対する性暴力等を防ぐため、軍が職業娼婦を準備して一緒に連れて行き、軍の自律性を高めて外部不経済のリスクを防止しようという発想だったわけです。
ちなみに当時はもちろん娼婦は「絶対悪」などではなく、公的に承認された職業だったわけですね。なのでこれ自体は別に悪でもなんでもありません。
(参考:http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2005/06/24/20050624000003.html)

なのでここでの問題は、本人の意思にかかわらず、無理矢理拉致して娼婦にしちゃったというような行為を、軍が直接指揮して行われたか否かという点に絞られます。この種の行動は、当時の法令にも国際基準においても違法と考えられるためです。
で、アベさんの回答としては、悪質な民間業者に騙されて娼婦にされて軍に出されちゃった人もいるだろうけど、軍が直接連れて来ちゃったというような「狭義の強制性」に関してはEvidenceがない、つまり「立証できない」と言ってるわけです。もし訴えるなら、当時人を騙したり、借金のカタに自分の娘を売ったり、人の娘を買い取って売り飛ばしたりした業者等関係者を捜して訴えるべきですね。瑕疵はそこにあるわけですから。
あくまでアベ氏は、「悪」というのは法で定義されたところに発生するもので、現在では法や倫理で問題がある行為であっても、異なる時代背景においては前提条件が異なるわけで、その前提条件が「当時の法」であり、それを立証するためにはEvidenceが必要ですよ、ということを言ってるわけです。
ただ、テレビとか新聞とかのコメントだと、狭義のなんて言っても意味がわかんない人がほとんどでしょうし、左巻き系メディアの多くは半ば意識的に読者がこのへんを誤解するように書いていますし、左巻き系の人たちもこのへんを(意識的に?)理解していない、あるいは混同しているケースが散見されます。ちくしとか。

これに対してアベさんは、「誤解」という語を使って、誤解を解かなくてはならないとか言っています。あんまり事情を知らない人には確かに「誤解」を解いておいたほうがいいでしょうけど、そればかりではないことも知っておくべきです。

確かプラトンだったか、人間が真理に到達できないのは無知だからだとか言ってた記憶があるんですが、そんなことはありません。この文章で書いたようなことは、従軍慰安婦問題をちょっとでも囓ったことのある人ならみんな知ってることです(除・ウリミンジョク)。もちろんアメリカ下院だって知ってるでしょう。だからCNNでアンケートとかやれば70~80%が「謝罪の必要なし」と出ちゃうわけですね。
しかし、アメリカでなんか下院通過だかなんだかしちゃう背景には、無知とかそういう問題があるんではなく、票田の問題とか、もしうまく賠償金とかが入ったらアメリカの弁護士に成功報酬ががっぽり入るとか、そういった利害のシステムが作用しているところであり、正しいとか正しくないとか誤解とかそういう問題ではないところでことが動いています。これは「政治」とか「経済」とかのレイヤーで議論されるべき問題なんですね。

ちなみに、「従軍慰安婦」そのものが絶対悪だという思考をもつ人もたぶん中にはいるかもしれません。ウリミンジョクには多いですが。韓国・朝鮮人を強制連行したニダとか言ってもそれは「当時は日本国内の問題」という前提がありますから、「従軍慰安婦自体が悪」という論法もわかんなくもありません。ただ、それ言うなら韓国軍も従軍慰安婦制度を実施していたみたいですから、そっちも訴えないとおかしいですね。まあ、ウリミンジョクびいきなので自動的にそれは不問になるんでしょうけど。

一応引用。


http://members.at.infoseek.co.jp/canopus/asahi/asahi.htm

朝鮮戦争時の韓国軍にも慰安婦制度 

韓国の研究者発表〔朝日新聞〕

2002年2月24日

朝鮮戦争時の韓国軍にも慰安婦制度があったことが23日、立命館大学(京都市)で開かれている『東アジアの平和と人権』国際シンポジウム日本大会(朝日新聞社後援)で明らかにされた。
韓国軍慰安婦について日本で公になったのは初めて。発表した慶南大客員教授の金貴玉さんは『日本軍の慰安婦制度を真似たものではないか』とみている。
金さんは96年、離散家族のインタビューの中で、『50年10月、韓国軍の捕虜になり、軍慰安隊の女性と出会った』という男性の証言を得た。以後5年間インタビューを重ね、『直接慰安所を利用した』『軍に拉致されて慰安婦にされかかった』という男女8人の証言を聞いた。
さらに金さんは、韓国の陸軍本部が56年に編さんした公文書『後方戦史(人事編)』に『固定式慰安所-特殊慰安隊』の記述を見つけた。
設置目的として『異性に対する憧れから引き起こされる生理作用による性格の変化等により、抑うつ症及びその他支障を来す事を予防するため』とあり、4カ所、89人の慰安婦が1952年だけで20万4560回の慰安を行った、と記す特殊慰安隊実績統計表が付されている。
証言と併せ、軍隊が直接経営していた慰安所があった、と金さんは結論づけた。
軍関係者の証言の中には、軍の補給品は第1から第4までしかないのに、『第5種補給品』の受領指令があり、一個中隊に『昼間8時間の制限で6人の慰安婦があてがわれた』とする内容の物もある。
どんな人が慰安婦になったかは、明らかではないが、朝鮮戦争時に娼婦が急増し、30万人にも及んだことから、金さんは『戦時の強姦や夫の戦死がきっかけで慰安婦になった民間人も少なくない』と見ている。
大阪外国語大学の藤目ゆき助教授(歴史学)の話。
非常に重要な報告だ。韓国軍慰安婦については、韓国でもほとんど知られておらず、発見といっていい。韓国にいて韓国軍の暗部を問うのは難しい。同胞の女性を性奴隷化した自国社会を直接問う事になるからだ。アジア女性史研究の上でも、軍慰安婦と現在の軍事基地周辺での性暴力が、どのように繋がっているのかを知る助けになる。




写真はこないだ飲みに行った浜松町「鳥まつ」のレバー串。すげえうまかったですよ?


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