風吹く夜のひとりごと

僕、風待月の独り言のブログです。
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外側のセカイへ 第五話

2006年12月31日 17時47分45秒 | 小説『外側のセカイへ』
 外側のセカイへ ~少し昔の物語~

 「――――――――あのさぁ、これって…………夢っすか?」
 「いいえ、これが現実です」

 人は予想外の事が起きたりするとそれを夢なんじゃないかと疑って今の状況を認めようとしない性質ってのがある。
 実際、俺だってそういう事が時々あったりするんだ。
 例えば朝起きる時、目が覚めて枕元にある時計を見てみると約束の時間をおもいっきりオーバー。
 要するに遅刻した時だ。
 こういう時、俺は"もしかして俺ってまだ夢の中にいるんじゃね?"って考えてしまう。
 けれども現実ってのはそんなに甘いもんじゃない。
 俺の考えとは裏腹に時計は刻一刻と正確な時を刻み続けている。
 それで結局は"俺はまだ夢の世界にいるんだ"という馬鹿な考えを捨てて、これからどうするのかの対策を立てるんだよな、うん。

 
 ――――――――でも、だ。


 あなたならこんな状況を現実なのだと認める事が出来るだろうか?
 今、俺のいる場所は本当に何もないただ真っ白な世界。
 そして、そんな不思議世界にいるのは俺と背中に生えている真っ白な翼が物凄く印象的な"自称"天使さん。
 おまけにその天使さんによると、俺は現在生と死の境にいるとの事だ。

 「――――いや、絶対これは夢でしょ」
 「も~、なかなかあなたは現実ってのを認めようとしないわねぇ…………。じゃあさ、こんなのを見たら認めてくれる?」

 顔に表れているくらいに疑心暗鬼な俺を見て、天使さんの方は多少呆れたような表情を見せながら、人差し指で空中に円を描き始める。
 いやな、この状況は誰が考えても夢だって思うんじゃないかとツッコミたかったんだが、それは俺の口が許そうとしなかった。
 …………てか、開いた口が塞がらなかったんだよ。

 「フフフ……驚いたんじゃない?」
 「…………ま、魔法かよ、これ」

 描かれた円はそのまま光の輪となって空中に残り続け、円の内側は鏡のようになって驚きの表情を隠せないでいた俺の顔が映っていた。
 天使の方はそんな俺の表情を見て、"どうだ"と言わんばかりに満足な笑みを浮かべてくる。何だかムカつく笑顔だな、オイ。
 そして、天使はそんな表情のまま空中に浮かぶ即席謎鏡にそっと触れる。
 すると、表面は水面のように触れた部分から波立ち、俺の表情が消えたと思ったら、別の景色がそこには広がっていた。

 「ちょ…………な、何で俺がぶっ倒れてんだよ」
 「フフ、これが今のアナタって事よ」

 そこにはついさっきまで俺のいた公園でぶっ倒れている俺を揺さぶっている吉川と俺の顔を突いているガボ兄の姿がそこにはあった。
 …………とりあえず、こいつの言ってる事は信じておいた方が前向きなのかもしれんな、うん。
 
 「おっ、やっと今の現実を信じてくれたね。という訳で、アナタの命はどっち行きか判定しちゃいますか」

 かくして始まった。
 俺の生か死か、運命の判決が。


 第五話~それは生きるか死ぬかの片道切符~

 
 「――――で、俺の生死はどんな感じで決まっていくんだ? それと、この世界をもう少し詳しく教えてくれ。分からないままで終わりたくないんだ」
 「う~ん……それじゃあ、最初はこの世界について教えてあげるよ」

 そう言いながら天使は少し考え込みながらもこの世界の事を教えてくれた。
 だけどな……この天使、妙に説明下手だ。
 そんな微妙に分かりにくい説明を聞いた俺はとりあえず説明の要所要所を脳内でまとめる事にした。

 とりあえず、この世界は人の生死を分ける事になる結構重要な場所らしい。
 そしてこの地に足を踏み入れた人間は今までの人生を振り返りながらこのままあの世――――いわゆる死後の世界へ直行するか、まだ現世で生きていたいかの選択をするという。
 その後、生きたいという選択をした人間はそこにいる天使の判断に委ねられるらしい。
 ちなみにそれは本人曰く"至極公平"との事だ。
 
 で、俺はこれから生か死か、どっちを希望するかって事なのだが………………

 「そりゃあ、生きたいって」
 「ま、それが当然よね。アナタのようなそれなりに目的を持った子なら特にさ」
 
 ――――ん? 俺はまだ自分の人生がどうこうだなんて言った覚えはないぞ。
 どうしてお前はそんな事が言えるんだよ。まるで俺の人生を知ってるようじゃないか。
 怪訝な顔で天使の方を見た俺の思いを読みとったのだろうか。
 天使はにやりと微笑みを浮かべながら、

 「あ、そういえば言い忘れてたね。実は私達天使の権限でさぁ、ここにいる人の人生を相手の目を見るだけで読みとる事が出来ちゃうのよ」
 「ったく、なんつースペシャルな能力だよ。プライバシーの保護もお構いなしだな」
 「まぁ、その辺は大丈夫。どーせここに来る人達は半死人。人権も何もないわよ」
 「…………そうですか」

 恐るべし、天使。
 神の使いというだけあって、もう少し慈愛に満ちあふれたもんかと勝手に思っていた訳だが、意外にも黒い部分もあるようだ。
 こいつはもう少し天使とかに対しての見方ってのを考え直した方が良いのかもしれんな。
 俺が色んな意味で感心していた姿を見て満足したのだろうか。
 天使はうんうんと頷きながら、

 「まぁ、ホントならもう少しだけじっくりと考えてからどっち行きかを決めるんだけどね。アナタの場合、このまま死んじゃったりするとかなり納得いかないだろうから生かしておいてあげるわ」
 「え、なぁ…………本当にこんなあっさりと決めちゃっても良いのか?」
 「ふ~ん、じゃ、あの世行きでも良いって事なのかな?」

 いえ、充分に満足です。このまま現世の方に戻ります。いえ、戻らせてください、天使さん。

 「そうそう、最初っから遠慮しなくても良いのよ。私は堕天使じゃないんだからさ、そんなに嘘はつかないわよ」
 「…………ありがとな」

 俺はそうポツリと呟いた。
 …………ちょっとだけ恥ずかしいな。死の淵にいる俺が言うのも何だけどさ。

 「まったく……まだまだ君も子供なんだから…………。ホラ、現世の方にアナタを転送するからそこでじっとしてて」
 「あ、ああ、分かった」

 俺は言われた通りその場に立ち尽くす。
 そして、それに合わせるように天使は両腕を俺の足下へと向ける。
 そして、何やら呪文のようなものを唱え始めた。それはこんな内容のものだった。
 
 「――――命司取りし神の使いである天使の権限において命ずる。
  今、何時の命を現世へと戻し、命の灯を灯し続けさせん――――」

 この様な言葉が紡がれていく毎に足下で輝く光はその強さを増していき、俺の体はどんどんその光によって包まれていく。
 そんな中、天使は準備が整ったと言わんばかりの笑顔で、

 「っと、これで九割方完了。それじゃあね、"待之夜新司"君」
 「…………え? 何で"そっち"の名前を――――」
 「何言ってるのよ。それが今の"アナタ"なんじゃないの?」

 うぐっ、何だか借りを作った感じだな。
 まぁ、いい。この辺は天使のご厚意って事にしておこう。
 それよりも、だ。
 おそらく九割九分七厘あたりまで完了したであろう転送準備の中、気になっていた事を聞いてみる事にした。
 
 「あのさぁ、お前の名前って…………」
 「私? 私の名前は"ユキ"よ」

 ん、外人っぽい顔なのに日本人みたいな名前だな。
 もしかしてアレか? 天使もグローバル化が進んでたりするのか?
 気になるといえば気になった。けれども、時間もなさそうだ。
 とりあえず、俺は一言、
 
 「…………ありがとな、ユキさん」
 「そりゃどーも」

 思い残す事は殆どなかった。
 殆どだ。後の事はもう、どーでもいい。
 俺はもういつでも良いという想いも込めて、そっと微笑んでみた。
 すると、ユキの方も納得したらしい。ユキは最後にこう言いながら、

 「アナタの人生に光り溢れる"希"望が"有"りますように」



 ――――――――現世への"落とし穴"



 ――――――――こうして俺は現世へと落下していった。

 …………てか、いきなり足下に穴が空いて落下っつーのは無しでしょ。
 "有希"さんよ、この人生そんなにオチのある話にしなくても良かったんじゃないっすか?
 しかもこんなに物理的なオチで。
 "希望が有りますように"って行った直後にさ。





 「――――――――んじ、ねぇ、新司ってば目を覚ましてよ!!」
 「オイ、新司!? いい加減目ェ覚ませ! 戻ってこい!!」

 「…………痛てぇよガボ兄。あんまり大声で騒ぐなよ吉川。もう、戻ってきたからさ」

 無事、現世へと戻ってきた俺の第一声はそれだった。
 最初の方は目が慣れてなくて辺りもぼんやりとしか見れなかったけども、起きあがってよーく見てみると、そんなぼんやりも消えてきた。
 そんな俺の目に映ったのは、

 「涙目になるなよ。俺、何だか本当にヤバかったような感じじゃんか」

 ガボ兄、吉川共に涙目で俺を見ていた。
 ……何だか物凄く恥ずかしいんすけど。

 「うっ、ゴメン……。大体、どんな状況に置かれてたのかは想像が付いてたんだけどさ。もし帰ってこなかったらって思うと気持ちが高ぶっちゃってさ…………」
 「まぁ、吉川から大体の事は聞いてたけどさ、心配してたんだぞ。何せ、相方の生死が係ってたんだからよぉ」

 照れ笑いを浮かべながら言った吉川と少しふてくされながら言ったガボ兄。
 まぁ、確かにガボ兄の気持ちも分かる。心配してくれてありがとな。

 「ったく、そんな事言われるとこっちも恥ずかしいじゃねぇか」
 「オイ、言わせたのはガボ兄が原因だぞ…………」

 ふと、疑問が浮かび上がった。
 ん、まてよ。
 もしかして吉川よ、お前も天使の所に行ったのか?
 俺は思わず吉川に尋ねてしまう。
 すると、吉川はやっぱりといった感じで苦笑を浮かべながら、

 「う~ん、実はアレやるのは常連になっててさ。担当の人の所へ行っては"またかよ"って言われて戻ってくるんだよね。物凄く非現実的なんだけどさ」
 「ん、担当の人って事はあれって沢山いるのか?」
 「あれ、聞いてなかった? あの人たちは沢山いるよ。まぁ、最初に当たった人がそれ以降担当になるみたいだけどね」
 「ハハハ…………意外にあれってしっかりとした組織になってるんだな」
 「うん、まあね」

 ま、これはまたあっちに行った時用の予備知識としてでも頭の片隅に入れておくか。
 
 それよりも、だ。
 俺は吉川の悩みに結論を出さなければならない。
 俺達は再びベンチに座り直す。
 そして、俺は真剣な目つき(結構仕事モードだ)でこう言った。

 「いいか、吉川。お前はこれ以上姉の料理を食べるな。絶対だ。
  あと、俺達以外にも誰かがアレを食って昇天しないように俺が生活の中で培ってきた特製レシピのメモを明日渡しておく。
  良いな、これ以上お前が昇天する必要は絶対にない。たとえ簡単に戻って来れてもだ。
  だからな、絶対に食っちゃいかん!!」
 「あ…………ハイ、分かりました」

 やっぱり経験からくる言葉って言うのはいつもより重みっていうのがあるもんだな。
 言い終えたあと、俺はそれを実感した。
 そして、硬直する吉川を見ながら俺は一つの決心をしていた。
 

 この地域の平和は俺――――待之夜新司が守ってみせる、と。


 <あとがき>
 はい、ども~。久しぶりにこのコーナーに登場の待之夜新司だ。
 いきなり生きるか死ぬかの境目に逝ってしまった主人公の俺だが、何とか戻ってきたな。
 ただ、序盤からこんな調子だと最終話で死にそうな気がしてちょいと怖いんだよな。
 無事に最終回がくる事を色んな意味で祈りたいものだ。全く…………。
 あ、次回の更新はいつになるかはいつも通りに不透明だからな。
 だが、とりあえずこれだけは言っておく。
 
 年内に更新は絶対にないぞ。

 それじゃあな。良いお年を、だ。

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