風吹く夜のひとりごと

僕、風待月の独り言のブログです。
小説の掲載から日々の出来事、くだらない(?)企画まで何でもそろえています。

【小説】泣き声のひびく夜に(その弐)

2007年12月30日 23時31分59秒 | ひとりごと
 【小説】泣き声ひびく夜に(その弐)

 ――――――――厄介な事になった。
 
 墓地から何と赤ん坊の泣き声が聞こえてきたのだ。
 時間も時間なだけに恐怖も倍増だ。

 「うう……かなり怖い事になってきたじゃないのっ! 折角穏便に済むかなって思ったのに~!」
 
 恐怖を振り払うかのように舞はジタバタ。デパートで時折見かける駄々っ子のようだ。
 
 「まぁ、厄介といえば厄介な事になってきたな。だが、こっからが俺たちの役目なんじゃないか?」

 舞の子供っぽい仕草のおかげで少しばかりか冷静になれた。
 俺は舞の頭をぽんぽんと叩きながら笑って言った。
 
 「ふん、アンタもつくづく物好きよね。こんな時は逃げるって手段もあるのよ」
 「そんな事したって明日になったらまた行く羽目になるんだ。だったらさっさと済ませたい」
 「あーっそう! 私の考えそうなことはお見通しってワケね」

 舞はふてくされたような顔で、けれどもどこか嬉しそうな感じで、

 「それじゃ、再出発といきますかっ!」

 右手の拳を突き上げるのだった。

 「いや、その前にな――――――――」
 「――――あのー、私は置いてきぼりですか~?」

 …………ひとり困惑状態の平井さんを残して。

 ――――――――・――――――――・――――――――・――――――――・――――――――・――――――――

 墓地に再び突入した俺たち。
 厄介な事になったら申し訳ないのもあって平井さんに来てもらうのには賛成できなかったが、本人の希望と舞の「一人より二人、二人より三人」という訴えにより、平井さんもメンバーに加わる事になった。
 
 「あ~、さっきまではあんなに怖かったのに、いざこうやって突入してみると意外と何とかなりそうな気になってくるのよね~。私ってやっぱ本番に強いのかな?」
 「そうかもしれないな。俺もなんか落ち着いてきた気がするし」
 「でも、さ。私たちが落ち着いてる一番の理由って……」
 「分かってる。分かってるから皆まで言うな」
 「あわわわわ、何で二人ともこんなに落ち着いてるんですか~!」

 さっきまでとは打って変わってビビリっぱなしの平井さんがいたからであった。
 どうやら平井さん、何だかまわりに嫌な空気が漂っているというのだ。それがどうも不気味に感じられるらしい。

 「まぁまぁ、気のせいって事もあるかも知れないかもしれないし……」
 「そうそう、なるべく気にしない方がいいですよ。病は気からっていう時もあるんで……」
 
 俺たちは十字架を切ったり手を合わせながら慰めの言葉をかけていく。
 そんな俺たちに対し、

 「うう……二人とも何だかんだで楽しんでませんか?」

 苦笑気味にぼやく平井さん。
 一方の俺たちは、

 「「あ、スイマセン。ばれてました?」」

 満面の笑みで答えるのであった。

 
 
 「はぁ~、なんでまたもう一回ここに来る羽目になるのよ……」

 俺たちはさっき記念撮影したばかりの井戸に到着した。
 舞のため息も仕方ないのかもしれない。俺だってこんな所に二度も来るのは正直御免だ。
 
 「ここまで来たんだからしょうがないだろ? もう一回この辺見てまわろうぜ。それから小屋に行ってみよう」
 「そうですね。あとは何も出ないことを祈るばかりです……。あ、それとも何か出てきたほうが吹っ切れそうでいいでしょうか?」
 「いやいやいや、私は何にも出ないほうが」
 
 とりあえず、俺たちは井戸の周りから調べる事にした。
 本当は二手に別れようと思ったんだが、舞と平井さんの懇願により却下となった。
 何はともあれ再調査開始である。

 調査してる時に気がついたのだが、気がついた時には墓地の外で聞いていたあの泣き声は消えていた。
 いつからそうなったのかはよく覚えていない。思いのほか気が動転していたようだ。
 そしてそれは二人も同じだったようで、泣き声がしなくなったのを改めて確認してからは不安な表情も少し消えていた。

 「――――とりあえず井戸の周りは何も無し、か……。じゃあ、小屋の方も覗いてみるぞ」
 「う、うん、分かった」

 俺、舞、平井さんと列を組んで勇者一行は小屋へと歩を進めていく。
 普段は舞の背中を見ることが多い所為か新鮮な気分になっていたのは内緒だ。
 そんな事を考えながら俺たちは小屋の前に到着。
 そこは工事事務所くらいのバラック小屋が物寂しく建っていた。
 俺はそっと扉を開ける。すると――――――――

 「って、おわっ!?」

 中から一匹コウモリが飛び出してきた。
 流石にびびる俺。そして後ろのお二方は、

 「「キャ――――――――」」
 「――――――――シー!」

 俺は慌てて二人の口を押さえる事にした。こんな時間に叫び声となるといろいろ不味いからな。
 
 「落ち着いて。ただのコウモリだから」
 「ご、ごめんユーイチ……」
 「すみません、突然の事でビックリしちゃって」
 「とりあえず中に入ろう」

 再び俺先頭の隊列で突入。
 俺たちは懐中電灯で真っ暗な室内を照らしてみる。
 
 「ん、ここ何か暖かいな……」
 「ホントだ。生暖かいとかじゃないかな~って、ユーイチ、あれ見て!」

 舞が何か発見したらしい。俺と平井さんも舞の光が射す方に懐中電灯を向ける。
 するとそこには――――――――

 ――――にゃおーん

 「………………え?」
 「ねこ……?」
 「か、かかか、可愛い~~っ!」

 ストーブのそばにはミカン箱、その中に毛布に包まって入って居たのは子猫たちだった。
 コレを見て舞と平井さんは目を輝かせて大興奮。子猫を抱きかかえて頬擦りしている。
 
 「って、まてよ……」

 子猫を抱きかかえながら「このコいいな~、家で飼いたいくらい」とか楽しんでいる二人をよそに俺は考え事にふける。
 とりあえずこんな時はあれだ。脳内の佐藤 祐一、集合~。

 『なに? 子供の泣き声がしたと思っって小屋に行ったら子猫がいた?』
 『そんなもん結論は一つだろ』
 『お前、正直認めたくないんだろ。自分の勘違いでビビッてたこと』
 『はいはい会議終了。お疲れ様でした~』
 『ちょ、俺まだ何にも喋って――――』
 『何言ってんだ。俺はお前でお前は俺。聞かなくても分かるっつーの』
 『…………』

 いつになくボコボコに俺が叩かれて会議が終了した。
 俺はため息を吐きながら呟く。

 「どうやら……俺たちは勘違いしていたらしいな」
 「ふぁ、この肉球柔らかくて気持ちいい~って、ユーイチ? 勘違いって何が?」
 「だーかーら、俺らがさっきまでビビッてた泣き声の正体だよ」

 泣き声と聞いて再び凍りついた舞と平井さん。
 とりあえず俺は話を進める事にする。

 「泣き声の正体――――それはこの子猫だったんだよ」
 「え、このコ達が?」
 「そう、ここの子猫は多分ここで暮らしてるんだろうな。多分、その暖房と毛布は墓地の管理人が持って来たと思う」
 「それじゃあ、この子達は半野良くらいですね。でも何で私たちは勘違いを?」

 子猫を微笑ましく眺めながら平井さんは尋ねる。
 俺は情けないとばかりに苦笑を浮かべながら、

 「それは単純に俺たちの恐怖心が猫の鳴き声を頭の中で子供の泣き声に変換させていたのかと。
 そういえば昔、同じように猫の泣き声を子供の泣き声と勘違いしていた時があったんで」
 「へぇ~、ユーイチってそういう可愛いとこあったんだ~」

 悪戯っぽく笑う舞に軽くチョップ。
 へぇ~って言うところが違うぞ、おい。

 「それじゃあ、子供の泣き声の謎っていうのは――――――――」
 「ただたんに子猫の鳴き声って事です」
 「にゃおーん」

 あれだけ俺たちを恐怖に陥れた墓地での事件はこうして幕を下ろすのであった――――――――

 「――――ちょっと待って」
 「ん? どうしたんだよ。まだ何か気になる事でもあったか?」
 
 小屋を出て行こうとする俺と平井さんを舞は引き止める。
 舞はカバンの中からデジカメを取り出しながら、
 
 「どーせだからさ、ここでも写真撮っておこうよ。でないと謎解きした意味もないし」
 「ああ、そうだな。井戸だけじゃ比奈乃に何か言われそうだ」

 こうして俺たちは子猫と一緒に写真を撮る事にした。
 俺は子猫を抱きかかえた舞の隣に行く。
 この時平井さんが撮影をしようとした。けれども折角ここまで来たんだしな、できるなら皆で撮ったほうが良いだろう。
 
 「平井さん、よかったら一緒にどうですか? そこに脚立があるんでセルフタイマーを使えば問題ないでしょう」
 「え? でも、私なんかが一緒だと…………」
 「何言ってるんですか~。私たちもう友達でしょ? 遠慮はなしですよ!」
 「じゃあ……宜しくお願いします」

 ぺこりと丁寧にお辞儀をしながら舞の隣にいった平井さん。その顔はどこか満足気でもあった。
 
 「じゃ~……ハイ、チーズっ!」

 パシャリと音を立ててカメラのフラッシュが光る。
 今度こそ、墓地での調査は幕を閉じるのであった。


 ――――――――・――――――――・――――――――・――――――――・――――――――・――――――――

 「――――――――今日は本当にありがとうございました。何だかんだで上手い事調査の方は出来たので」
 「ほんとにありがとうございます、平井さん。平井さんのおかげで結構楽しめました」
 「そんな、私はただ付いて行っただけなのに……」

 墓地の出口で俺たちは思い思いの言葉を口にしていた。
 ついさっきまで赤の他人だった平井さんも今ではすっかり友達だ。
 これも一緒になって恐怖を味わったからなのかもしれない。

 「それじゃあ、私はこれにて退散しますね。あとは二人にお任せします」
 「平井さん、何ですかそのお見合いに出席したお母さんのような台詞は」
 「まぁまぁ、二人を見てるとそんな気がしてなりませんでしたよ」
 「な、何を言ってるんですか~っ!」

 顔を赤らめる舞と俺。それをみてくすくす微笑む平井さん。
 さっきまではありえない光景がそこには広がっていた。

 「まぁ、それはおいといて。二人はこの後も調査を?」
 「はい。まだまだ行くところはたくさんあるんで」
 「そっか~、まだこれ一箇所目だったっけ……」

 苦笑する俺に少し青い表情の舞。
 平井さんは上品に手を振りながら、

 「またお会いしましょうね、舞ちゃん、祐一君。今度もこんな素敵な夜に」
 「はいまた今度~」
 「本当に今日はありがとうございました~」

 歩き去っていく平井さんを見送る俺たちだった。

 「ん、待てよ……何で平井さんわざわざ夜に限定したんだ?」
 「ユーイチ、何ボケッとしてるの? 置いて行っちゃうわよ~」
 「あ~分かった分かった。置いていくのは止めてくださいー」
 「も~、なんでそんなに棒読みなのよ! もうちょっと感情ぐらい込めなさいよ~!」
 「いやいや、焦ってもないのに感情込められないって」
 「あ~、もう! 何でこう空回りするかなぁ~」
 「……あれ? 俺何考えてたっけ…………」

 さっきまであった疑問も舞とのやり取りの間で消えてしまっていた。
 そう、闇の中にひっそりと。
 
 
 ――――――――・――――――――・――――――――・――――――――・――――――――・――――――――


 「――――――――へぇ~、墓地の後も何とか心霊スポットを取材して来たのね。うん、二人ともお疲れ様」
 
 二学期初日の放課後、俺たちは報道部の部室であの夜の日のレポートを提出した。
 
 「ふぅ~、あの後も結構大変だったのよ。学校裏の神社で藁人形見つけちゃったり、アンタのアポ取っておいたおかげで入れた廃病院じゃあサバゲーやってた中学生集団にあって銃撃されたし……」
 
 舞はため息を吐きながらその後の出来事を話す。
 確かにあの後も大変だった。
 まぁ、心霊スポット探索をしていたにもかかわらずそれらしき物はほとんど見られなかったのも何だかなぁとは思ったのだが。

 「ま、それはそれで怖かったから良いでしょ? 私たちはあなた達に地元の取材任せて某樹海に行ってきたのよ。
 でも、幽霊なんてこれっぽっちもいなくてさ。出てくるのは鬱蒼と生い茂る木々と自殺防止用の看板。
 挙句の果てには自殺しようとしていたオジサンとお姉さんとかよ? 取材というより人助けの方が多かったわ」
 「「へ? 樹海で人助け?」」

 さらりとエライ事を言った比奈乃に俺たちは目を点にしてしまう。
 それを見た比奈乃は俺たちに笑顔を浮かべながら、

 「ふふっ、驚いた? どこに行くのか内緒にしてたのもこの顔が見たかったからなのよ~。いや~、三泊四日頑張った甲斐があったわね」
 「ヒナ……アンタって一体」
 
 舞は呆れるように呟く。それには俺も同感だった。

 「ま、あなた達をビックリさせたことは良いとして。さっきから気になってたんだけどさ、あなた達本当に何にも見なかったの?」
 「え、幽霊の事? 全然見なかったわ。何? 私を疑ってるの?」
 「いや……そんな訳じゃないのよ。もしかして気付いてないだけかな? ちょっとこの写真見て」

 そう言って比奈乃は一枚の写真を取り出す。それはあの墓地で撮った写真だった。
 
 「ん? これって私がひとりで撮りに行ったやつね。あの井戸は怖かったからよく覚えてる」
 「そう、この写真よ。端っこの方見て。この白くてもやっとしてるのさ、人影っぽくない?」
 
 俺と舞は写真の端、茂みの方を注意深く見る。するとそこには確かに白い人影らしきものが写っていた。
 
 「本当だ。でも比奈乃、たまたまソレっぽいものが紛れ込んだかもしれないぞ」
 「まぁ、そんな気がしないでもないのよ。でもさ、二人が撮った写真――――特に墓地だとこの白っぽい影がやたらと写ってるのよ」
 
 そんなバカな。俺たちだってなんの確認も無しにここまで持ってきた訳じゃない。そんなにたくさん写っていたなら一枚くらい気付くはずだ。
 そう俺が思ったその時だった。

 「ユーイチ、これ見て」
 
 舞はすっと写真を差し出す。
 珍しく静かな物言いだっただけに俺も答える事ができず、黙って受け取ってしまった。
 
 「…………なんだよ、これ。ここに写っていたのは――――――――」
 「私とユーイチ、それと一緒にいた平井さんよ」
 
 平井さんと一緒に撮った最後の一枚。
 けれどそこには……………………いたはずの平井さんは写っておらず、真っ白な人影だけが写っていたのだ。
 俺たちが見た時には一緒になって微笑んでいたはずの平井さんが。

 「あなた達の出会ったっていう平井さんって人。もしかしたらこの人影なのかもね。楽しそうだったから出てきたんじゃないの?」

 あっけらかんとそう言った比奈乃に対して、俺と舞は完全沈黙。
 その時部屋を流れた涼しい秋風は俺たちの背中を余計に寒くするだけだった。



 ――――――――またお会いしましょうね。舞さん、祐一君。今度もこんな素敵な夜に。



 <そんな訳であとがき>
 こんばんは(^^)/ またもや更新停止。まぁその間に色々あったんですよと言い訳をしておきます(オイ
 さて、今回本当なら秋ごろには完成予定であった小説の方をUPさせました。
 寒い季節に何故かホラー……本当にスミマセン(汗
 次回はもっと軽めの作品を作ってみたいですね。
 そのほうが書いてる方としても気が楽だったりするので……。
 それではまた(^^)/~ 風待月でした。
 大晦日も更新予定なので『良いお年を~』はお預けといたします(何

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