FUJIOKA・BUNGAKU・MUSEUM

当館は文学はもちろん、美術等の情報交換の場としておこなっております。

第五部目 終了のお知らせ

2014年03月10日 23時41分28秒 | 当館からのお知らせ
 本日もご来館下さいまして、誠に有難うございます。

 皆様にお知らせいたします。

 今回の第五部目書評は、何とか終了いたしましたことをご報告いたします。発表が大きく遅れてしまい、皆様方には大変ご迷惑並びにご心配をおかけしたことに、お詫びを申し上げます。

 とはいえ、書評展開ができたことだけでもありがたいものであり、心より厚く御礼申し上げます。

 皆様、次回の書評をどうぞ、よろしくお願い申し上げます。

敬具

        館長  藤岡 宣麗




貴志祐介「黒い家」を読んで/角川ホラー文庫 NO' 11

2014年03月10日 07時11分46秒 | 書評/作品紹介と感想
貴志祐介「黒い家」/角川ホラー文庫
 生保業界を取り巻く」闇は計り知れないものであろうか。いや、この物語とは決して実際に出てほしくはないが・・・。菰田夫妻の残した大きな爪痕は若槻慎二たちの今後において、少なくとも大きな教訓となったであろう。若槻と恵のひどく受けたそれぞれの傷を埋めるのには時間がかかるのは言うまでもない。だが、苦しみや悲しみを乗り越えて、明るい道に向かう意志を常に持たなくてはならない。恵の「サイコパス」否定論は一つの大きな考えと言えるであろう。すべてが「悪」とは限らない。決めつけ自体は指摘されたものにとっては心外と感じざるを得ない。実際にある「悪」とは、まさに教えるべきであるはずの「欠落」であり、場合によっては「悪」とイコール扱いをされることもある。保護者が必ず教えるべき機会があったにも関わらず、彼らの不在により、教わる人物が大きな不安を抱え、物事の善し悪し判別ができなくなり、彼らの中で「悪」が自然に形成されてしまい、最悪な事態を起こしかねない。実際の社会に起きている猟期殺人事件の犯人はまさに当てはまると言えよう。親による愛情の「欠落」も重なれば「悪」の形成を促す恐れもあると言えよう。愛情も教えも完全に欠落した菰田夫妻を生み出さないためには、彼らの幼少期には愛情と躾が大事である。ただ、欠落のままで大人になっては、頭の痛いところであろう。若槻と恵、二人の行く道に光りあれ、というところである。
 貴志祐介氏は京都大学卒業後、生命保険会社に就職し、業界において裏事情を経験してきた。この「黒い家」の内容としては、学術的な解説を添えた上で、話の筋が非常によい。物語の進行が逸脱することスムーズで読みやすい。人物の結末を考えており、よく考えて構成したものであるので、形としての魅力もある。同氏は数多くのホラー小説を手がけてきた。代表作である「悪の教典」のは多くの話題を集めた。ただし、元アイドル団体経験者の大島優子氏にはやはり貴志氏の作品に「大嫌いです」とだめ出しを食らうのならば、大島氏には向かないであろう。とはいえ、貴志氏にはめげずにこれからも執筆してほしい。アメリカではスティーブン=キング氏が有名であり、日本のホラー小説界においても鈴木光司氏と匹敵する形で切磋琢磨をお願いしたい思いである。キング氏を越える作品が出るかもしれないか?

人物 若槻慎二 黒岩恵 菰田夫妻/THE BLACK HOUSE

村山由佳「へヴンリー・ブルー」を読んで/集英社 NO'10

2014年03月09日 09時37分23秒 | 書評/作品紹介と感想
村山由佳「へヴンリー・ブルー」/集英社
 夏姫を苦しめてきたのは彼女自身の罪悪感だけであろうか。「あなたを許さない」この一言を出させるほどの憎しみが罪悪感へと変化し、彼女を苦しめていったと言うべきである。この苦しめるものが青い色へと象徴的なイメージが加わると、彼女自身の束縛を解き放つのには時間がかかってしまう。この苦しみはさすがに安易にはいかない。彼女の思いが一体化してしまっている以上、彼女自身にとっては決して逃れることのできない運命である。彼女にとっての「青い色」が姉への罪悪感のみならず、姉がみる夏姫への冷たいまなざしをイメージしてしまったと言うべきであろう。とはいえ、決して夏姫自身が姉に直接手をかけた訳ではないが。夏姫にとっては春妃の行為が理不尽に感じてしまったととることができる。姉妹関係の崩壊を避ける事ができたのであろうか。いや、どうしても避けることができようがない運命であったはず。故に、姉妹関係が崩壊し、罪悪感と妬みをそれぞれが抱えてしまい、ぶつかり合ってしまったと言うべきであろう。おきてしまった姉妹関係の破綻に、第三者の救いがどうしても必要となる。さしのべた手を夏姫は決して我慢は出来なかったはずである。想いを打ち上げることにより、苦しみをもたらす青い色は彼女にとってのシンボリックカラーとなったはずではなかろうか。
 村山由佳氏の作品である。今回は文庫本ではなく、ハードカバーで拝見したため、イメージがつきにくかったが、キーワードをあちこち拾い上げることにより、内容の把握はある程度できた。また、以前ご紹介した同氏の作品である「天使の梯子」とのリンクもあり、人物の特長や成長性も描かれており、余すことのない作品というべきである。

人物 夏姫 慎一 春妃 歩太/HEAVENLY BLUE

百田尚樹「モンスター」を読んで/幻冬舎文庫 NO'9

2014年03月08日 08時06分24秒 | 書評/作品紹介と感想
百田尚樹「モンスター」/幻冬舎文庫
 鈴原未帆となった田淵和子は学生時代の大きな負い目から究極の「美」を手にすることを誓い、成し遂げたが、心までは育てることはできなかったと言うべきであろうか。彼女にとって歩むべき道が余りにも壮絶なものである。生まれながらの不肖の子として、思い十字架を背負う羽目になるというのにはつらいものである。醜い顔で生きることを押しつけられたが故に、どんなよい服を着ても、ヘアスタイルを変えても、結局は変わらないほどであるとならばなおさらであろう。周囲は結局ルックスで決めたがる。周囲からの嫌がらせのみならず、家族の誰もが助けてくれない、孤立無援の生き方を考えると、整形手術を志す為にSMクラブやヘルスといったアングラな仕事に手を出すのには、さすがに無理もないと言えよう。
醜いと、排他的に扱う人間たちの態度でトラウマとなった彼女にとっては、「美」というものに対し、人間の心理学や歴史と、あらゆる立場から考え、「美」を手にすることを自ら誓い、一生を尽くしていったのではないのであろうか。合コンの誘いがあっても「笑いもの」という烙印には余りにも屈辱である事を考えるとなおさらと言うべきである。やがては、未帆と改名し、整形した和子は美しくなり、足森や宇治原をどん底に落とし返したもの、かつての「恋人」を忘れきれない。ふるさとに戻ったのも、かつてへの復讐心が強かったと言うべきであろう。とはいえ、未帆は究極の「美」を手にしたもの、繊細な心と混じり合ってしまい、結局は「美」に振り回されていったのでなかろうか。大きく考えれば、「美」に振りまわされたと言うべきかもしれない。「美」のもつ一方で「とげ」となる心まで心が芽生えてしまえば、未帆は哀れである。「美」と「心」を両方を育てる必要が、今作において悟ったというべきである。
 百田尚樹氏は大阪の朝日放送において放送作家として活躍してきた。代表作である「探偵ナイトスクープ」は関西きっての長寿番組である。小生もかつてこの番組を拝見し、笑わせていただいた。今はどうなっているのかは不明であるが。同氏の手がけた番組には感動シーンや「笑いのツボ」となる部分を巧みに考え、タレントの個性に合わせたと言うべきであろうか、番組進行の展開がとてもよく、長寿番組として育ててきたのである。今作に置いては、笑いとは全く反対の作品を手がけており、笑われていやな思いをする人の立場に立っての展開であるからして、同氏の作品に意外なものも書くのかとは思った。「美しさ」という課題において、不肖の少女をいかに歩ませていくかを考え、「美しさ」というイメージを数多く思いつかせながら手がけたと言うべきか。実によく手がけた作品である。確かに登場人物の心境をきめ細かく手がけているにならば、放送作家時代で育んだ感性をうまく活かしているのかがわかる。作家デビュー時には売れなかったもの、ある程度継続させてからようやく芽が出たという事を考えると、強い心と継続力がいかに大事であるのかが理解できる。「大阪は東淀川のおっちゃん、がんばりや。」余りに砕けた言い方で大変失礼ではあるが、同じ大阪出身としてはこれからの活躍に期待すべきである。

人物 鈴原未帆(田淵和子) 英介 /MONSTER