数学は使えるか

主に理工学書の書評,数学の応用を目指してトライしたことなど.

ゲームの神は「無」

2018-02-22 13:27:20 | 書評
最近,囲碁将棋関連のAIについて色々と呼んでいました.
王銘琬「棋士とAI」は,自らも囲碁ソフトプロジェクトに関わっていたプロ棋士である著者がアルファ碁の強さ,囲碁界に与える影響,ひいては人としてどのように対峙していくことになるのか,を経験と深い考察を交えてまとめられたものです.特に,囲碁というゲームの全解析(初手から終局までの最善手が見つかること)がもしなされたならば,『「この手は正しい故に正しい」という以上に語ることがありません。本書で紹介した勝率、候補手、読み、そして勝ち負けまですべて無意味になるのです。』『強さの果てには「無」しかなければ,強さは目的ではなく、面白さを手に入れる仕掛けだったと考えることもできます。』と喝破するあたりは哲学的な印象すら持ちました.将棋の神様も囲碁の神様も「無」なんですね.(そうえいば,チェッカーは21世紀に入ったあたりで全解析されていますが,まだ人間が楽しむためのゲームとしては存続していると思います.完全解析されたゲームが廃れることなく存続しているというのは人間は神ではないから?)
 あと,山本一成「人工知能はどのようにして「名人」を超えたのか?」もさらっと読める好著.意外に感じたのは,巻末付録にある対談でAIの水平線効果について触れたところで「コンピュータは論理が非常に弱い。」と言っている箇所.確かに,ディープラーニング(特にCNN)は画像認識を通して特徴抽出を行うもので,抽出された特徴を強化学習によってうまく活用できるようにしているのが現在のゲームAIのパターンだとすると,人間でいうところの直感(とか大局観)は優れてきている.一方で,深読みの部分はランダム探索を行っているので無駄が多い.これを論理的に行えるようになればさらに強くなりそうな気もする.どこかの講演会でAIの研究者が(正確な言葉は忘れたけれども)「これからはパターン認識の機能と論理推論の機能を有機的に統合させていかなければならない.」と言っていたことを思い出した.
 AIが色々な成果を出してきて驚かされることが多いですが,論理推論とパターン認識の統合みたいな昔からの難問はやっぱり難問なんですね.

インターネットライセンス

2018-01-28 17:06:54 | ニュース
コインチェックという仮想通貨の取引所がアタックを受けて500億円以上の損失を出したとのこと.
この会社が該当するかどうかは別にして,とりあえずITに強そうな人を採用して運用しながら育てるというやり方は今の時代相当アブナイです.
少し前にMIRAIというどこかの国のオタクが作った,IOT機器をハッキングして標的のサーバにDOS攻撃を仕掛けるマルウェアが有名になりましたが,踏み台にしていたWebカメラなどはその殆どが初期設定のID・PWのままだったとのこと.要するにセキュリティに無知な人がグローバルIPを持っていては皆に迷惑をかける時代に入ったということかと思います.ノウハウをあまり持たずにサービスを運用すれば格好の餌食になってしまう時代です.コインチェックのセキュリティ担当者が無知だったというわけでは決してないとは思いますが,最小限のITスキルやセキュリティの知識さえ持っていれば,あとは運用しながら育てるという発想は論外になってしまった感があります.
そこで,タイトルへ.
これからはグローバルIPアドレスを使用する際にはライセンスの取得を義務づけるというのはどうでしょう.
ライセンスの種類は(とりあえず)一般,上級の2種類.
一般のライセンスを持っている人は,ほとんど今のままのインターネットアクセス状況で変わりません.アンチウィルスによる定期的な端末チェック,利用ソフトのアップデートなど運用は自分で行う.ただし,自分の管理している端末がクラッキング被害にあって個人情報が漏洩したり,DOS攻撃の踏み台になったりした際にはライセンスが一定期間(3か月?6か月?1年?)はく奪される.
ライセンスを持っていない人がインターネットにアクセスする際には,アクセスに用いる端末(スマホ,ルーターなど)はサービスを提供するISPが管理責任を負う.したがって月額の利用料も管理料が上乗せされることになります.管理料の上乗せが嫌なひとは一般ライセンスを取得する,という仕組み.
上級ライセンスは,ビジネスに用いるNWの運用や商用サーバの運用に必要なもの.自分が管理しているハード,ソフトの脆弱性情報をきちんとキャッチアップして,必要な対処ができることが最低条件.
それでもクラッキング被害は出てくるでしょうが,少なくともID・PWが初期設定のままの機器を踏み台にされるような事象は絶滅に向かうのではと思います.クラッキング被害にあったとき上級ライセンスの場合ははく奪というよりも,監督官庁にライセンス取得者の名前でインシデントの発生原因,再発防止策の報告書作成が義務付けられる,とか.

攻撃する側と守る側といえば守る側が圧倒的に不利ですが,それでも管理スキル不足によるクラッキング事象が激減するだけで,攻守が技術のみの勝負となれば,守る側からすればどこにリソースを投入すべきかが現在よりもはっきりしてくるのではないでしょうか.
国の規模で各人のセキュリティ意識をあげることなく,属人的な対処でお茶を濁しているならば,同様の事件は今後もなくならないのは火を見るよりも明らかですね.

エクサスケールの衝撃

2018-01-12 20:20:45 | 書評
ほとんど時事ネタになってしまいましたが。
内容は純粋に面白い。
スパコンによってあらゆるもののシミュレーションが可能となる世界でのイノベーションのあり方。
これがテーマ。
農業、医療、エネルギー、、、などあらゆる分野に波及する。
例えば原子力の代替エネルギーとして現在のものよりも格段に効率のよくなった太陽光パネルを、狭い日本のある土地を有効利用することで一大エネルギー供給源とする構想は、冷徹かつ合理的かつ大胆。こういう発想をする人は率直にスゴイ人だと思いました。
省エネスパコンのコンクールに短期間で上位に躍り出るなど、発想と行動力が並外れています。
4億円の詐欺で地検特捜部に逮捕された、というのは内情をよく知らない私達からみると本当に変です。
この人についていく部下は大変だと思うので、労働基準監督署が調査に入ったというのならば「さもありなん」という気がするが、詐欺って一体?なぜ特捜?
ちなみに、かつて話題のスパコン京の後継機の予算は1000億円。担当者の話では、世界一の演算性能を出すのが目的であり、汎用性は考えていないとのこと(ソースは昨日の日経産業新聞)。個人的には、こちらのほうが税金の使途としてははるかに問題ある気がするけれど。

Ready Player One

2017-11-19 13:25:56 | 書評
邦題は「ゲームウォーズ」。最近VRの発展に興味がでてきたので必読書(もう一つは「スノウ・クラッシュ」?)と言われる本書を読んでみました。確かに70年代や80年代のアーケードゲーム、アニメあたりに詳しければ楽しめます。私もオタクではないですが当時ゲームセンターくらい行ったことはあるし、TV特撮のいくらかは見ていたのでストーリーはそれなりに楽しめました。
あとは、必読書と言われるだけあってVRの発展形の具体的なイメージをつかむことができますね。本書のテーマとは関係ないですが、たとえば将来の建築物の設計。予算や物理的な条件および顧客の要望を踏まえてとりあえずVRの中にAIが建築物を作り出します。ただし、それだけで顧客が100%満足するとは限らないので、最後の「思想的な」アクセントのようなものを人間の建築家が追加するとか、デザインを修正するとかして設計図の最終形が出来上がるのだという感じがしてきました。作曲も同じですね。Emmyは有名な作曲AIですが、おそらく人の心に残るような曲に仕上げるにはEmmyだけではなく才能ある人の感覚を合わせることが必要な気がします。AIが人にとって替る職業というのは少なからずあるような気がしますが、人の才能を必要とする職業も残ったり、新たに出現したりするでしょうね。特に「思想」とか「表現」に関わるものとか。たとえばAIの設計した内容を思想的に再解釈して顧客に説明することで商品価値を向上させるインタープリタという職業なんかでてきそうです。ただ、素人といわゆる玄人の違いというのはますますグレーになっていくのでは。
書評に戻りますが、和訳はこなれていて分かりやすかったです。ただし邦題はイケテません。原題だとストーリーの本筋に直結する意味も含まれているのですが、邦題は確かにストーリーに関係しないことはない、といった程度。そもそも読者層はビデオゲームとかアーケードゲームとかそれなりに知っていると思うので原題通りでもほとんど日本語として違和感なかったのでは。

社会のOS

2017-10-30 15:36:41 | ニュース
アルファ碁ゼロのニュースが10日ほど前ありましたが,人間(プロ棋士)の知識がなくても強くなれるというのはすごいですね.
ちなみにゼロというのは,人間からの知識がゼロという意味だと理解.(ちゃんとネイチャー読みました.)
ところでアルファ碁は碁に特化したAIだけれども,多くの人が遠くない未来に期待しているのは汎用の人工知能の誕生ではないでしょうか.
汎用の人工知能ができたとしたら,何に使われることになるのでしょう.
私は,各国は汎用AIに社会基盤(パソコンでいえばOS)の役割をさせることを目指しているのではと考えます.
基盤となるAIの上に,ライフラインが構築され,その上で社会活動(基盤の汎用AIに接続したサービス用のAIが運用することになる)が営まれるというイメージ.
シンガポールは国をあげていろいろなところからデータを集めて,それをAIを使ってサービス(例えば交通の制御)に使ったりしてAI運用ノウハウを集積しているのは有名.エストニアの電子政府も目指しているのは今現在の市民サービス向上だけではないでしょう.
ノウハウがたまれば,いざ汎用AIを社会基盤に置いたときにどのようにAI自体をチューニングすればよいか(ノウハウを持たない国に比べて)短時間で解決できて,AIによる運行を早めに始めることができる.
また,そのノウハウをAI後進国(日本?)にコンサルして売れば国の資源(=ベーシックインカム)になる.
ベーシックインカムの原資がある程度見込められれば,AIによるオートメーション化への移行にともなう大量失業の衝撃も吸収できるので社会不安は最小限になる.
AIでの運用ノウハウをためつつ,ベーシックインカムを(AI運用ノウハウ輸出で)稼ぎつつ,国民の新しい働き方を探す(これもAI後進国にとって垂涎のノウハウ),というのがこれから10年の国家戦略...かな.