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作品紹介

童話ーウサギとカメのお話ー

2009-04-20 01:55:24 | Weblog
2008年の作品アップの前に、公募展に出品、没った童話を少しアップしたいと思います。

これも湧いてきた言葉の羅列でできた文章ではありますが、文字数の関係等で、かなり文章に手を加えてあります。(失敗した?)



━ウサギとカメのお話━

「うわ~ん。」
 泣き声がして、台所からお母さんが飛んできました。
「ボクのおもちゃなのにぃ!」おにいちゃんが怒っています。お母さんは、やれやれという顔をして、
「どうして兄弟仲良くできないの。」と、泣いている弟の頭を撫でながら、やさしく二人に言いました。
「だぁって!」
「うわ~ん。」
 ちょうどそこに、
「ただいまー。あー、暑い暑い。外は日差しが強くて…よっこらしょ。」おばあちゃんが帰ってきました。
「おばあちゃんだ!」
「おばあちゃーん。」子どもたちはおばあちゃんのところに駆け寄りました。
「ボクのおもちゃなのに勝手に使うのって良くないよねー?だからボク、取り返して怒ったんだ。ボク、悪くないよねー?」と、おにいちゃんが訴えるように言うと、
「ボク、貸してって言ったもん!ボク、悪くないよねー?」と、弟。
「ボク、いいって言ってないもん!」
 またまた喧嘩が始まりそうです。おばあちゃんはニコニコして汗を拭きながら、
「じゃあ、おばあちゃんがお話をしてあげようかね。」と、言いました。
「うん!」二人は声をそろえたように言い、そして、弟はおばあちゃんの膝の上に乗り、おにいちゃんはおばあちゃんの背中におぶさるようにして顔を覗かせました。いつものお決まりの場所です。
「おばあちゃんは帰ってきたばかりで暑いのよ。」仕方ないわねという風にそう言いながら、お母さんは台所へ戻りました。
         *        
「昔々、あるところにウサギとカメがいました。」
「えー、ボク知ってる。ウサギとカメの話しー。」
「ボクも知ってるー。」
「最後まで聞いて。」と、おばあちゃんは話しを続けました。
「カメはのろまで自信がなく、悩んでいました。ウサギはそれに気づいていて、カメのために何かしてあげたいと思っていました。
♪ もしもしカメよカメさんよー。世界で一番お前ほどー、歩みののろい者はないー。どうしてそんなにのろいのかー。
と、カメを挑発しました。カメは怒って、
『それなら、向こうの山のふもとまで、どちらが早いか競争しよう。』と、言いました。そして次の日、二匹は
『よーい、ドン。』と、走り始めました。ウサギはあっという間にゴールの近くまで走り、昼寝をして、カメを待ちました。目が覚めても、まだカメがゴールした様子はありません。仕方なく、ウサギはもう一度寝ることにしました。気がつくと、カメがゴールして喜んでいたので、ウサギは安心して、自分もゴールしました。
 その後、町では噂が広まり、皆は、カメにはゆっくりでいいからコツコツと続ける仕事を、ウサギには急いでやらなくちゃいけなくてすぐに終わる仕事を、頼むようになりました。二匹とも、とても満足でした。
 こうして、カメは自信を持つことができるようになりましたが、それはウサギが気遣ってわざとカメを挑発したおかげだと、感じていました。ウサギが本当にカメをのろまだと思って馬鹿にしたのなら、勝って当たり前負けたら悔しい思いをするようなカメとの競争をするはずがないと、思ったからです。カメは、ウサギに感謝して、
『ありがとう。』と言いましたとサ。めでたし、めでたし。」
「ウサギは悪者じゃなかったのー?」
「悪者じゃなかったのー?」
「世の中に、本当の悪者なんていないのよ。いいとか悪いとかではなくて、どれだけ相手のことを考えられるか、どれだけ自分らしく行動できるか、そしてどれだけ感謝できるかが大切なのよ。」おばあちゃんはニコニコ笑って言いました。
 おにいちゃんは、手にしっかりと持っていたおもちゃを差し出して、
「ボクのおもちゃ、貸してやるよ!ボクはおにいちゃんだからな!」と、ちょっとだけ偉そうに、言いました。
「ありがとう。」弟はちょっと照れながらそう言って、おにいちゃんに抱きつきました。
 おばあちゃんはニコニコ笑っていました。
         *          
 トンッ、トンッ、トンッ、トンッ
 台所のお母さんの包丁の音も弾んでいました。




闇から光へ④

2009-04-12 03:08:46 | Weblog
いまだ複数画像を入れることができません。
2007年に参加したグループ展(光の作家展Ⅱ)に出品した作品を5つアップしました。
「心の声」に入っていた文章を童話風にアレンジしてあります。
欲しい方はメール下さい。各1点づつです。
find-mind@mail.goo.ne.jp







童話ー竜巻を楽しんだ竜とネズミと隼ー

2009-04-12 03:04:30 | Weblog
空気の澄んだ空。
隼が翔けていました。
それをゆうゆうと竜は追いかけ、追い抜き、先を行きます。
隼は負けずに必死に翔けました。
ふと見ると、竜の尻尾にはネズミがいました。
疲れかけていた隼はネズミと同じように竜の尻尾につかまってみました。
竜は風を切り、回転しながら加速し、竜巻のように進んで行きます。そう、もちろんネズミも隼も一緒に。
竜巻になった竜とネズミと隼は色々なものを巻き込みながら膨らんでいきます。
そうして竜はぐるっと地球を一周し、元の場所へ戻ってきました。
息を切らした竜は、呼吸を整え、いつもの竜に戻ります。
竜の加速と共に、竜と一体となっていたネズミと隼も徐々に落ち着きを取り戻します。
「ああ、楽しかった。」とネズミ。隼もそれに同意するようにうなずき、言いました。
「ボクたちは一瞬竜になり、そして竜巻になった。
木々を巻き込んだかと思ったら、森になり、
海では、たくさんの魚を巻き込んで大きな鯨と化し、
そして海そのものになった。
もう少しで…、
地球にもなれたかもしれない。」



36×31cm
額付き
[済]



童話ー雪の中の狐ー

2009-04-12 03:00:32 | Weblog
雪の降る中、狐が一匹、途方にくれていました。
自分の足跡が見えなくなってしまったからです。
次から次から降る雪。
次から次へと足跡を埋めてしまい、
見えなくしてしまうのでした。
狐は真っ白な雪の中で考えました。
「いったい自分は何処からきたのか?」
「どっちへ行ったらいいのか?」
狐は叫びました。
『どっちへ行ったらいいのーっ!』
声は山々にぶつかり、あっちこっちから返ってきます。
『どっちへ行ったらいいのーっ!』
『どっちへ行ったらいいのーっ!』
『どっちへ行ったらいいのーっ!』
狐はそのこだまの声を聞いて、ふと何か気づきました。
「あっちこっちの山がどっちへ行ったらいいのか聞いている!」
「どっちへどう歩いてもかまわない!」
ふと、そんな気がしました。
「自分はどっちにも行ける!」
「自分はどっちへ行ったらいいのか分る!」
そんな気もしました。
狐は勇気を持って一歩を踏み出し、歩き出しました。

雪は降り続いています。
狐の姿はもう見えません。
狐は自信を持って何処かへ歩いていきました。
雪はその足跡さえも消していました。
一面真っ白で、山々も静まり返っています…



36×31cm
額付き
¥22,000



童話ークジラと魚ー

2009-04-12 02:57:55 | Weblog
光の海を魚が泳いでいます。
『こんにちは、イルカさん。』誰かが声をかけました。
「私はイルカではありません。」そう言おうとして、魚は口をつぐみました。
「誰だかよく知らない相手に、いちいち説明するのも面倒くさいし、どうでもいい。」
と思ったからです。

声の主は、大きなクジラでした。

実は魚は、大きなクジラの影の中でずっと泳いでいた事を知りませんでした。
魚が尋ねました。
『あなたは誰?』

クジラが答えます。
『君と同じ仲間さ。』

「明らかに違う。」と、魚は思いましたが、
「自分も大きくなると、クジラのようになるのかもしれない。」とも思いました。
「それもどうでもいい。」と思い、魚はクジラに従いました。

クジラはずっと魚をイルカだと思って暮らしました。
二匹ともそれはそれで幸せでした。



36×31cm
額付き
¥22,000



童話ーリスと主ー

2009-04-12 02:53:44 | Weblog
森の中に大きな洞穴がありました。
洞穴の中は空です。住人はお出かけのようです。
遊びに来たリスは、洞穴のなかを探索してみることにしました。
奥まで入ると洞穴に射していたはずの日の光が遮られ、一瞬真っ暗になりました。
主が帰って来たのです。
リスはそりゃもう大慌て。でも逃げる場所は有りません。
「どうしよう…」そう思いましたが、次の瞬間、
「なんで逃げなきゃいけないんだろう…?」とも思いました。
リスは振り返り、にっこり笑って言いました。
『お帰りなさい。』
主は、「いったいこいつは何者なんだ?」と思いながら、
小さなこいつがにっこり笑って言うものだからつられてにっこり笑って、
『ただいま。』と言いました。
リスはまたまたにっこり笑って、『どちらへ行ってらしたんですか?』と聞き、
『ちょっと食べ物を調達しに。』と、主は答えました。
何とも不思議な光景です。知らない同士がにっこり笑って話をしている…
リスは主の獲物にもなってしまいそうな相手なのに…
『そうですか。ではまた。』と言って、リスは主の脇をスルリと抜け、出て行きました。
『また来て下さい。』と、主はリスに声をかけました。
リスは何度も振り返りながら、嬉しそうに駆けていきました。



36×31cm
額付き
¥22,000



童話ー狼と影ー

2009-04-12 02:43:37 | Weblog
狼は負傷していました。
世にも恐ろしい怪物に遭遇したからです。
狼は一目散に逃げ、傷を負ってしまいました。
逃げた時、あわてて木の根っこにつまずいたのです。
狼は思いました。
「あの恐ろしい怪物は一体なんだったんだろう。」
傷がズキズキ痛みます。
痛みと共に、疑問が膨らんでいきます。
傷の痛みが引いてきた頃、狼はどうしてもあの怪物の正体が知りたくて、
こっそり見つからないように、引き返すことにしました。

あの場所です。
さんぜんと光り輝く太陽。
そうです!
あの時、狼は雲に隠れていた太陽を見つけられませんでした。
雲の隙間からちょっと覗いた太陽の光。
それはそれは眩しく、そして、狼が怖いと思ったその怪物は、実は、
太陽の光に照らされてできた自分の影だったのです。
光と比べて、あまりに暗くて大きな自分の影。
少し痛む傷をさすりながら、狼は思いました。
「恐ろしい怪物に違いないなんて…もっとよく見ていれば…」
狼は後悔しましたが、ちょっとだけ利口になりました。



36×31cm
額付き
[済]