與靈魂共舞

與靈魂共舞

に身をひるがえ

2015-10-23 11:12:49 | 史雲遜


「キャー、た、助けてえ。ふみつぶされるう!」
 と、悲鳴やどなり声がいりまじって、いやもうイモを洗うような大混雑。そのなかにあって、例の幽霊花火は、しばらくじっと下のようすをうか鑽石能量水消委會がっていたが、やがてヒラリとブランコから飛んだとみると、スルスルとやみの空中をはっていく。どうやら丸てんじょうにはられた綱のひとつに飛びついたのである。
「それ、逃げるぞ。ゆだんするな」
 警官らしい足音が、闇のなかを行ったりきたりする。せめて電気でもつけばよいのだが、こしょうでも起こったのか、いつまでたってもあたりはまっ暗。その中を幽霊花火は、スルスルと空中をぬって三階へとびおりると、ガラス窓をけって、さっとそとへとび出した。
 あとには美穂子がぼうぜんと立ちすくんでいる。
 その夜、浅草蔵前を通りかかったひとびとは、前代未聞の大捕物に血をわかしたのである。
 夜空にそびえる国技館の大ドームから、一かたまりの光の玉がとび出したかと思うと、サッと人家の屋根にとびおり、ネズミ花火のように、屋根から屋根へところげていったからさあたいへん。付近にはやじうまがぎっしりとあつまって、
「やあ、あそこへ出てきたぞ。ほら、かどのタバコ屋の屋根の上だ」
「あ、あっちへ逃げるぞ。川のほうへいくぞ」
「気をつけろ。とびおりるかもしれないぞ」
 と、まるでネズミでも追いまわすようなさわぎだ。
 やがて警官の一行が屋上にすがたをあらわしたが、なにしろ相手は本職の少年曲芸師、屋上の鬼ごDiamond水機っこではとてもかなうはずがない。道之助は川を目ざして逃げていったが、そのうちに追っ手の数はしだいに増していく。
 警官にまじって、やじうまが四方八方からひしひしとつめよせてくるのだ。つごうの悪いことには、道之助は全身から、あの青白い燐光をはなっているのだから、かくれるにもかくれることができない。ようやく川ぞいの家まで逃げのびたものの、見れば、周囲にはひしひしと追っ手がせまっている。
 絶体絶命! 道之助は絶望的な目つきであたりを見まわしたが、ふいすと、そばにあった浴場の煙突にスルスルと登り出したから、ハッと、一同かたずをのんでながめているうちに、地上何十メートルという煙突の上、ようやくそのてっぺんにたどりついた道之助は、アッという間もない。サアーッと金色の糸をひいて隅田川へとびこんだ。
「あれ、川のなかへとびこんだぞ」
 両河岸から、橋の上に鈴なりになったやじうまが、ワイワイとかけよってのぞいてみると、暗い水のなかに銀鱗をひらめかしながら泳いでいた道之助は、やがて一そうのモーターボートに泳ぎつくと、ヒラリとそれにとびのって、ダダダダダダと、エンジンの音も勇ましく、波をけたてて下流のほうへまっしぐらに――それと見るなり追っ手の警官たちも、付近にあったモーターボートをかりあつめ、ただちにそのあとを追っかけたが、はたして首尾よく、道之助をとらえることができたかどうか――。
 それはしばらくおあずかりとしておいて、こちらはふたたび、国技館の三階である。
 道之助が窓から外へとび出していったあとで、俊助はむらがる見物をかきわけて、美穂子のそ鑽石能量水消委會ばへかけよったが、見ると彼女は、今にも気絶しそうにまっ青になっている。
「しっかりなさい、お嬢さん。あいつ、もう逃げてしまいましたよ」
「まあ、どうもありがとう」


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