特集2 新傾向に強くなる
国家試験記述式対策
行政書士
民法
住宅新報社講師 植杉伸介
予想問題1
A・B・Cの3人が均一の持分で共有している建物を,Dに賃貸している場合において,Dに賃貸借契約解除の事由があるとき,Aは,B及びCの同意を得ることなく,A単独でDとの賃貸借契約を解除することはできないとされているが,その理由を40字程度で記述しなさい。
解 説
共有物の管理等は,行為の種類に応じて決定方法が異なっています(民法251条,252条)。
行為の種類 必要数
保存行為 各共有者が単独でできる
管理行為 持分の価格の過半数
変更・処分行為 共有者全員の同意
保存行為とは,共有物の現状を維持する行為をいい,共有物の修繕,共有物の登記,共有物の不法占拠者に対する明渡し請求などが該当します。このような保存行為は,必要な行為であり,共有者全員にとって利益になることなので,各共有者が単独で行ってもよいことにしたのです。
次に,管理行為とは,共有物を利用したり,改良したりする行為をいい,共有者間における共有物の共同利用方法の決定,共有建物の改装(改造に至らない程度の工事),共有物を目的とする賃貸借契約の解除などが該当します。これらの行為は,共有者全員に不利益を与える(たとえば,建物改装の場合であれば改装費用の負担,賃貸借契約の解除の場合であれば賃料収入がなくなる)ことがあるので,多数決で決定することにしたのです。
なお,この場合の多数決は,共有者の人数で決めるのではなく,持分の価格で決めることに注意してください。たとえば,A・B・Cの3人が共有している事例で,A3分の2,B6分の1,C6分の1の持分である場合,A1人で持分の過半数を有しているので,Aの判断だけで管理行為を決定できることになります。これに対し,BとCが賛成し,Aが反対している場合,人数のうえでは過半数の同意がありますが,持分の過半数には達していないので,管理行為を決定できないことになります。
変更・処分行為とは,共有物に変更を加えたり,共有物を処分する行為をいい,共有物の売却,共有建物の増改築,共有物に対する抵当権の設定などが該当します。これらの行為は,共有物を使用する共有者の権能を制限または喪失させる結果を招くものなので,共有者全員の同意を要求したのです。
本問で問われている「賃貸借契約の解除」という行為は,上で述べたとおり,管理行為に該当するので,持分の価格の過半数によって決定しなければなりません。したがって,3分の1の持分しか有しないAは,単独では賃貸借契約を解除することはできず,BまたはCの同意が必要ということになります。
解答例
賃貸借契約を解除することは管理行為に該当し,持分の価格の過半数の同意が必要だから。(41字)
なお,上の解答例のうち「持分の価格の過半数」という部分を,「持分の過半数」としてもおそらく減点はされないと思います。「持分の価格」というのは,持分の割合を金額で表現しただけであり,「持分の価格の過半数」と「持分の過半数」とは,実質的には同じことだからです。たとえば,3,000万円の建物をA・B・Cがそれぞれ1,000万円ずつ出し合って共同で購入した場合,その持分を分数で表現すればA3分の1,B3分の1,C3分の1ですが,価格で示せば合計3,000万円のうち,A1,000万円,B1,000万円,C1,000万円ということになります。これは,同じことを表現を変えて示しているだけですね。
予想問題2
A所有の甲地とB所有の乙地は隣接しているが,甲地に植えられているA所有の竹木の枝及び根が,境界線を越えて乙地に侵入してきたため,Bは,その枝及び根を切除したいと思っている。Bは,どのような行為をすることができるか。40字程度で記述しなさい。
解 説
条文(民法233条)の知識を問う問題であり,やさしめの問題といえます。
法律は,枝の越境の場合と根の越境の場合を分けて規定しています。
枝が越境している場合は,その竹木の所有者に,その枝を切除させることができます(233条1項)。すなわち,枝の場合は,越境された側が勝手にこれを切り取ることはできず,竹木の所有者に切除を請求できるにすぎないのです。切除の請求に対して,相手方が任意に応じない場合は,訴訟によって強制することになります。
なお,切除を請求された相手方としては,枝を切除せずに,竹木全体を境界から離して移植するなどの方法で対処してもよいと解されています。これで,越境という状態は解消されるからです。
これに対し,根が越境している場合は,越境された側で,その根を切り取ってしまうことができます(233条2項)。
このように枝と根で扱いが違っていることは大変印象的なので,一度勉強すればすぐに覚えることができるでしょう。しかし,枝と根で結論が違っていることは覚えられても,どっちがどっちの結論だったのか分からなくなる可能性が高いと思います。
でも,安心してください。次のように覚えれば,枝と根それぞれの場合における結論との結びつきを間違えることはなくなるはずです。
本来,他人の所有物を勝手に切り取ることはできないのが原則です。この点,枝のほうは,隣地の竹木の一部として空中から越境しているので,一見して他人の所有物であると分かります。それゆえ,原則どおり,勝手に切り取ることを認めるべきではありません。
これに対し,根のほうは,隣地の竹木とは地中で通じているだけなので,他人の所有物かどうか,見た目では分かりにくい状態です。また,自分の土地から出てくるので,自分の土地の一部というイメージが強くなります。越境された側の土地の一部であるならば,その土地の所有者が勝手に切り取ってもかまわないという発想に結びつくわけです。
解答例
Bは,枝についてはAに切除させることができ,根については自分で切り取ることができる。(42字)
国家試験記述式対策
行政書士
民法
住宅新報社講師 植杉伸介
予想問題1
A・B・Cの3人が均一の持分で共有している建物を,Dに賃貸している場合において,Dに賃貸借契約解除の事由があるとき,Aは,B及びCの同意を得ることなく,A単独でDとの賃貸借契約を解除することはできないとされているが,その理由を40字程度で記述しなさい。
解 説
共有物の管理等は,行為の種類に応じて決定方法が異なっています(民法251条,252条)。
行為の種類 必要数
保存行為 各共有者が単独でできる
管理行為 持分の価格の過半数
変更・処分行為 共有者全員の同意
保存行為とは,共有物の現状を維持する行為をいい,共有物の修繕,共有物の登記,共有物の不法占拠者に対する明渡し請求などが該当します。このような保存行為は,必要な行為であり,共有者全員にとって利益になることなので,各共有者が単独で行ってもよいことにしたのです。
次に,管理行為とは,共有物を利用したり,改良したりする行為をいい,共有者間における共有物の共同利用方法の決定,共有建物の改装(改造に至らない程度の工事),共有物を目的とする賃貸借契約の解除などが該当します。これらの行為は,共有者全員に不利益を与える(たとえば,建物改装の場合であれば改装費用の負担,賃貸借契約の解除の場合であれば賃料収入がなくなる)ことがあるので,多数決で決定することにしたのです。
なお,この場合の多数決は,共有者の人数で決めるのではなく,持分の価格で決めることに注意してください。たとえば,A・B・Cの3人が共有している事例で,A3分の2,B6分の1,C6分の1の持分である場合,A1人で持分の過半数を有しているので,Aの判断だけで管理行為を決定できることになります。これに対し,BとCが賛成し,Aが反対している場合,人数のうえでは過半数の同意がありますが,持分の過半数には達していないので,管理行為を決定できないことになります。
変更・処分行為とは,共有物に変更を加えたり,共有物を処分する行為をいい,共有物の売却,共有建物の増改築,共有物に対する抵当権の設定などが該当します。これらの行為は,共有物を使用する共有者の権能を制限または喪失させる結果を招くものなので,共有者全員の同意を要求したのです。
本問で問われている「賃貸借契約の解除」という行為は,上で述べたとおり,管理行為に該当するので,持分の価格の過半数によって決定しなければなりません。したがって,3分の1の持分しか有しないAは,単独では賃貸借契約を解除することはできず,BまたはCの同意が必要ということになります。
解答例
賃貸借契約を解除することは管理行為に該当し,持分の価格の過半数の同意が必要だから。(41字)
なお,上の解答例のうち「持分の価格の過半数」という部分を,「持分の過半数」としてもおそらく減点はされないと思います。「持分の価格」というのは,持分の割合を金額で表現しただけであり,「持分の価格の過半数」と「持分の過半数」とは,実質的には同じことだからです。たとえば,3,000万円の建物をA・B・Cがそれぞれ1,000万円ずつ出し合って共同で購入した場合,その持分を分数で表現すればA3分の1,B3分の1,C3分の1ですが,価格で示せば合計3,000万円のうち,A1,000万円,B1,000万円,C1,000万円ということになります。これは,同じことを表現を変えて示しているだけですね。
予想問題2
A所有の甲地とB所有の乙地は隣接しているが,甲地に植えられているA所有の竹木の枝及び根が,境界線を越えて乙地に侵入してきたため,Bは,その枝及び根を切除したいと思っている。Bは,どのような行為をすることができるか。40字程度で記述しなさい。
解 説
条文(民法233条)の知識を問う問題であり,やさしめの問題といえます。
法律は,枝の越境の場合と根の越境の場合を分けて規定しています。
枝が越境している場合は,その竹木の所有者に,その枝を切除させることができます(233条1項)。すなわち,枝の場合は,越境された側が勝手にこれを切り取ることはできず,竹木の所有者に切除を請求できるにすぎないのです。切除の請求に対して,相手方が任意に応じない場合は,訴訟によって強制することになります。
なお,切除を請求された相手方としては,枝を切除せずに,竹木全体を境界から離して移植するなどの方法で対処してもよいと解されています。これで,越境という状態は解消されるからです。
これに対し,根が越境している場合は,越境された側で,その根を切り取ってしまうことができます(233条2項)。
このように枝と根で扱いが違っていることは大変印象的なので,一度勉強すればすぐに覚えることができるでしょう。しかし,枝と根で結論が違っていることは覚えられても,どっちがどっちの結論だったのか分からなくなる可能性が高いと思います。
でも,安心してください。次のように覚えれば,枝と根それぞれの場合における結論との結びつきを間違えることはなくなるはずです。
本来,他人の所有物を勝手に切り取ることはできないのが原則です。この点,枝のほうは,隣地の竹木の一部として空中から越境しているので,一見して他人の所有物であると分かります。それゆえ,原則どおり,勝手に切り取ることを認めるべきではありません。
これに対し,根のほうは,隣地の竹木とは地中で通じているだけなので,他人の所有物かどうか,見た目では分かりにくい状態です。また,自分の土地から出てくるので,自分の土地の一部というイメージが強くなります。越境された側の土地の一部であるならば,その土地の所有者が勝手に切り取ってもかまわないという発想に結びつくわけです。
解答例
Bは,枝についてはAに切除させることができ,根については自分で切り取ることができる。(42字)