変革期・不動産ビジネスのトレンド第8回
住宅ローンアドバイザー 殿岡秀秋
住宅売主に保険加入義務付けで予算措置
国土交通省では,2006年の耐震偽装事件のように,住宅の売主が瑕疵担保責任を全うできずに倒産した場合でも,被害者が必ず救済されるような制度作りを目指しています。
国土交通省は,住宅販売業者による新築住宅の瑕疵(欠陥)について,補修工事の保険金支払いに充てる住宅保証基金を拡充して,2007年度予算案で90億円を計上しました。
さらに,悪質な欠陥住宅から住宅購入者を救済するため,新たに「住宅購入者等救済基金」(仮称)も創設することにしています。
政府は,住宅販売業者に対する保険加入や「供託」などの補償資力の確保の義務化も含めた法案を2007年1月からの通常国会に提出することにしています。
新築住宅の購入者を欠陥から保護するための制度は,2000年4月に施行された住宅品質確保促進法で定められています。住宅の売主は最低10年間の責任を負い,欠陥があれば住宅保証基金や損害保険会社から保険金が支払われることになっています。
住宅保証基金の拡充はマンションなどの耐震強度偽装事件を受けての措置で,住宅性能保証制度(住宅保証機構が認定)に基づく保険金支払いの増加に備えて,今年度予算案で住宅保証基金の積立額を87億円から3億円積み増すことにしたものです。
また,同基金の使途を拡充し,損害保険会社の保険金支払い能力を超えるような巨額の改修費用が発生した場合に,同基金から無利子で貸し付けることができるようにします。
保険を新築住宅の売主に義務付けるには,保険会社の保険が安定して供給される必要があり,再保険プールを各保険会社が活用する形になります。
再保険プールとは,危険の分散・平準化を効率的に図るための共同再保険のことです。多数の保険会社が各自の引き受けた保険契約の全部または一部をプールしておき,それを個々の加盟会社の引受能力・実績等を考慮して,事前に定められた配分割合により加盟会社へ再配分する仕組みのことです。
しかし,制度創設期に巨額の事件が起きると,再保険プールのキャパシティー(収容能力)を超え,被害者を完全に救済できない可能性があります。そのため,国によるバックアップとして,国費を再保険プールなどに無利子で貸し付けられるようにしました。
現在,住宅保証基金に87億円が積まれていますが,2007年度の予算として3億円増額し,総額90億円がその目的に利用できるようにします。
国土交通省では,こうした予算の裏付けを基に次期通常国会に法案を提出し,保険など瑕疵担保責任の履行確保措置を,新築住宅の売主や請負人に義務付ける方針です。
「住宅購入者等救済基金」を創設へ
国土交通省は,住宅業者の出資を基に「住宅購入者等救済基金」(仮称)を2009年度をめどに創設するための法案を通常国会に提出することにしています。
販売業者には10年間,構造部分などの欠陥を補償する義務がありますが,耐震偽装事件のように販売元が倒産したうえ,故意や重大な過失が原因であれば,業者に保険金は支払われず,結果的に購入者は泣き寝入りせざるを得ません。基金は,今後の類似事件でこうした被害者を救済するのが目的となります。
基金への拠出が義務付けられるのは,補償資力確保の手段として保険加入を選んだ販売業者で,中小業者が中心になるとみられます。住宅1戸当たりの保険料は数万円,基金拠出額は数百円が見込まれています。
中間省略登記が事実上可能に
2005年3月の不動産登記法改正以後,禁止する改正をしないまま中間省略登記ができなくなっていた問題で,首相の諮問機関である内閣府規制改革・民間開放推進会議は2006年暮れの最終答申で「第三者のためにする契約」という形で従来の中間省略登記と同様の登記ができることを周知すべきであると答申し,閣議で了承されました。
2007年1月には,法務省から周知する文書が出される見通しです。
中間省略登記とは不動産をAからB,BからCへと順次売買したときに,中間のBが移転登記をしないで,Cが登記すること。移転登記の登録免許税が高いため,慣行として行われてきました。
最高裁は三者の合意があれば申請できるとしていますが,不動産登記法改正以後,法務局は受理していませんでした。このためB(通常の場合,宅建業者)が登記をすれば,その費用をCへの転売価格に上乗せすることになります。
そこで,規制改革会議は不動産登記法改正前と実質的に同じ形態を実現し,現場の取引費用の低減ニーズに応えるとともに,不動産の流動化,土地の有効利用を促進する観点から,不動産登記制度を所管する法務省との間で「第三者のためにする売買契約の移転登記」という形で可能にすることで確認しました。
「第三者のためにする登記」は,中間省略登記の代わりに法務省から内閣府に出された代案です。不動産を売買する際に,「買主の指定する者に所有権を直接移転する」という特約をつけて行うものです。第一の売買の売主から第二の売買の買主に所有権を直接移転することで,中間省略登記をした場合と同様に登記が実現できるばかりでなく,中間者の不動産取得税が不要となるメリットが生じます。
従来の中間省略登記では中間者に登録免許税はかからなくても,不動産取得税はかかっていました。今後,合法的な節税に活用できる仕組みができることになります。
国交省,宅建業法の義務遵守を
国土交通省では,「第三者のためにする契約」により中間省略登記と同様の移転登記をすることを認めることにしています。しかし,この契約をしても宅建業法上は,2回の売買をする方法をとるべきだとしています。
第一の売買で特約している場合でも,第二の契約は通常の売買とするようにと考えています。当然のこととして第二の売買での重要事項説明も省略できません。
国土交通省は,宅建業者が「第三者のためにする契約」によって,宅建業法上負っている義務を免れようとすることがあれば,厳正に対処する方針です。
自民党税制調査会の税制改正大綱
税制調査会には,政府税制調査会と自民党税制調査会の2つがあります。
政府税調は首相の諮問機関で,学識経験者らで構成されています。3年の任期に合わせてまとめる中期答申などで,中長期的な税制改正の方向性を打ち出すほか,毎年末に翌年度改正の答申を出しています。
一方,自民党税調は税制に精通したベテラン議員を中心とした税制の最終決定機関で,年度改正に主軸を置き,党の各部会と調整して翌年度改正の税制改正大綱を策定します。公明党と与党協議を開き,与党税制改正大綱をまとめています。政府はこれに基づいて税制改正大綱を法案にし,毎年の通常国会に提出する仕組みになっています。
バリアフリー改修促進税制の創設ほか
住宅バリアフリー改修工事のための住宅借入金についてのローン控除が新設されます。バリアフリー改修工事を含む増改築工事を行った場合,その工事費用に充てるために借り入れた住宅ローンの年末残高に応じ,一定割合を5年間にわたり,所得税額から控除する制度を創設します。
改修工事のための住宅借入金1,000万円以上なら最大12万円が5年にわたり,5年間総額で最大60万円税額控除されます。
これに併せ,現行の住宅ローン減税の対象となる増改築等の範囲に,バリアフリー改修工事を追加し,住宅ローン減税による控除措置との選択適用とします。
具体的には,バリアフリー改修工事に係る費用については,ローン残高200万円を限度(バリアフリー改修工事以外の部分との合計では1,000万円以下)とし,控除期間5年間で税額控除率2.0%(バリアフリー改修工事以外の部分は1.0%)を適用します。
一方,地方税部分については,自己資金と借入れの区別なく,固定資産税の減額措置(2007年4月1日から2010年3月31日までにバリアフリー改修を行った住宅に対し,固定資産税額を3分の1減額,戸当たり100㎡までを限度)を創設することにしています。
住宅ローン減税の効果確保―新方式でも
税源移譲に伴う住宅ローン減税の効果確保について,2007年,2008年の入居者を対象に特例措置を講じ,現行制度との選択制とすることにしました。
2007年の入居者に対し,住宅ローン等の年末残高2,500万円以下,控除期間15年,控除率=1年目~10年目0.6%(年間限度額15万円),11年目~15年目0.4%(同10万円)で最高控除額200万円を適用します。
また,2008年入居者には,年末残高2,000万円以下,控除期間15年,控除率=1年目~10年目0.6%(年間限度額12万円),11年目~15年目0.4%(同8万円),最高控除額160万円とします。
現行制度と比較すると,2007年,2008年ともに最高控除額は同水準で,控除期間を現行の10年間とするか,新たな特例措置の15年間とするかは,入居者の選択に委ねることとしています。
電子登記は税額控除
電子証明書での所得税電子申告は初回5,000円税額控除,オンライン登記申請の登録免許税も最大5,000円控除です。
なお,電子申告での領収書証明書添付が不要となります。
事業用資産買換特例は2年延長に
事業用資産買換特例が2年延長になりました。この制度は,10年超所有の事業用土地建物の買換えに際し,個人の譲渡所得税額が本来の2割で済むというもので,2006年末で期限を迎えます。
特例の延長を不動産業界が強く要望して実現しました。ただし,次の延長期限の2008年末までに見直しについて検討することになっています。
特定の居住用財産の譲渡特例も3年延長
特定の居住用財産の買換え・交換の場合の長期譲渡所得の買換特例は,買換え資産の床面積要件の上限を撤廃したうえで,3年間延長されます。ただし,延長される特例とは別のもう1つの特例である相続により取得した居住用財産の買換特例は廃止です。2つある買換特例が,1つに統合されました。
期限延長される特定の居住用買換特例での買換取得資産には280㎡までとの制限がありましたが,廃止される買換特例にはこの面積制限がありませんので,制度統合にともない制限なしに統一したものと思われます。
居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除制度と特定の居住用財産の譲渡損失の繰越控除制度については,ともに3年間単純延長されます。
住宅用家屋の所有権保存登記等に係る特例措置は,2年間延長します。
特定住宅地造成事業等による土地等の譲渡所得に係る1,500万円特別控除制度の適用期限を2年間延長します。
匿名組合への源泉徴収義務
匿名組合では,組合員が10人以上だと利益分配の20%について源泉徴収をしないといけません。そこで,源泉徴収逃れのために9人以下にすることも多いのです。
この人数要件が撤廃され,すべての匿名組合が源泉徴収をしないといけなくなります。投資の仕組み作りに大きな影響が生じるものと思われます。
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