VIXX!暗闇を照らせ!

*性的表現を含む場合タイトル横にR18と表記します。
*実在の人物の名前を借りたフィクションです。

フェセンモリ 5

2016-01-10 11:12:23 | フェセンモリ(ホンビン×エン)

 

 

 

 

 

 

 【5】

 

 

 

 

 

 その日の朝、ホンビン王子は奴隷医師の家を久しぶりに訪れた。

 ブドウやらチーズやら、アーモンドを蜂蜜と砂糖で固めた菓子やらといった、美味しくて栄
養のある食べ物を城の厨房からくすねて麻袋に詰め込むと、彼は野ウサギのように森の奥
へと駆けた。

 

 ほとんど日課になっていたフェセンモリ参りをしなくなった理由は、あげればいくらでもあった。
 それはつまり、あの鬱陶しい母親の相手をしなければいけないとか、随分前から書くように
言われていたのに、ズルズルと先延ばしにしていた父親への武運長久を祈る手紙(それは
どうせ封も開けられずに、その場で破り棄てられるに決まっているものなのだが)を、どう書い
たものかと頭を捻っていたとかそういったことだが、…しかし本当の理由は別のところにあった。

 ―少し前までは、あいつの顔を見ればあいつの心がわかったのに

 ホンビン王子には、自分を見るフェセンモリの表情が日に日に畏まったものになっていく
ように感じられた。それはつまり、あの奴隷が自分に本当の心を見せなくなったということだ。

 ―あの奴隷が死にそうに苦しんでいたあの時、あいつと僕は確かに心が通じ合っていた。
僕しか頼るものがなくて、辛い時には僕の腹に顔を強くくっつけたあいつと僕は、あの時確
かに近しい存在だった。

 考えてみれば、あのあずまやで匂いを嗅がれた次の日あたりから、あいつは僕から一歩
下がって目を伏せるようになった気がする。なんだか僕をおずおずと見上げるようになり、
その目の中に少しの緊張が宿るようになった。
 …もしかしたらあの老医師が、何か余計な説教でもしたのかもしれない…そう思うと王
子は小さく舌打ちした。
 しっかりと口止めしておくべきだったのに、やっぱり僕は抜けている。
 
 そしてホンビンは、自分に親しみを示さない相手を必死で振り向かせるような、そんな
惨めったらしいことは絶対にしたくなかった。 

 自分を見ても無表情に俯くばかりのフェセンモリといてもつまらなくて、ホンビンは老
医師の家に行くのを止めた。



 また新しい遊びを探そうと思った。

 

・・・・・・・・・・



 丹精込めて育てた満開の白いバラを眺めながら、ホンビンはふとフェセンモリを思った。
 おぶった時、あいつはまるで女のように軽くて、妙に冷たい身体をしていた。…あれはど
う考えても、やはり栄養が足りていないのだ。

 呆けたような顔をして乳白色のバラの花びらを指先で撫でていた彼は、ふと顔を上げる
と急ぎ足で厨房へと向かった。


 ・・・・・・・・・・

 
 

 「あの子はもういませんよ」
という老医師の言葉に、ホンビンは身を固まらせた。


 「3日ほど前に迎えが来て…どこへ連れて行かれたかは知らないが、たぶん城でしょう」
 老医師の口調にはいつもの親しさがなかった。どこかつっけんどんで、怒っているように
思えた。ホンビンは顔を赤くして俯いた。

 老医師は実際ホンビンのことを怒っていた。…というよりも、ホンビンに幻滅した。
 ―この子の「慈愛」はこの子の母親の振りかざす鞭と何ら変わりがなかった。つまり、
全てはただの気まぐれで行われる。

 老医師は冷やかに言った。
 「あの子は毎日、一日中その窓から外を見てましたね。バカみたいに」

 「……」

 ホンビンは何も言わず、老医師の胸に麻袋を押し付けて一礼すると、赤い顔のまま小屋
を出た。

 首を上げて、森の果てに小さく見える自分の住む白い城の屋根の先を見た。

 

 

  ・・・・・・・・・・

 


 この国の王の住む城…つまりホンビン王子が住む城は、白地に青灰色の紋様が流れ
る大理石で作られた建造物だった。
 ここが自分達が切り出した石の最後に行き着く場所であることを、フェセンモリは知った。 

 迎えの後について強固で冷たい艶のある石の床を歩きながら、彼は地獄のようだった
石切り場を思い出していた。

 なんだか偉そうにしているこの石だって、元はあの荒れ果てた場所に理由もなく存在し
ているただの岩だった。理由もなく存在していたただの岩が、理由もなく存在している何
の価値も無い人間たちによって切り出され、それから形を整えられ丁寧に表面を磨かれ
て、そうして最後にはこのように取り澄ました石材となるのか。

 フェセンモリはそのことに不思議な感動を覚えながら、同時に何故だか虚しさを感じた。 

 

 

・・・・・・・・・・
 

 

 彼の身体を洗うよう命じられた二人の若い女奴隷は、風呂場に連れて来られたフェセン
モリを見てギョッとした。砂埃を被った油っ気の無い白いざんばら髪に、長さの揃わない変
な前髪をして、土色の顔の中に大きな目だけをギロギロと光らせている彼は、どこから見
ても汚らしい浮浪児だった。傷の手当てをされる際にざっと拭かれたきりの彼の身体には、
埃と油が混じった煤のような汚れがへばりついていて、それはあたかも元からある痣のよ
うに見えた。

 「こんな気味悪い子を、何であたしたちが洗わなきゃなんないの」と聞えよがしに言いな
がら、女がフェセンモリの首輪の後ろ側にある鍵穴に真鍮の鍵を挿し込んでガチャガチャと
回すと、彼の首に重石のようにぶら下がっていた鉛の首輪は、嘘のように簡単に外れた。
 突然解放された首を撫でながら、戸惑うように立ちすくんでいるフェセンモリを睨み
つけると、女は
 「ぼんやりしてないで、さっさとその襤褸(ぼろ)を脱いで湯舟に入るんだよ」
と大声を上げた。

 老医師から着せてもらった古い着物をのろのろと脱ぎ丁寧に畳んで足下に置くと、フェ
センモリは女たちに急かされながら、深めのタライのような湯舟に恐る恐る入った。(彼は
未だかつて、そのようなものに入った経験がなかった)

 人肌程度に温めてある湯に身体を浸けるや、女奴隷二人は洗濯用の石鹸を付けたブ
ラシで、あたかも古いタイルを磨くようにして彼の身体中をゴシゴシと擦り始めた。
 あまりの痛みにフェセンモリが悲鳴を上げると女の一人が「うるさい」と叫び、フェセ
ンモリは拳骨で頭を思い切り殴られた。

 彼の身体はあまりにも汚れていてまったく泡が立たず、二人の女奴隷は完全に閉口した。
湯舟の中で膝を抱えて俯いているフェセンモリに、こんな汚い人間は見たことがないと悪
態をつき続け、背中や頭を何度も叩いた。





 2度目の風呂で彼の肌はようやくふやけてきて、それなりに泡立つようになった。てっ
きり痣だと思っていた黒い汚れがいつの間にか溶け落ち、煤けていた肌が本来の美し
い色を取り戻す頃には、初め皮膚病の野良猫を見るような目つきでフェセンモリを見て
いた女奴隷たちも、分厚い垢の下にきめ細やかな肌と、およそ男性とは思えない細くて
端正な筋肉が隠されていたことを、完全に理解した。
 惜しむらくは、肩甲骨の間の窪みに走るように刻まれた一筋の深い傷痕だったが、たと
えそれを差し引いたとしても、この奴隷が「愛玩用」としては一級品に近い部類であること
に、まず間違いなかった。

 3回の洗髪によって塵埃の落とされた彼の髪は銀の糸のように輝き、その先から落ちた
滴は、長く真っ直ぐに伸びたうなじからしなやかに反った背中に沿うように流れ、また湯の
中へと戻っていった。
 濡れた前髪を横に流してやると、今まで気づかなかったアーモンド形のくっきりとした切
れ長の目が自分を見ていて、子供のもののように青みがかった白目と黒茶色の虹彩の
美しさ、何よりも自分を真っ直ぐに見据えるその視線に、女奴隷たちの胸はときめいた。

 今やフェセンモリの容姿の虜になった彼女たちは俄かに色めき立った。彼の美しさは、
言ってみれば森の奥深くに落ちる小ぶりな滝のような、勇猛ではないが凛とした清々しい
美しさで、それは日がな一日地下の洗濯場にいる彼女たちが恐れ多くも憧れているホンビ
ン王子の真珠のような美しさとは、また一味違う魅力があった。冷たく澄んだ水のような彼
の清潔感は、これまで(外見も内面も)不潔でくたびれた男としか交わったことのない女奴
隷たちに、きらびやかな宝石に感じるのと質は違えど同等の憧れを抱かせた。

 そういった彼の雰囲気は女奴隷たちの食指を動かした。彼女たちの心と身体の中には
少し前から、この初心(うぶ)な少年の「初めて」を奪ってやりたいという呆れた欲求が蠢き
始めていた。
 
 ―それはきっと、誰の足跡もついていない新雪に足を踏み込むようなものだ。下ろ
したての羽根布団のようにふわふわした真白い雪を踏みつぶすのは、どんなに気持ち
いいだろう。ぐちゃぐちゃにしてぬかるみにしてやったら、どんなに楽しいだろう。

 ―そういった愉しみのひとつでもなければ、惨めな奴隷の人生などやってられない。
どんなに高級品か知らないが、所詮“これ”は自分達と同等かそれ以下の下賤な身分
の者で、言わば家畜だ。つまり何をしたって構わない。

 彼女たちが交わってきた男同様、不潔でくたびれている女奴隷たちの頭の中では今
このような身勝手極まりない妄想やら理屈やらが入り乱れていた。
 彼の清潔感に憧れを抱きながら、彼を自分達と同じ不浄な人間にしてやりたいという
歪んだ欲望に支配された彼女たちは石鹸水でフェセンモリを念入りに洗いながら、彼
をどうやって汚してやろうかとそのことばかり考えて、密かに身体を熱くした。
 (彼女たちの勝手な想像とは裏腹に、彼は初心でもなければ清廉な人間というわけで
もなかった。童顔だというだけで実際のところ既に20歳を過ぎていたし、生まれた時か
ら父親がおらず、たった一人の肉親だった母親が10年ほど前に死んでから独りで生計
を立てていた彼は、奴隷に成り下がる以前から相当に世間擦れした人間だった。
 …結局彼女たちが欲情している相手は、自分の頭の中で作りだした幻影だった。) 
 

 そのうち心身のいやらしげな衝動をどうにも抑えられなくなると女たちはブラシを放
り棄て、フェセンモリの顔やら髪やら身体を自らの手で艶めかしく撫で回し始めた。
 驚いた彼が逃れようと身を捩ると、湯舟の中の足がつるりと滑って石鹸が溶け込ん
で白く濁った湯の中に頭の先までざぶんと沈んだ。

 女たちはヒステリックにゲラゲラと笑いながらフェセンモリを引っ張り上げると、その
まま1人が泡だらけの手のひらで彼の両頬を挟んで、いきなり深く口づけをしてきた。
もう1人も負けじとばかり、自分が濡れるのも構わずに彼を背後から柔らかく抱きしめ
て、湯舟の中に片手を勢いよく突っ込むと、彼の股の間のものを手慣れた様子でまさ
ぐり始めた。

 さっきまで女達の刺々しさと暴力に怯えていたフェセンモリは、今は突然色情狂のよ
うになった彼女たちに底知れぬ恐怖を感じていた。彼はこの場からどうにか逃げようと
してバシャバシャと湯波を立てながらもがいたが、二人の女の淫らな肉体にねっとりと
纏わりつかれ、手を動かすことさえままならなかった。

 その時、次の「工程」の為に洗濯場に入ってきたどうやら分別を持ち合わせている、少
し位(くらい)の上らしいの奴隷一人が、今や着物まで脱ぎ棄てそうなほど乱れながら、
見たところまだ年端もいかぬ少年を2人がかりで襲っている女たちの狂態を見て、取り
乱した声を上げた。

 彼女は、
 「お前たち! お前たち! 全体どういうつもりか。“これ”がどなたのものであるかは、聞
いているはずであろうに」

と震える声で叱責すると、依然としてフェセンモリの身体にタコのようにぬめぬめと絡みつ
いている二人の女を、やっとのことで彼から引き剥がした。

 呆れるほど若い男の好きな彼女たちは舌打ちして口を拭いながら、目を白黒させてい
るフェセンモリを名残惜しそうな顔で眺めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



2 コメント

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すれ違う想いがつらい~ (cherry)
2016-01-12 22:21:53
こんばんは。

折角、美味しいものを持って行ったのに・・食べさせてあげたかったな~。
フェセンモリの彼にしてみれば、周りの人は「欲望に忠実な」人ばかりでしょうか・・
サディスティックな欲望とか肉体的な欲望とか。
ホンビン王子も「優しくしたい」という欲望かも。
いろいろ考えてしまいます。

石切り場の回想シーン!大好きです!
「なんだか偉そうにしているこの石」うう・・目に見えるようです。
話が逸れますが、私のいる街は広大な工業地帯で、連日トレーラーが原材料を運び込み、職人の手により、様々に姿を変えてリッツホテルやペニンシュラ、もしくは迎賓館へと送り出されます。私も含めこの街にいる人はそんな所へは行くことはないでしょう。(行く人もいるだろうけど)
ただの鉄の塊だったりパルプだったりしたものが・・
なので石切り場のシーンよくわかります。

長くなってしまいました。
どうかフェセンモリの彼が酷い目にあいませんように。祈ってます!

お体に気をつけて。続き待ってますねー。
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Re:すれ違う想いがつらい~ (enenen0630)
2016-01-14 00:56:17
cherryさん、コメントありがとうございます~
自分の中で、今回のテーマは「エンくんの美しさをできるだけ細かく表現する」ということとしてみたのですが、難しくてやっぱり上手く書けませんでした。

石切り場の岩が大理石になっていくように、フェセンモリも磨かれて美しくなっていく、という感じにしたくて、あの場面を考えてみました!(ハズカシ…)

この話、進めば進むほどファンフィクションというカテゴリから外れていっているように思うのですが、
本当にいいのでしょうか…なんだか不安でたまりません>
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