新・桜部屋

主に伝統芸能観劇記。
その他鑑賞日記

顔見せ大歌舞伎(2007年11月観劇)

2008-03-09 22:09:40 | 歌舞伎鑑賞雑記
11月の顔見せは、歌舞伎の美味しいところのダイジェスト版のようでお得感もあり、
初心者もお好きな方も楽しめる内容となっていました。
まずは「宮島のだんまり」ありとあらゆる歌舞伎の扮装をした役者がただ、だんまりで
スローモーションで動くのみ。あちらに白拍子、こちらにお姫様。衣装の引き抜きもあり福助による女六法にも見応えがありました。こんなにアクティブな福助を見たのは初めてです。
「山科閑居の段」芝が加古川本蔵の妻戸無瀬、娘を菊之助。お石の方に魁春、力弥を染五郎。
ここ数年見たなかで白眉の山科だったように思います。、
冒頭から綿帽子をかむった菊之助のういういしさ、白装束の袖から覗く桜色の指先。
輿入れ前の縁切りを言い渡されて、すがりつく花嫁の綿帽子が落ちた瞬間に舞台上が明るくなる様!
魁春の武家の妻らしい動きと抑制の効いた表情、台詞回しも素晴らしく。芝カンの戸無瀬は嫁入り前の母の心情を華やかに。幸四郎の加古川本蔵、吉右衛門が大星由良之助という不思議な兄弟対決。板の上で二人がごく近く演じているのを見るのは珍しいことのように思いました。決まった型の多い演目でありながら、新鮮に感じることの出来た幸せなひとときでした。

「土蜘蛛」なんと言っても素晴らしい役者が揃い踏みで、脇を仁左右衛門が演じる贅沢さ。菊五郎が土蜘蛛、を富十郎,太刀持ちにずいぶん大きくなった大ちゃん。
土蜘蛛の化粧もさることながら、菊五郎の眼は妖怪のそれでありました。
4色の四天王が次々に戦いを挑むくだりは、某大作RPGのボスキャラ対決を彷彿とさせてくれました。
蜘蛛の糸を吐く土蜘蛛とそれを受け止める武将たち、糸の動きが美しくて思わず見惚れてしまいました。

千秋楽の最後を締めくくるのは「三人吉三」お嬢を孝太郎、お坊を染五郎、和尚を松緑。
孝太郎の節回しは聞かせるものがありました、が、盗賊に豹変してからの色気が続かない。
退廃というより健康的なお嬢でした。染五郎の腰回りがすっきりとした立ち姿は徒な魅力を持つお坊そのもの。一番年若である松緑の和尚がとりまとめ役であるのがご愛敬、大らかな風貌のなせる技でしょうか。
楽日独特の、切ないような思い切りのいい芝居を堪能した秋の一日でありました。