ドバイ駐在員ノート

一人の中年会社員が、アラブ首長国連邦ドバイで駐在事務所を立ち上げて行く過程で体験し、考えたことの記録。(写真はイメージ)

映画と偏見 アラブ人からみた良い映画・悪い映画

2007年01月31日 19時47分42秒 | 観る/聴く
最近、会社で同僚の電話をとったりすると、「お、その声は○○。まだ、日本にいたんか。おまえのブログ、「お気に入り」に登録しといたよ」などと意外な方から言われるようになった。いつの間にか口コミで、グループ会社の中でもかなり広い範囲で知られるようになっているようだ。いかん、これでは会社の悪口は書きづらい。といいつつ、これからも書きたいことは書かせてもらうつもりだ。

さて、昨日の続きだ。イスラム教についての偏見を助長する映画という観点から、機内で失敬してきたエミレーツ航空のエンタメ・プログラム・ガイド(2007年1月版)をもう一度チェックしてみる。

まず、ディズニー・クラシックというジャンルからみてみよう。全部で25タイトルあって、「不思議の国のアリス」「バンビ」「シンデレラ」「ダンボ」という古典から「トイストーリー」「ファインディング・ニモ」「モンスターズ・インク」「ナルニア国物語」と言った最近のものまで、ずらっとタイトルが並ぶ。だが、イスラム人権協会が差別的としている「アラジン」はない。面白いことに、ネイティブ・アメリカンを描いた「ポカホンタス」がある。ネイティブ・アメリカンからみればあまり愉快な作品とは思わないが、ムスリム以外のマイノリティに対する偏見については、エミレーツ航空の担当者はあまり敏感でないのかもしれない。

次に名作集(All Times Greats)をみてみよう。これも25タイトル。「2001年宇宙の旅」や「カサブランカ」、「7年目の浮気」や「ダーティ・ハリー」はあるが、当然「レイダース 失われたアーク」もなければ、「マーシャル・ロー」もない。ざっとみたところ、前者の主演男優ハリソン・フォードが出演している映画はないようだ。もしかしたら、彼はブラックリストにのってしまっているのではあるまいか。もっとも、マーシャル・ローで主演したデンゼル・ワシントンJrは最新作の「インサイド・マン」が入っているし、米陸軍の将軍を演じたブルース・ウィルスが主演している「ダイ・ハード」が名作に入っているので、単なる偶然かもしれない。ちなみに、デンゼル・ワシントンJrは米国のイスラム教指導者マルコムXを演じた俳優だ。

「アラビアのロレンス」がないのは、長すぎるせいとも考えられるが、「シリアナ」もない。ただ、シリアナに出演していたジョージ・クルーニーとマット・ディモンが出演している「オーシャンズ11」は大きく写真入りで紹介されている(上の写真)。もしかすると、「シリアナ」がドバイで長期ロケを行ったこともあって、彼らに対してエミレーツ航空が好感をもっているのかもしれない。ちなみに、二人とも映画の中ではアラブ人を助けようとする役だ。ユダヤ人のスティーブン・スピルバーグの作品は、「E.T」とかが入っていてもよさそうに思うが、1作品もないようだ。

最後に、最新作。これは50タイトル(!)ある(下の写真)。カタールのビジネスマンが大嫌いと言っていたトム・クルーズの「ミッション・インポシブルIII」がある。興味を引いたのは「不都合な真実」(原題An Inconvenient Truth)、アル・ゴア元米副大統領の環境問題についての取り組みを描いたドキュメンタリーだ(私はまだ観ていないが)。アル・ゴアは周知のとおり、ブッシュと大統領選を争って負けた民主党の政治家だが、あからさまではないがアラブ人の反ブッシュ感情の現れのような気がする。別のページのスカーレット・ヨハンソンの特集記事の中で、ウディ・アレンの「The Scoop」と言う作品(日本未公開)が写真入りで紹介されている。ユダヤ人の監督の作品が必ずしも全てNGということではなさそうだ。

この他、これは私も2回のドバイ出張にかけて機内で観た映画「ダ・ビンチ・コード」がある。実は、私はこの映画の封切時に出張でニューヨークにいた。たまたま通りがかった映画館の前で、ひとだかりがしているので何かと思って見たら、キリスト教団体と思しき人々が、プラカードを掲げて上映に抗議していたのだった。正直に言って、キリスト教徒からみたら、この映画の内容(あえて書かない)は、例えフィクションだとしてもショッキングだと思う。イタリアやフランスの航空会社の機内では上映は難しいのではないかと思うが、どうだろうか。イエス・キリストについては、これまでも「最後の誘惑」など物議をかもした映画が公開されている。私が知らないだけかもしれないが、ムハンマドの生涯を描いた映画はあるのだろうか。もしムハンマドの預言者としての資格を否定するような映画を作ろうものなら、映画会社には爆弾が投げ込まれ、原作者や俳優は皆殺しにされてしまうのではないか。このあたりは、キリスト教とイスラム教で違いがあるように感じる。

たかが機内映画のプログラム・ガイド一つだが、こうやってみていくと、アラブ人からみた、良い映画・悪い映画の基準がなんとなく浮かび上がってくる。アラブ人のものの見方、感じ方がわかるようで、興味深い。





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