
デヴィッド・リンチ監督の新作『インランド・エンパイア』を観た。
初日に行ったが、長蛇の列というのを久々に見た。映画館からあふれていた。
私はリンチ監督のファンではなかったし、きちんと作品を見たのはこれが初めてだと思う。(『マルホランド・ドライブ』も一応見たけどDVDだったから)
内容は素直に、「よくわからなかった」。
映画を見て、よく理解できなかった時につい見栄を張ってわかったふりをしたくなるが、これほど胸を張って「全然わかりませんでした!」と笑顔で言いたくなる作品は他に絶対ないだろう。

ストーリーは一応「ある作品で再起をかけようとする女優がだんだん現実と虚構の区別がつかなくなってゆく」というものだが、ストーリーはあってないようなもの。そこには「難解な」ストーリーすらもない。ストーリーらしきものはあるけど、そこに意味を見出すこと、何かを読み解こうとすることは意味がないように思う。
つじつま合わせなんて現実世界だけで十分なんだから。
でも、余韻は最高。
余韻に満足感のある作品は映画として成功だと思う。
映像と音楽も最高。

TV画面を見ながら只管涙を流しているロスト・ガール。
ブラウン管の色彩が反射したその泣き顔はずっとずっと見ていたいほど。
娼婦たちのシーンも面白い。
顔。顔。顔。ビッチな顔の群れに差し込まれるローラ・ダーン演じる女優の疲労した顔。それぞれが美しい。
見終わった後はちょっとグッタリしたけど、なんだかもう1回見たくなってきている。リンチ監督の中毒性に囚われてしまったみたいだ。