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ある組織-4-現実のモノの集まりはZF公理系のモデルではない

2010-10-04 06:31:19 | 数学基礎論/論理学
前回から続く

 すでにばればれですが、これまで述べてきたある組織の話というのは実は、ZF集合論と呼ばれる公理的集合論の話です。規則と述べたのはZF集合論の公理に他なりません。ただその順序はRef-1に従っていて、他の文献では異なることもあります。素朴に考えるとモノすなわち何らかの対象(数学上の話ですから数学的対象と考えてよいですが)が集まればそれが自動的に集合となると考えたくなりますが、そこをぐっとこらえて明示的に集合とはこんなものだと定義するのが公理的な考え方です。つまり、集合という無定義語とその間に成り立つ∈(属する)という関係について公理系を組立て、それを基に理論を展開するのです。ここではモノの集まりとその要素という元の意味は剥奪されています。ですから、集合を員、∈を直属の上司部下関係と言い換えても数学的構造は全く同じになります。そして、モノの集まりとその要素というイメージに振り回されない分、公理系の構造が見えやすくなるのではないかと思うのです。その構造とはありていに言えば半順序構造ということなのですが。

 ところで我々が普通に考える「集合」と言えばモノのあつまりです。このモノは集合の要素と呼ばれます。このとき要素はなんであっても構いませんが、通常はその要素達の集合とは別のものと考えます。そしてこれらのあつまりの間の包含関係などの規則を集合論の定理として問題解決に使うのです。集合を集めた集合も考えますが、そこに元の集合の要素を入れることは普通はしません。生物分類を例にとれば、犬個体の集合として種としての犬という概念を考え、種としての犬・猫・猿などの集合として上位分類である哺乳綱というものを考え、哺乳綱・爬虫綱などの集合として脊椎動物というものを考えますが、種としての犬と爬虫綱との集合などというものは考えたりしません。

 つまりこれまでの話でいうランクの異なる要素同士の集合は現実世界での問題ではあまり考えないのですが、公理的集合論ではあっさりと様々なランクの要素が入り混じった集合を作ってしまいます。

 そして現実世界の話としては、要素となるモノは既に実在している何かであり、改めて定義しなくてならないものではありませんが、公理的集合論では要素となるモノも集合だけしかありません。物理的世界ではなく数学上の話であっても、「自然数の集合」と言った場合、普通は自然数全てを同一のランクの対象物と考え、それらの集まりとしてイメージするのではないでしょうか。しかし公理的集合論では、自然数自体がランクの異なる集合であり、空集合であるゼロから順に定義されてゆくものと考えます。これはむしろどこまでもランクの上昇して行く順序数というものを強く意識した公理系です。現実世界で普通に考える集合の世界は、断じてZF公理系のモデルではありません。

 [追記(2015/11/21)] とはいえ、ある組織-6a-現実のモノの集まりもお読みください。

-----参考文献----------
1) 日本数学会『岩波数学辞典-第3版』岩波書店(1985/12)、ISBN 4-0008-0016-7
2) 竹内外史『集合とはなにか―はじめて学ぶ人のために(ブルーバックス)』講談社;新装版(2001/05)


続く

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