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場・波・粒子-3.2- 3種の波

2019-12-09 06:20:13 | 科学論
 前回の記事(2019/12/05)の続きで、今度は波の話です。

 現在我々が知っている波というのは、何が観測されているかという観点から3種類に分けられます。
 .通常の連続体物質の振動。弾性波
   水面波、音波(固体・液体・気体)、地震波(低周波の音波でもある)
 .観測可能な力の場の振動
   電磁波、重力波
 .物質波。粒子(量子)の存在確率(観測値は検出頻度)としてのみ観測できる。

 通常物質の振動は振動するものが実際に見えることが特徴です。微小なものだと技術的困難さもありますが基本的には観測可能です[*1]。なぜなら光を当てると位置が不明になるというような原理的困難がないからです。

 の場合、電磁波なら電流の観測により、重力波なら物質の伸縮の観測により力場の変化を観測して、波の直接検出ができます。現在のところに分類できる波はこの2つだけです。自然界には4つの基本的な力、電磁力、重力、強い相互作用、弱い相互作用があるとされていますが、強い相互作用と弱い相互作用とでは力場の波は観測されてはいません。

 またよく考えてみれば電磁波でも短波長の光波となると、可視光線でさえも毎秒数兆回の電磁場の振動が例えば荷電粒子などの振動により直接観測されているということはありません。電磁波の場合は長波長ではの性格が強くなり、短波長ではの性格が強くなると言えるでしょう。重力波ではの場合となるような短波長の波はまだ見つかっていません。質量がゼロに近いニュートリノではになるような長波長の波が自然界にあってもおかしくないとも思えますが、なにしろ他の物質との相互作用が極めて弱いニュートリノですから、その物質場が何かを動かすなどという可能性も少なそうです。電磁場は光子の交換力によるとされますが、ニュートリノ交換による力場というものの理論的予測もされてはいないようですし。

 では振動するものは波動関数という原理的にも直接観測にはかからないものです。その絶対値としての存在確率のみが観測できるもので、しかも確率ですから観測値としては多数の検出実験による頻度ということになります。

 ではこれら3種類の波はそれぞれどんな属性を持つのでしょうか?

 .通常の連続体物質の振動
   ・直接観測できる振動体、つまり通常の連続体物質でできた波の媒質
   ・干渉性と回折性
 .観測可能な力の場の振動
   ・間接観測できる振動体、つまり力場でできた波の媒質
   ・干渉性と回折性
 .物質波
   ・干渉性と回折性

 こうしてみると、3種類の波が共通に持つ属性、すなわち波というもの本質というべき属性とは干渉性だということになります。光の波動説が確立したのはこの干渉性を光が持つことがわかったからですが、そこで科学者達はの場合の類推で光もなにかしらの連続体物質の媒質があると考えたのです。そしてマクスウェル理論により光はの場合の力場を媒質とする波であることが明らかになったのですが、ここでマクスウェル自身も含む科学者たちはその力場(電場と磁場)が通常物質と類似属性を持つなにかしらの連続体物質として説明されなくてはならないと思い込んでしまったのです。これは既に重力場の多数の機械論的説明がうまくいかずにニュートンが「我は仮説を作らず」として棚上げした機械論的自然観の呪縛がまだ残っていたことが主な原因と言えます。

 干渉性を観測するとき、電子や中性子や短波長の光子では観測されるのは干渉縞です。これは光子などが乾板や検出器などに衝突した痕跡の濃度分布(衝突の頻度分布)を観測したもので、干渉縞の間隔から波長が導かれます。しかしこれらの物質波では何らかの振動は直接観測できませんから振動数の直接観測はできません。ただ、位相速度=波長×振動数、という関係から導いているだけです。

 ここで特に位相速度と強調したのは、粒子としての速度は物質波の群速度に相当するのであり、位相速度とは異なるからです。両者の違いについてweb上での解説をいくつか挙げました[*2-6)]。多くの記事では古典的運動エネルギーの式(E=(1/2)mv^2)からの誘導が多く、相対論的エネルギーで考えるとどうなるのかが不明で不満が残るのですが、[*2]の記事はド・ブロイ自身がそう考えたとされる、物質波の定常波(静止粒子に相当)のローレンツ変換から導いていて、明確かつ簡明です。なにせ古典的な式ではそもそも質量エネルギー(速度0のときのエネルギー)の分がスッポリと抜け落ちていますから、相対論的式を使った誘導とはE=hνにより導かれる振動数νの値が根本的に異なるはずなのです。にもかかわらず両方の誘導法で差しつかえなく説明できているということは、振動数や位相速度が観測不可能な量なので複数種類でてきても構わないからではないかと私には思えます。

 で、物質波の位相速度は(V=c^2/v)となり、cは光速度でvは粒子速度(座標系の相対速度)ですから明らかにVは超光速ということになります!? 実に目からうろこの事実でした。この点だけでも物質波の位相速度は見かけなんだと疑うのに十分ですね。

 実は固体物理学では、ある種の結晶中では光の位相速度が超光速になるということは既によく知られたことのようです。この点についての普通の教科書にはあまり書いてはなそさうな視点からの考え方が[*3]の記事に紹介されています。「無限の長さの一様な進行波は何も情報を伝えない」というのは確かに言われてみればその通り。波も粒子も理想的モデルと実際の現象との違いが響いてくることはあるのですね。

 では物質波の干渉はどのように観測されるのかということを次回に述べます。

2019/12/13追加
 武内修(筑波大学・数理物質系・物理工学域)「量子力学Ⅰ/波動関数の解釈」([*6]と同じ資料の別の章)に現代科学の考え方のひとつが書かれていましたので紹介します。これがまさにニュートンの「我は仮説を作らず」の流れを引く、「"説明"は科学の役割ではない」という考え方です。量子力学では日常感覚のイメージに基づく"説明"が非常に難しいか、もしかすると不可能なので、特にこの傾向が強くなると言えそうです。
-----引用開始----下線は私の強調---------------
近代科学ではむしろ「直感」をなるべく廃した、以下のような手法が科学的と考えられている。

観測された物理現象を説明できそうで、かつ論理的に矛盾のない基礎方程式をでっち上げる
その方程式から何が予測されるかを考えて、新たな測定結果と突き合わせる
矛盾無く測定結果を説明できている限り、それが正しい理論である
予想と異なる測定結果が得られた場合には理論に修正が必要となる
なぜそのような方程式が成り立つか、など、実験事実により検証できない内容については議論しない
-----引用終り--------------------------

 逆に言えば、実験事実により検証できるならば、それは単なる"説明"ではなく"理論"になります。そのよい例が次回に書く予定のEPRパラドックス(EPR paradox)の話です。はい、説明の都合上、次回はまだ物質波の干渉実験の話ではなく、量子もつれの実証実験、すなわちベルの不等式の破れの検証実験の話をします。

----------------------
*1) 例えばマイクロデバイスへの応用もなされている表面弾性波の観察が北大の研究富士通の研究で試みられている。
*2) 量子力学の歴史 3 — de Broglie の物質波
 大阪医科大学・医学部・総合教育講座・化学教室・林秀行による量子力学の歴史のひとつの章。相対性理論による速度とエネルギーの関係に基づいての、物質波の位相速度Vと群速度(粒子の速度)vとの関係の導出が簡明。多くの記事では古典的な(E=(1/2)mv^2)しか考慮していないので不満が残るが、この記事はそこが明確。物質波の位相速度(V=c^2/v)は超光速ということになる!
*3) EMANの物理「群速度と位相速度、光速を超えてもいいのはどっち?」
 一般的な波について位相速度が見かけの速度とみなせる場合が多いことと、その考え方を書いている。
*4) 3. 物体の速度と物質波の速度
 山﨑勝義『物理化学Monographシリーズ 上』の第3章。
*5) 井野明洋『固体物理学I 講義ノート』(2017/12/09) 9章.波束としての電子
*6) 筑波大学・武内修「量子力学Ⅰ/電子の波動方程式」


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