《雛菊*雑記》

こちらは、オリジナル小説サイト《Daisy Notes*》の、創作ノート的な裏ページです★

『あれから僕らは…』②【by『oldies』】

2007-11-27 | ++ShortShort++
続いてます
←back①




「――よぉ、天才ピアニスト!」


 そそくさと廊下に出、今まで居た控え室のドアを閉めて歩き出した途端。
 僕に向けて投げかけられた、からかうような、そんな声。
 聞こえてきた方向を振り返ると……コチラに向かってタラタラと歩いてくる、やたら背の高い男性の姿があった。
「まーたインタビュー受けてたんだってー? さっすが有名人!」
 その表情は、いかにも“からかってマス!”って言いたげにニヤニヤ~とした人の悪い笑みを浮かべていて。
 …でも、そんなイヤミ口調と悪人ヅラが本心からのものじゃないってこと、僕はもう、充分に知っている。
「そういう葉山は、ヒマそうだね? なんなら僕の代わりにインタビューでも受けてみる?」
 やっぱりニヤリとした笑みと共に、それを返してやった途端。
 僕の目の前まで来て立ち止まったソイツ――葉山は、苦虫を噛み潰したような表情になって、ムッツリ僕を見下ろした。
「オマエ、最近トコトン可愛くないよな」
「別に、葉山に可愛いって思われても仕方ないし」
「…ったく、減らず口ばかり上手くなりやがって」
「うつったんだろ、葉山の口の悪さが」
「ああそうかよ悪かったなァどーせ育ちが悪いもんでー」
「今さら言われなくても知ってるよ」
「……おい、テメエ、フォローくらいしやがれよコノヤロウ?」
「で、なんの用?」
「………おいコラ、せっかく人が時間だから呼びに来てやったっていうのに、言うに事欠いて『なんの用』だとぉ?」
 それを言われてからハッとして、思わず自分の腕時計に目を遣った。
 ――ヤバイ、既にリハーサルの5分前だ。
「うわー全然気が付いてなかった……! ごめん、悪かったよ」
 素直に謝ってみせると葉山は、そこで軽くフンと鼻を鳴らし、「わかりゃいーんだよ、わかりゃーな」と、僕を小突いた。
 小突かれる謂われまでは無いような気もしたが……とりあえず、ここは腹立ちを腹の中だけに収めておくことにする。
「もう、みんなスタンバってる?」
「ま、ボチボチな」
 言いながら、歩いていた廊下の角を曲がった途端。


 ――ふいに懐かしい光景が、視界に映えた。


「ミツル……?」


 思わず、僕は小さく声を上げていた。
 真っ直ぐ前に開けた視線の先には……会場で、既にスタンバっているハズの、仲間の姿。
 ミツルが壁に寄りかかるようにして立っている。まるで立ち尽くしているかのような風情で。――あるドアの横で。
 葉山と2人、彼に向かって近付いていくと。
 ミツルも、こちらに気付いて軽く片手を上げて合図する。


 ――そこに、微かに聞こえてくる……それは“音楽”。


 ふいにフラッシュバックする、――中学時代に歩いた廊下の風景。
 微かなのに…より大きく僕の耳を打ち、そして響いていた、あのメロディ。


 昔から変わらない……サトシの“唄”が、聴こえてくる―――。


 そこは、扉上部に緑色の光が点っている、『非常口』と書かれていたドアで。
 僅かに開かれていた隙間から、非常階段で空に向かって叫ぶように唄っているサトシの背中が見えた。
 あの時と違って、今日は伴奏も何もないアカペラで。
 でも……その声は普段よりもずっとずっと力強く、僕の胸にこだました。


『落ち込んだりとか…何か挫けそうなことがあるたびに、オレはこの歌を唄うんだ。誰に聴かせるためでもなく、ただ自分のためだけに。何度も何度も、気の済むまで繰り返し、叫んで叫んで、唄い続けて……そうやって再び立ち上がれるパワーを貰うんだ』


 いつだったか、彼の言った言葉を思い出す。
 ――そう、だから“今日”も。
 今日というこの日を迎えて……きっとサトシは、唄わずにはいられなかったんだ。自分を奮い立たせるために。
 この歌を。――『僕が僕であるために』。
 サトシだけじゃない。もちろん僕も。それに葉山もミツルも、皆が皆、何かせずにはいられないくらいに緊張して落ち着かなくなっている。
 そして興奮してる。たまらなくワクワクしてる。それこそ叫び出したいくらいに。


「――さあ、行こうか。俺たちの初舞台が待ってるぜ!」


 唄い終えて非常階段から戻ってきたサトシを囲んで、僕たちは共に歩き出す。
 すぐそこに準備万端で控えてる、ステージへと向かって。


 僕たちがメジャーデビューしてから初めて迎えたコンサートツアー。――その初日である今日。


 目指す栄光への第一歩を、あの時、僕たちは共に歩み出した。
 今日ここで、その栄光のカケラを掴み取る。
 そのために、僕らは今、ここに居るんだ。
 僕たちの“伝説”は、今日ここで、また新たなるスタートを切ることが出来る。


 僕たちの時間(とき)は……まだまだ、これからも終わらない―――。









◆『oldies ~僕たちの時間(とき)』
ヤツらの…つーか、トシヒコの、本編“その後”のエピソード。
本編以降どうなったのかを、トシヒコの回想、って形で。
時期はだいたい、4人ともハタチくらいの頃です。
しかしコレ…“ShortShort”とは名ばかりの長さになってますよね…(汗)
ここブログでの1記事の文字制限を超えてしまいました。
なので、泣く泣く2ページに分割。
そのうちちゃんとページ作ってサイトの方にupし直すかもですー。