見つめ合うだけ

教育的配慮

大切なことを大切にしろ

2016-09-19 18:39:38 | 日記
君の好きなものが、例えば鉄道だってそれは全然構わない。君はきっと紙の上に点と線を書きつけて路線図を描くだろう。山手線だろうが常磐線だろうが駅名はいつのまにか全てすっかりそらんじている。そのうち君は、ある鉄橋を渡る列車の写真を撮るために、地形図や時刻表を丹念に調べ始める。鉄道の歴史や廃線の跡を知るために図書館に行って本や資料を探す。
図書館の書庫に下りて、本棚の隅にようやく探していた本を見つける。開くとほこりの匂いがする。裏表紙を開けてみる。そこに貼られている貸出票の日付印。なんと君は10年ぶりの借り手だ。誰にも読まれず書庫の檻の中に眠っていた本。それを今、君が手にする。なんとなくうれしくなる。それは君がちゃんと道を踏んでいる確かな証拠だ。十年前、この道をたどった誰かと同じように。
あるいは君は、ある日の夕方、ふと空を見上げると沈みかけた夕陽に照らされてたなびく雲が流れてゆくのを眺める時がある。ちぎれた細い雲の先の空は、もう群青色に覆われて、青がすっかり濃くなっている。そこに君は小さな星が輝いているのに気づく。瞬く星は、風に消されそうだけど、僅かな輝きは失われることがない。でもその光は果てしなく遠くにある。君はその時の、そんな気持ちを忘れないでほしい。それは時を経て、繰り返し君の上に現れる。それはいつか読んだ小説の中にもあったし、山崎まさよしの歌の中にもある。あるいは一千二百年前の「万葉集」の中にでも。
調べる。行ってみる。確かめる。また調べる。可能性を考える。失われてしまったのに想いをはせる。耳をすませる。目を凝らす。風に吹かれる。その一つ一つが君に世界の記述の仕方を教える。