中国人理解/異文化理解

「中国人とうまくつきあう実践テクニック」(総合法令出版)著者による公式ブログ

アジアビジネス成功の秘訣<その3> 「本領主義」

2014-01-20 | ■海外市場開拓セミナー

アジアビジネス成功の秘訣の3つ目は「本領主義」です。「本領主義」とは、読んで字の如く「本領」を発揮することです。つまり、自分の「強み」を見極め、その「強み」を徹底的に主張し、「強み」をビジネスに活かすということです。アジアビジネスで成功を収めるためには、まずは自らの「強み」を見極めることが第一歩という考え方です。

■「強み」を見極めること、その「強み」を徹底的に発揮すること・・・

リーマンショック、そして尖閣問題を経て、日本企業が中国ビジネスに取り組む姿勢がだいぶ変わりました。「何かビジネスチャンスがありそうだ・・・」、「何かやりたい・・・」という声はほとんど聞かなくなりました。「何かできそうだ・・・」、「とにかく行ってみよう・・・」という方もいなくなったようです。「とにかく中国・・・」、「中国に乗り遅れるな・・・」とばかり中国に眼を向けていた時代は終わったようです。

今、ブームの矛先は東南アジアに向いています。「とにかく行ってみよう・・・」、「乗り遅れるな・・・」という方を今度はベトナムやミャンマーで見かけることがあります。かつて、中国を「ばら色」の可能性と考えた企業が、実は「茨」の道に迷い込んでしまったように、「チャイナリスク」を避けるために東南アジアに向っている企業も、今度はベトナムで、ミャンマーで苦戦を強いられることになるのではないでしょうか。

結局のところ、「強み」を発揮できない企業はどこへ進出しても「茨」の道です。「強み」を徹底的に見極めること、その「強み」を徹底的に主張すること、これはどこへ行っても同じではないでしょうか。「本領主義」とは、自分の「強み」を徹底的に見極め、徹底的に「本領」を発揮することです。自社の「強み」がその地域のニーズに合うかどうか、求められている「強み」として通用するかどうか、これをを徹底的に考えること。これが「本領主義」です。

新たな進出先で中国企業との戦いに巻き込まれるというケースも耳にします。ビジネスチャンスの可能性があるところにはたいてい「華人」がいます。先回りしてネットワークを網の目のように張り巡らして貪欲にビジネスに取り組んでいます。どこへ行こうと中国企業との関わり(華人との関わり)は避けて通れないようです。

彼らは、ビジネスチャンスを得るためには多少の「リスク」がつきものと考えます。そのリスクを最小限に留めて、チャンスをモノにするために、スピーディに、フレキシブルに、チャンレンジ精神を発揮して、ビジネスに挑んでいきます。リスクを克服し、それを「強み」に転換し、ビジネスを切り開いていくためのノウハウ(智慧)とネットワーク(人脈)を持っているのです。

■御社の「強み」を1分間で話してください・・・

こんなことがありました。企業訪問時の出来事です。訪問先は台湾でも有名な大手セキュリティー企業で、公安や軍関係のセキュリティー・システムを一手に引き受けている企業です。グループの総裁がわれわれ日本からの視察団を迎えてくれました。彼は業界ではちょっとした有名人です。

一方、日本側はベンチャー企業の若手社長グループ。ミーティングはまず総裁のひと言から始りました。彼は開口一番、「君たちの会社の『強み』についてポイントを3つにまとめて、1分間で話してください」と切り出しました。決して高飛車な態度ではなく、チャンスがあればアライアンスの接点を探そうという彼の姿勢。相手が中小企業でも、ベンチャーでも、「強み」さえ持っていればその企業と対等に付き合う。こうした姿勢は台湾企業共通の特徴です。

逆に、日本側から見ると相手が大企業であっても物おじする必要はありません。海外では意外と敷居は低いものです。要は主張できる「強み」があるかどうか、その「強み」をきちんと主張するかしないかがポイントです。 しかし、残念ながら日本側は準備不足でした。いきなり「強み」を3つに絞ってと言われてもなかなか即答できるものではありません。

もし、「1分間で会社の『強み』を3つのポイントにまとめて言ってください」といわれたら、皆さんなら何を伝えますか?私が講師を務める「海外市場開拓セミナー<実践講座>」では、こんなワークショップも取り入れています。「強み」を徹底的に見極めること、これが海外でのビジネスを展開するとき、まずは自社で取り組むべき課題の第一歩です。http://www.asia-net.biz/20-2.pdf

■「三本主義」はそのまま日本企業が克服すべきウィークポイント

「三本主義」とは、「本人主義」「本土主義」「本領主義」の3つを指します。つまり、「経営者自ら(決定権を持つ責任者)が、ビジネスの最前線で陣頭指揮を執り、『強み』を徹底的に発揮してビジネスを進める」ということです。この「三本主義」にはアジアビジネス成功ののエッセンスが濃厚に凝縮されていると言えます。

台湾人経営者が言う「三本主義」を日本企業にも当てはめて考えてみた場合、果たしてどうでしょうか。もしかしたら、「三本主義」からそのまま日本企業のウィークポイントが見えてきそうな気がします。スピード、柔軟性、チャレンジ精神、それらを実行するためには「三本主義」が必要であり、日本企業の苦手な部分と言えるのではないでしょうか。

最後に個人的な見解ですが・・・。中国ビジネスはこれから進出しようという新規のビジネスはめっきり少なくなりました。しかし、逆に中国ビジネスに本気で取り組もうとする人が増えたように思います。「ホンキ度」が増したと言ってもいいかもしれません。「今だからこそ中国・・・」、「これからこそ中国・・・」という元気な企業を「三本主義」で応援していきたいと考えいています。


アジアビジネス成功の秘訣<その2> 「本土主義」

2014-01-13 | ■海外市場開拓セミナー

アジアビジネス成功の秘訣の2つ目は「本土主義」です。これは、「現場主義」と言い換えることもできます。ビジネスが実際に動いている「現場」を自分の目で見て、自分の足で歩き、肌で感じ、その現場で陣頭指揮を執るということです。「本人主義」に続いて、この「本土主義」もアジアビジネスで台湾人経営者が重視するポイントです。

スピーディーな経営判断を行うためには、ビジネスの「現場」で活きた情報収集を行う必要があります。そこで集めた情報の分析も「現場」で行い、「現場」で整理し、「現場」で分析し、「現場」で状況判断と意思決定を行うことが重要です。こうした徹底した「現場主義」がアジアビジネスを成功に導く「鍵」であると言えるでしょう。

台湾人経営者のコメントです。「会議室でいろいろ考えても仕方がない。まずは自分の足で現場を歩き、実際に自分の眼で見て確かめるべき」、「自分の耳で現場の生の声を聞いて、活きた情報の中から必要な情報を見極め、経営判断にすばやく役立てる」というのが台湾人経営者の考え。彼は「日本企業は責任者が現場に来ないケースが多い。どうやって経営判断をしているのか」、「とても理解できない」と考えているようです。

■事前のデータ収集はどこまで必要か?

私の事務所では中国や台湾ビジネスに関する「個別相談」を行っていますが、事務所にいらっしゃる方から「中国の経済指標や企業データを入手したいがどうしたらいいか」と相談されることがけっこうあります。相談に来る担当者の方は事業計画を立てるための資料集めが目的であるようです。

政府発表の「統計資料」を取り寄せたり、与信のために企業の「信用調査」を行ったり、熱心にデータ集めをする人がいらっしゃいますが、こうした取り組みはほどほどにしたいものです。実は集めたデータはすべて「過去のもの」です。まったく意味がないとは言いませんが、本当に活きたデータがどのくらい手に入るものでしょうか?データ集めはほどほどにしておきたいものです。

中にはあれもこれもとデータを必要以上に欲しがる人がいます。社内稟議に提出するためだけのデータ集めであったり、集めたデータが多すぎて混乱してしまう方もいました。(中国のデータの場合、出所によってはデータの根拠となる定義やデータ集めの切り口が異なっているケースも少なくなく、整合性を取るのがたいへん難しいケースもあります)

「上司を説得するためだけのデータ集め」というケースもありました。「何ヶ月もデータ集めだけをやっている」という方もいらっしゃいました。統計数字の確認で出口のない迷路に迷い込んでしまう人もいました。何のためのデータなのか甚だ疑問です。こうしたデータはあくまでも補足的な資料と考えるべきで、やはり大切なのは「現場の声」です。

■日本企業はデータ収集にこだわり過ぎる・・・

「日本企業はあまりにもデータにこだわり過ぎる」という声を台湾人経営者からもよく耳にします。ある日本企業の担当者に台湾人経営者を紹介したときのことです。台湾人経営者が「データ集めに奔走する時間があるくらいなら、まずはとにかく『現場』に来て欲しい」と日本人担当者を一喝。「本当にやる気があるのなら、もっとスピーディに動くべき」と意志決定が遅い日本企業に対して苦言を呈したこともありました。

「日本企業はリスクを洗い出して、そのリスクを避けるための方法を考えることに熱心」とはこの台湾人経営者のコメント。台湾企業はリスクは「避けるもの」ではなく、「立ち向かうもの」と考えます。リスクの裏には必ずビジネスチャンスがあると考えるからです。

魅力的なビジネスにはすぐに喰いつくのが台湾人経営者です。石橋を叩いてもなかなか渡らない日本企業に対して痺れを切らし、自らが訪日して日本人経営者に決断を迫ることもありました。彼らはリアルタイムで入ってくるビジネスの現場の「生」の情報こそが重要だと考え、スピーディかつフレキシブルに行動します。

■現場に行ってやっと理解する「現場を見ることの重要さ」

海外視察を企画し、日本企業の皆さんと現地視察に行くと、帰りの飛行機で参加者の皆さんから必ず出る感想があります。ほぼ必ずと言っていいほど聞くことができる感想です。

それは、「やはり現場に行かないとわからない」、「自分の目で見て来てよかった」、「実際の状況は想像していた以上だ」といったコメント。統計や企業データでは見えてこない現場のムードとか、そこで働く人たちの熱気とか、中国経済の勢いとかを現場に行って自分の目で確認してくることが重要なのです。

できれば、我々が企画する海外視察で「やはり現場に行かないとわからない」を確認するのではなく、自らの力で現場に飛び込んで行った欲しいものです。

次回のコラムでは「本領主義」を取り上げます。


アジアビジネス成功の秘訣は「三本主義」<その1> 

2014-01-06 | ■海外市場開拓セミナー

今回のコラムで取り上げるテーマは「三本主義」です。これはアジアビジネスを成功に導くための基本姿勢として、台湾人の企業経営者がよく使う言葉です。「三本主義」とは、「本人主義」、「本土主義」、「本領主義」の3つを指します。

1911年の辛亥革命で孫文が唱えたスローガンを「三民主義」と言います。これは「民族」、「民権」、「民生」とういう革命の3つの基本原則です。ここで紹介するのは「三民主義」ではなく、「三本主義」です。これは政治やイデオロギーの話ではありません。あくまでもビジネスの現場での話しとしてご覧いただきたいと思います。

台湾人経営者が唱える「三本主義」に我々日本人も学ぶべき点があるのではないかと思います。「三本主義」をひと言で表現すると、「経営者自らが、現場の最前線に立ち、徹底的に強みを主張すること」です。話を聞かせてくれた台湾人総経理は、「中国でビジネスを成功せさるためにはこれがすべてだ」と力説。その姿がたいへん印象的でした。

■「本人主義」とは・・・

まず、第一に「本人主義」とは、「経営者自らが率先してビジネスの陣頭指揮をとるべき」という考え方です。つまり、これはビジネスを「人任せにしない」ということです。経営者自らが現場で陣頭指揮をとり、スピーディーな情報収集と情報分析を行い、その場で判断し、その場で意思決定を行うことが重要です。変化に対してフレキシブルに対応していくためには、やはり経営者自らが現場に立つことが必要なのです。

責任者自らが現場に立てないケースもあるでしょう。その場合、現場責任者に「権限」がきちんと与えられているかいう点がポイントです。現場の責任者が「決定権」を持ち、それぞれの現場できちんとこの「決定権」が行使できる体制を作ることが必要です。台湾人経営者はこう考えます。

■責任者は誰・・・?

中国で日本企業誘致に携わる地方政府担当者からよくこんな話を聞きました。「日本企業は顔が見えない」、「誰が意思決定者なのかよくわからない」、「現場の責任者が決定権を持たされていないようだ」といったコメント。中国側から見ると、「意思決定ができる責任者がいない」というのはたいへん不思議な光景に映るのでしょう。組織で動く日本企業の実態を知らない中国人には「本当にビジネスをやる気があるの?」とも映るようです。

もちろん、最終的に意思決定をするのは「社長」です。しかし、日本企業の場合(特に大企業では)、社長は意思決定が済んだあとの「調印式」に儀礼的に現場に行くだけというケースもあります。さらに、調査から準備へ、法人立ち上げから工場の建設へ、実務レベルが下から順番に現地にやってくるというケースも奇異に映るようです。

日本の会社の場合、会社として方針決定に到るまで社内での根回しやスタッフ間の十分な意識の共有が必要であり、何度も稟議を重ねます。このように意思決定には一定のプロセスが必要で、一歩ずつ手続きを踏んで「組織」として意思決定がなされることが特徴です。

しかし、これが、日本企業が海外でビジネス展開をする際にブレーキにもなっています。台湾企業の場合、もし経営者本人が現場で陣頭指揮をとれない場合、だれに「権限」があるのかが明確にされます。経営者に代わって全権を委任される経営者の代理人が現場に臨み、強いリーダーシップを発揮して判断と決定を行っていきます。これが台湾企業のスタイルなのです。

次回のコラムは「本土主義」を取り上げます。