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星新一の評伝

 きょうの毎日新聞夕刊の文化欄に、星新一についての記事がありました。

 最相葉月さん:星新一の評伝を刊行 
   ショートショートに込めた思い浮き彫りに

  ノンフィクション作家の最相葉月さんが、日本SF界の先駆者、星新一(1926~97)の評伝に取り組んだ。『星新一 一〇〇一話をつくった人』(新潮社)。軽妙なショートショートで多くのファンを獲得した作家の、孤独と苦しみを浮き彫りにした力作だ。【岸桂子】

 新潮文庫の星作品は52点、発行部数は3000万部を超える。最相さん自身、小中学生時代に相当数を手にした愛読者だ。だが、6年ほど前に書店で手にした文庫『ボッコちゃん』に収められている、人類滅亡の未来を描いた「最後の地球人」を読んだ時、「こんなこと書いていたんだ」と大いに驚かされたという。

 「同時に、読破したわりに個々の内容について覚えていない自分は、何を理解していたのだろうか、とも」。先端科学の時事的なテーマと星作品をリンクさせるエッセーを『サンデー毎日』に連載しながら、星本人に対する関心を深め、連載を単行本にまとめた後、評伝執筆を決意。遺族に大量のメモや遺品を見せてもらいながら、関係者134人への取材を敢行した。

 星製薬の創業者、星一の長男として生まれ、父の死後、会社を継ぐ。だが、戦後の混乱で窮地に立たされた社内では、<君は何もしなくてもいいといった雰囲気>で本を読むしかない時期を過ごす。こうした「作家以前」の話が、丁寧に書かれている。

 「自身がほとんど書き残していない時代がある一方で、父や祖父の評伝を書いて肉親に強くこだわっています。それはなぜか。この部分をしっかり書かないと評伝は成立しないと考えました」

 作家になるまでの戦略に江戸川乱歩らの尽力があり、後半生は、そのまま日本SF史の隆盛と重なる。また、星のショートショートが人気を博した背景に、高度成長期の企業PR誌の存在があったことなど、戦後史として興味深い記述がいくつもある。

 ショートショートは、星自身がターゲットと思っていなかった10代に圧倒的に支持される一方、文壇の賞からは縁がなかった。<ぼくの話にはみんな笑い転げるのに、なぜぼくの小説では笑わないんだろうな。おもしろくないのかなあ-->。孤独感を募らせ、ショートショート1001編達成に向けて突き進むくだりは、胸がつまる。

 「私自身、読破した後は卒業した気になって、星を追い込んだ一人です。申し訳なかったと思うと同時に、書き続けるのは並大抵のことではないことを、私自身が書く世界に入って痛感しました。人生をかけただけに、最後は疲れ果てたのだと思います」

           毎日新聞 2007年6月5日 東京夕刊

  アッサリと、本が手に入りました。

 「憧れて小説家になったのではない。それ以外、道は残されてなかった」

 本の帯に大きく朱色で。

  序章と終章・あとがき・参考文献のなかに全12章570Pを超えるノンフィクション大作です。

 まず序章で、香代子夫人の回想する、家庭のなかの星新一を紹介します。

 いつだったか、夫が一日中家にいることに息が詰まりそうになり、たまにはスポーツでもやってみればいいのに、といってみたことがある。すると、新一は、とんでもないといった面もちでいった。

 『スポーツなんかやって頭がからっぽになっちゃったら、なんにも書けなくなるよ。頭をもやもやさせていないと書けないんだよ、小説なんて』

 まるで作家の仕事場に娘たちを連れて同居しているみたい。香代子はため息をついた(P8)

 
 次は、茗荷谷にあった東京高等師範附属中学校時代の新一(本名、親一)。

 「猛勉強しても駄目な人、たいして勉強していないのに成績のいい人がいますが、星は後者でした。授業はたいてい半分うつらうつらしながら聞いているのに、誰も答えられない質問にふらふらあっと手を挙げて、突然、正解を答えるような頭の良さがあった」と醍醐はいう。

 越智も、親一の秀でたところは集中力にあったと語る。

 「星は黙って考えている時間が長い。これは学者だったおじいさんの資質を受け継いだからではないでしょうか。ぼくは次々とひらめいて、悪く言えば考えることが移って拡がっていくんですけど、星は集中して掘り下げる」と語っている。(P62)

 デビュー当時の新一。

 「そして『ボッコちゃん』で得た好感触を機にますます創作にのめり込む新一の姿に驚き、心配したのが家族である。すでに結婚して独立していた弟の協一にはまさに青天の霹靂だった。

 『小説を書きたいなんてことは家では一度もいったことがなかったんです。だから何も知りませんでした。兄は小説を売り込む苦労は全然なかったんじゃないかな。最初から売ろうと思って書いている小説じゃない。売って金をもうけることなんか考えて書いていないんです。退屈だから書いていたようなもんですから』」(P240)

 見合いをした新一。

  「初対面で好感をもった新一と香代子は、それから映画へ行ったり、音楽会に行ったりしてデートを重ねた。だまっていても気まずくなかった。隣でじっと座っているだけで心の安まる人だと互いに思った。

 『結婚しようか』

 新一からそういわれたのは付き合い始めて間もないころだった。香代子もまた同じ思いだった。

 婚約中の二人がよく足を運んだのが、大磯と東京のちょうど中間地点の横浜である。山下公園近くのダンスホールでルンバやワルツをステップを踏んで踊った。新一は、二人で出かけたデパートで購入したキツネの指人形をコンちゃんと名づけ、かわいがっていた。

 『なにかおもしろい話はないかなあ』

 いつも創作の材料を探している様子だった。(P269)

 戦後の作家や評論家たちが、綺羅星のように登場するノンフィクションです。    

 





            ※クリエイト速読スクールHP 

 

 

 

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