CELLOLOGUE

チェロローグへようこそ! 万年初心者のひとり語り、音楽や身の回りのよしなしごとを気ままに綴っています。

竹西寛子『五十鈴川の鴨』

2017年08月07日 | 折々の読書
選び抜かれた言葉による短編集。どの作品も心を打つ。年齢を重ねた者にのみ分る悲哀、邂逅や別れ、織りなす巡り会わせなど、丹念に、かつ、研ぎ澄まされた表現を味読した。あたかも小津安二郎の映画を見るような感があると短絡したのはDVDの見過ぎだろうか(笑)。

作品のシチュエーションはさまざまである。被爆者であることの孤愁を淡々と描いたり(五十鈴川の鴨)、定年を過ぎた老夫婦それぞれに静かに襲いかかる衰えを描いている(椿堂)。また、時には人間の交流を物が象徴することもある(桜、挨拶)。悲しみだけでなく、ファンタジーや明るさを湛えた作品もあり、少女の「おじさん」への淡い憧憬を紡ぎ(木になった魚)、同じような境遇の老人の惹きあう心を家族関係を交えて描いたり(くじ)、性格も育ちも全く異なる教員と店員の奇妙な連帯が語られる(船底の旅)。

作者の筆はこれらの題材をしっかりと捉え、確かな世界を形成していると思う。いずれの作品も短いが深みをもっていて何度かはっとさせられた。このような世界は文学でなければ表現できないものだろう。さまざまな人生の世界をのぞかせてもらったように思う。
夏は読書である(笑)。

竹西寛子著『五十鈴川の鴨』(岩波現代文庫/文芸247)2014年10月刊.


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