1.日本の違憲審査の特徴
本論に入る前にまず、日本が採用している(と考えられている)違憲審査制度について少し述べる。日本国憲法の「司法」の項目の中に違憲審査制度について書かれていること、日本国憲法自体が司法審査制度を採用しているアメリカ法を継受したものであること、憲法裁判所等の規定が存在しないこと、これらのことから日本の違憲審査制度は司法審査であると考えられる。司法審査の特徴は、以下の要件をクリアしない限り基本的には違憲審査の対象とならないというところにある。
・具体的紛争性があること(法律上の争訟に該当し、法によって解決可能な、私人の権利侵害をめぐる紛争であること)
・紛争が司法権の限界内にあること(問題が統治行為や議院自律権などに絡まないこと)
2.合憲限定解釈の位置づけと意義
1でみてきた要件をクリアしてようやく司法は憲法判断が可能となるが、司法審査には大きく3つの次元がある。すなわち文面審査、適用審査、運用審査である。このうち合憲限定解釈は文面審査の次元に属する。
次に合憲限定解釈を定義する。合憲限定解釈を定義すると、「法令の条文をそのまま解釈すると違憲である可能性があるものについて、裁判所がその条文の意味を限定的に解釈することによって、その条文の合憲性を維持する解釈の方法」であると言える。
ではなぜ、裁判所は合憲限定解釈を採用するのか。裁判所は民主的に(積極的に)推薦された人々の集団ではない。一方、国会は国民の手によって直接選びだされた人々の集団である。そのような民主的正当性をもった国会の法律は極力尊重されなければならないし、その法律に少しの修正を加えることによって、その法律を延命させるためにも合憲限定解釈が採用される。
3.合憲限定解釈を用いた判例
合憲限定解釈を用いた判例として有名なのが都教組事件や福岡県青少年上例事件である。前者は地公法にいう「あおり」行為を限定的に解釈したうえで、案件の行為は「あおり」に当たらないと判断を下した。後者は福岡県青少年条例にいう「みだらな行為」を限定的に解釈したうえで、当該行為は「みだらな行為」に当たると判断した。
4.合憲限定解釈への批判
しかし、合憲限定解釈へは、当然ながら、以下のような批判がなされる。合憲限定解釈をおこなえば、法文の意味を不明確にしてしまい、どんな行為をしてはいけないのかが専門家にしか分からなくなってしまう。また、表現への規制については条文があることによって、表現活動自体を自粛してしまう可能性(委縮効果)があるので、そもそも合憲限定解釈をおこなうべきではなく、条文を廃止する必要がある。合憲限定解釈にはこのような批判に加えて、合憲限定解釈をおこなうことで本来の法の趣旨をねじまげてしまうおそれがあるとの批判もある。
5.合憲限定解釈の限界
先に見た合憲限定解釈への批判が合憲限定解釈の限界を示している。すなわち
)表現活動の規制を伴う条文の規制規定
)構成要件が判然としない処罰規定
については、合憲限定解釈が一層慎重になされなければならない。
本論に入る前にまず、日本が採用している(と考えられている)違憲審査制度について少し述べる。日本国憲法の「司法」の項目の中に違憲審査制度について書かれていること、日本国憲法自体が司法審査制度を採用しているアメリカ法を継受したものであること、憲法裁判所等の規定が存在しないこと、これらのことから日本の違憲審査制度は司法審査であると考えられる。司法審査の特徴は、以下の要件をクリアしない限り基本的には違憲審査の対象とならないというところにある。
・具体的紛争性があること(法律上の争訟に該当し、法によって解決可能な、私人の権利侵害をめぐる紛争であること)
・紛争が司法権の限界内にあること(問題が統治行為や議院自律権などに絡まないこと)
2.合憲限定解釈の位置づけと意義
1でみてきた要件をクリアしてようやく司法は憲法判断が可能となるが、司法審査には大きく3つの次元がある。すなわち文面審査、適用審査、運用審査である。このうち合憲限定解釈は文面審査の次元に属する。
次に合憲限定解釈を定義する。合憲限定解釈を定義すると、「法令の条文をそのまま解釈すると違憲である可能性があるものについて、裁判所がその条文の意味を限定的に解釈することによって、その条文の合憲性を維持する解釈の方法」であると言える。
ではなぜ、裁判所は合憲限定解釈を採用するのか。裁判所は民主的に(積極的に)推薦された人々の集団ではない。一方、国会は国民の手によって直接選びだされた人々の集団である。そのような民主的正当性をもった国会の法律は極力尊重されなければならないし、その法律に少しの修正を加えることによって、その法律を延命させるためにも合憲限定解釈が採用される。
3.合憲限定解釈を用いた判例
合憲限定解釈を用いた判例として有名なのが都教組事件や福岡県青少年上例事件である。前者は地公法にいう「あおり」行為を限定的に解釈したうえで、案件の行為は「あおり」に当たらないと判断を下した。後者は福岡県青少年条例にいう「みだらな行為」を限定的に解釈したうえで、当該行為は「みだらな行為」に当たると判断した。
4.合憲限定解釈への批判
しかし、合憲限定解釈へは、当然ながら、以下のような批判がなされる。合憲限定解釈をおこなえば、法文の意味を不明確にしてしまい、どんな行為をしてはいけないのかが専門家にしか分からなくなってしまう。また、表現への規制については条文があることによって、表現活動自体を自粛してしまう可能性(委縮効果)があるので、そもそも合憲限定解釈をおこなうべきではなく、条文を廃止する必要がある。合憲限定解釈にはこのような批判に加えて、合憲限定解釈をおこなうことで本来の法の趣旨をねじまげてしまうおそれがあるとの批判もある。
5.合憲限定解釈の限界
先に見た合憲限定解釈への批判が合憲限定解釈の限界を示している。すなわち
)表現活動の規制を伴う条文の規制規定
)構成要件が判然としない処罰規定
については、合憲限定解釈が一層慎重になされなければならない。