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「歴史と視点」

2010-01-03 | 日々のこと
本の読めない私司馬遼太郎の「歴史と視点」(新潮社)を買うに至った経緯を
今はもう思い出すことも出来ないけれど
おそらくは高校の漢文の授業で習った項羽にすっかり熱をあげて
全3巻にも及ぶ「項羽と劉邦」(新潮社)を買ったことがキッカケだったと思う。
何しろ本が読めない上に劉邦には全く興味がなかった私は
この「項羽と劉邦」の「項羽」だけを読んでいた←笑う所。
歴史小説を読むというより 司馬さんの項羽観だけを読んだわけ。
のちに司馬遼太郎というペンネームが司馬遷から取られたものだと知った。


「歴史と視点」。
「天皇は神である」と言われた昭和初期の日本人が
本当にそれを信じて日々を生きていたのかどうか、
グァムの密林から28年振りに帰国した旧日本陸軍の下士官は
本当にただひたすら陸軍の掟を守ってジャングルの密林に潜んでいたのだろうか、
それは「原因と結果を明快にしたがる歴史的記述」ではないのか?
そんなことを例にあげて、
要は歴史を共通の感覚で捉えようとするのは困難だ、という本。

初めて読んだのは まだ世間の「せ」の字も知らない頃だった。
司馬さんが青春期に体験した戦車という乗り物の話を織り交ぜて
昭和の戦争がいかに虚しく無意味だったかを説く興味深い本だと思った。
子供の頃に「天皇は神」だと教えられた経験の持ち主が
後の新聞記者時代、うっかり天皇陛下にぶつかってしまい
「あ、すみません」と謝った話だけを取ってしても
(この新聞記者時代の話は「歴史と視点」の中になかった。
どの本で読んだのか定かではないので記憶違いかもしれませんが多分 司馬さんです)
私にとっては充分な「歴史と視点」で 読む程に静かな興奮を覚えた。

その「歴史と視点」を急に読み返したくなったのは
年末に見ていたNHKの「坂の上の雲」で
本木雅弘と阿部寛の姿勢の良さが見事にハマる新興国家の軍人を見たせいなのか
(ややブラックな?)ユーモア溢れる渡辺謙のナレーションのせいなのか、分からない。
元旦、私にしてはあり得ない集中力でこれを読み返した。

司馬さんがその青春期に陸軍から渡された「愛車」、九七式中戦車
昭和12年に完成し各連隊に配られた。
もはやモデルチェンジの国力を持たない日本では終戦まで主力戦車であったらしい。
略称を「チハ車」といって「チ」は中戦車のチ、
「ハ」はイロハの順で3番目に開発されたことを意味している。
昭和13年製のチハ車が配給された際、
その砲塔にヤスリを当ててもキズひとつ付けられない鋼板だったのに対して
終戦間際の昭和19年製 チヌ車、三式中戦車の砲塔は
ざりざりと削れる木材同様の鉄板で出来ていて
司馬さんはこれを「ただの鉄 という戦車は、戦車の歴史で例がない 」
「戦争のできない戦車という 世界唯一の珍車」で
「同時期のどの国の戦車と戦車戦を演じても かならず負ける」と書いている。
当時のエリート指導者はこういう物を現場に与えて
「足りない所は大和魂で補え」と言ったふうだった。

物理的に足りない所が精神力で補えるハズはない。
そんなこと、敢えて言う必要性すら無い様な周知の事実だったし
将校も下士官も、各国の戦車の性能をその部門の専門家として十分に理解していた。
つまり「勝てるはずがない」と。
しかしながら現場では、職務を遂行する意外に道はない。
平たく言えば現代日本の「職場」も同じでしょう。
天皇が神であるはずがない、と、敢えていう必要すらなかっただけの話。
ジャングルの洞穴で28年もサバイバルな生活を送った横井さんは
「生きて虜囚のはずかしめを受けず」とかいう
陸軍の教えを忠実に守っていたわけではなく
職務を遂行する延長にいただけの話かもしれない。

この「歴史と視点」を考えるとき
いかなる戦争においても犠牲となった命の重さや 遺族の悲しみは同じであるはずなのに
なぜ戦国武将という英雄がいた一方で
世界の勝者によって裁かれた戦犯者がいたのか さえも分からなくなる。
やっていることは同じ「戦争」における「侵略」なのに。

本当の「歴史」はいつも、その時代を生きたひとりひとりの中にあると思う。





あ、申し遅れましたが あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。




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5 コメント

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Unknown (artisan)
2010-01-03 23:28:55
NHK番組の影響も大きいようで、世の中、時代小説(日本の近代史)一色のようです。
それも司馬史観に彩られ ‥‥、
今日からは司馬のものとは違いますが「龍馬伝」がスタート。
福山クン、カッコ良いじゃないですか。

歴史小説は確かに欣喜雀躍させるエネルギーがありますね。
しかし一方これと歴史記述は異なるということは知っておきたいものです。

その「歴史と視点」は読んでいませんので適切なコメントはできませんが、ご紹介のような内容であれば、司馬さんが『坂の上の雲』の映像化を封印させてきた理由も分かる気がします。
NHKは映像化企画にあたり、遺族の承諾を得たとしていますが、本人の意志の方をこそ大切にすべきだったのでしょうね。

ところで、その後「項羽と劉邦」は読破されたのですか?
本年もお仕事 + 旅 + デザイン + 美術 + スイーツ + 読書 + etc、で楽しませてくださいね。
返信する
コメントありがとうございます! (サワノ)
2010-01-04 20:31:25
artisanさん あけましておめでとうございます。

福山龍馬、ご覧になりましたかー。
私は見てないんです

「坂の上の雲」がこんなに話題になっているとは全く知らず、
先程ネットでどのような問題になっているのか調べてみました。
司馬さんが映像化を封印していたという話、
artisanさんの年末のブログで初めて知ったくらいです。
第二部は2010年12月!乞うご期待!と聞いて
ちょっとやる気をそがれましが....
ドラマを見ることで司馬さんがおそれていたモノは何なのか
それも考えてみたいと思いました。

「項羽と劉邦」は読まれたのですか?
私は今もって劉邦に興味がわかず(そういう問題じゃないですよね 笑)
読破には至りませんー。

今年もご指導よろしくお願い致します
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今年もよろしく (シンジ)
2010-01-04 22:33:25
[THEサワノ節!!]ってなエントリーだね~
オレも坂の上の雲みた、役者がいいよな
返信する
Unknown (マツ)
2010-01-05 11:17:43
あけましておめでとう

今年もサワノちゃんのブログ、楽しませてもらうよん。
いつも時間がたちすぎてコメントしそびれちゃうけど、ちょくちょく読んではおりますので


そういえば項羽にはまってたよね。
その時勝手に「すごーい!サワノちゃん、三国志全部読んだんだ~!」と勘違いして尊敬してたなあ。

そうそう女子美が120周年なんだね。今年は。
その手の手紙は実家に届くので知らなかったけど、
サワノちゃんのブログで知ったさ。
ぜひ今年こそ行きたいね。
みんなに連絡して母校に集合!ってのはどお?
返信する
コメントありがとう☆ (サワノ)
2010-01-05 22:56:12
シンジくん
そうそう、役者がいいんだよねー
すごい役者ばかり出てくるので
「坂の上の雲」に出ていないすごい役者って誰だろう?
なんて考えていたくらい!

マツ
あけましておめでとうー。
今年もよろしくね。
わー、私、大学の頃も項羽が好きって言ってたんだ?
覚えていない、笑!
(ちなみに「項羽と劉邦」は「三国志」ではないんだよ)
女子美 行きたいっ!
ホントは思い出の学食に行きたいけど
この年で学校に潜入....は、さすがに無理かなぁ?
また近いうち遊んでねー☆
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